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絆の証は契約と共に  作者: 伊達 翼
幼年期放浪編
10/22

第七話『二つの契約』

 リテュアに到着し、帝都リティアの東の住宅街にあった空き家を借りてから早数日。


 とある昼下がりの頃。


「建前の博物館巡りも飽きたな」


 リビングで寛いでいたゼロがそう言い放った。


「そぉ? 僕は楽しかったけど」


「私も意外と楽しめました」


 子供達にとっては珍しかったのだろうが…


「俺はもう見飽きたんだよ」


 世界を巡ってきたゼロにとっては博物館に展示された物はどれも見飽きるほどのものだったらしい。


「古代遺物って、そんなに珍しくないの?」


 ゼロの様子から忍がそんな疑問を口にすると…


「いえ、古代遺物自体は稀少価値が高いと聞きますので、このおじさんの感覚が異常なだけですよ」


 その問いには明香音が答えていた。


「そっか。やっぱり、おじさんって変なんだねぇ~」


 明香音の答えに妙に納得する忍でした。


「お前ら…一応は師匠に対してその態度はなんだよ?」


「「だっておじさんだし」」


「お前らなぁ~」


 そんなやり取りをしていると…


「さてと…じゃれ合いも程ほどに…俺はちと出掛けてくる。鍵はお前達に預けとくからお前らも夕方までには帰って来いよ?」


 真面目な表情でゼロが言うと…


「うん、気を付けてね」


「犯罪に手を染めないでくださいね」


 忍はともかく、明香音はそう言う。


「よし、明香音。お前が俺のことをどう見てんのか、帰ったらじっくり聞くわ」


 そう言いつつもゼロは借り家から出て行った。


「どうしよっか?」


 ゼロが出て行った後に忍が明香音に尋ねる。


「そうですね…またリースリングさん達とご一緒しますか?」


「そうだね。あ、でも今日はスイミランちゃんがいないとか…」


「まぁ、大丈夫なのでは?」


 そんな話をしつつ玄関から出て鍵を閉め、お隣さん家へと向かう忍と明香音だった。

 それには当然、庭で待機していた天狼も同行していた。


『今日もあの娘達と出掛けるのですか?』


 後ろに付き従う天狼が尋ねる。


「うん、そのつもりだよ」


「まぁ、1人いないと思うけどね」


『ふむ…』


 それを聞き…


『ところで、あの男は? 今しがた出て行ったようですが…』


 あの男…というのはもちろんゼロである。


「おじさんなら、また何処かに出掛けてったよ?」


「何か気になることでも?」


『いえ…またか、と思っただけです』


 2人の言葉に天狼は軽く言葉を濁した。


『(この2人は気付いてないようだが…あの男から漂ってくる微かな血の匂い……遺跡とやらか…)』


 2人に悟られぬようについていきながら、天狼は思案する。


『(あの男の話が本当なら、この大陸での遺跡は帝国とやらが管理しているはずだが…どういうことだ?)』


 お隣さんなのですぐにユウマ達を呼びに行った忍達の後を付いている天狼はゼロの行動を考える。


『(単なる出稼ぎ…にしては血の匂いが薄く感じたし、その程度の魔獣達を倒しても大した値には………)』


 そこまで考え、天狼は人が魔獣討伐に払う金の相場がわからないことに気付く。


『(……まぁ、今あれこれ考えても仕方ない。問題は、あいつから感じる微かな血の匂いだ。主達も気付いてないようだからそこまで気にすることもないだろうが……それとも何かを探しているのか?)』


 そして、ここがどういった大陸で、どのような国なのかを思い出し…


『(古代遺物…か?)』


 そんな結論を出す。


『(だが、あいつにそのようなものが必要なのか?)』


 しかし、そういう疑問を抱く。


『(…………わからん…)』


 という風に天狼が考えている間に…


「毎日付き合ってもらってごめんね、リースリングちゃん」


 どうもユウマ達も予定がなかったらしく、忍達に付いてくるようだ。


「いえ、お兄さん達とのお散歩も楽しいですし」


「…………………」


 ユウマの背中に隠れるようにアイリもいた。


「今日はデヒューラちゃんがいませんから…アイリちゃんのことはぼくに任せてください」


 そんなユウマの言葉に…


「私達よりも少しだけ幼いのにしっかりしてますね」


 明香音が感心したような声を漏らす。


「えへへ」


 その言葉が嬉しいのかユウマが照れたような笑みを浮かべる。


「それじゃあ、今日はちょっと南側まで行ってみよう」


 帝都の南側…商業区域とも言われている人通りの多く、子供達だけでは少し危なそうにも感じる。


「え、ぼく達だけで、ですか?」


 何度か親と買い物に出向いているユウマは忍の言葉に少しだけ不安そうな表情になる。


「大丈夫だよ。何かあっても僕と天狼が何とかするから」


『そもそもそんな問題のある場所に主達を近付けさせませんが…』


 胸を張る忍に対して天狼がそう言う。


「そういうことなら…ちょっとくらい、いいのかな…?」


 天狼という護衛(?)がいるので、ユウマも若干安心したのか頷いてしまう。


「じゃあ、出ぱ~つ!」


 そして、忍達は南の商業区域へと出発するのだった。


………

……


 一方で、場所は北の研究区域では…


「…………………」


 古代遺物の博物館は一般公開されており、場所も比較的中央や東西の住宅街に近い場所にいくつか建っており、研究機関はその奥に密集していて関係者以外は基本的に立ち入り禁止となっている。


「この辺かなっと」


 そんな中、本来なら関係者以外立ち入り禁止の場所に白昼堂々侵入した者がいた。


「てか、警備ザラじゃね?」


 誰あろうゼロである。


「ん~…ま、気付く方がおかしいか…」


 そんなことを言って澄ました顔で堂々と道を歩き出す。


「さてはて…お目当てのもんはあるかね?」


 と言って進む先には地下へと向かう入り口があった。

 地下…つまり古代の遺跡への入り口である。


「出来れば二機分…あとはオプションとかも欲しいな。成長段階に応じてあいつらに与えていけば…」


 そんな風に未来プランを考えていると…


「今日は訓練目標はどうだ?」


「はい。こちらが魔獣達の間引きに関する資料です」


 ゼロから見て前方の分かれ道から2人の騎士らしき男達が現れる。


「む?」


「おろ?」


 一瞬、上官らしい騎士がゼロの方を見て、ゼロも意外そうにそれを見ていると…


「隊長、どうかしましたか?」


「……いや、何でもない」


 隊長と呼ばれた騎士が資料に目を落としていた。


「へぇ~」


 それを見たゼロは少し感心したように隊長と呼ばれた騎士を見る。


「にしても、今日は間引きの日だったか。さてはて、何人俺に気付くかな?」


 悪戯っぽい表情を浮かべ、ゼロは再び遺跡の中へと歩いていく。


 ちなみにゼロは自らの体を薄い魔力と霊力の膜で覆っており、その膜には遮音機能と認識阻害の術が組み込まれているので、誰にも気取られずに行動出来ているのだが…。


「(ま、絶対ってわけでもないしな)」


 さっきのように気付けそうな人間もいるのだ。


「ま、別に問題は無いがな」


 そう言い残し、遺跡の中へと侵入する。


………

……


 そして、子供達はというと…


「いい加減にしなさい!」


 南の商業区域の大通りを歩いていると、路地裏から何やらそんな声が聞こえてきた。


「?」


『主。気にせず、行きましょう』


 声のした方を見る忍に対し、天狼は冷静に進言する。


「でも…」


『リースリング達もいるのです。流石に我では守り切れません』


 天狼の言葉は尤もだ。

 敢えて危険に飛び込むこともあるまい。


 だが…


「なんだか…気になるんだ」


 忍は路地裏に続く建物と建物の隙間に入っていく。


『あ、主!?』


「ベニガミさん?」


 天狼の声に気付き、前を歩いていたユウマ達も建物の陰に移動してしまう。


「(この辺かな?)」


 路地裏に積まれた箱を隠れ蓑に声のした方へと近づいていく。


「私達は確かに妖怪です。人とは相容れない存在なのは重々承知です。ですが、人と同じ身を持つ者として最低限の秩序を守らねばなりません」


「そんなことしたって人間共が俺らを理解するわけがねぇだろうが!!」


「それでもです。私達の存在は人々を不安にさせてしまう。だからこそ、表立っての行動を慎む必要が…」


「んな説教は聞き飽きた! 俺らに協力しないってんならお前達はもう必要ねぇ!」


 何やら言い争う声が木霊し、険悪な雰囲気が漂い始める。


「ゆ、ユキさん…」


「シズクさんは無理をせずに逃げてください。ここは私が…」


「はっ! たかが女一人で俺らを止められると思うのかよ?」


「あまり舐めてると痛い目を見ますよ?」


 まさに一触即発という空気が流れる中…


「天狼!」


『くっ…致し方ないか』


バッ!


 忍の声に応えるべく天狼が路地裏に躍り出て…


『ウオオオン!!』


 そこにいた女性2人と男達の間に雷撃の柱を檻状にして展開していた。


「な、なんだ、こいつ!?」


「あなたは!?」


 どちらも驚いたような声を上げるが…


『話は後だ。主よ!』


「こっち!」


 天狼が時間を稼いでる間に忍が女性2人の手を引っ張って表の通りに逃げる。


「明香音ちゃん、リースリングちゃん達と走って!」


「ちょっ!?」


「あ、ベニガミさん!?」


 アイリを急遽おぶってユウマも忍の後を追う。

 それを見てから明香音も走り出し、最後に天狼が路地裏から駆けてくる。


「ちっ! あのガキ共、何処に…」


「あっちだ!」


 少しして男達も路地裏から出てきて忍達の逃げた方へと走り出す。




 男達は走っていたが…


「………………………………」


 フードを深く被り、黒装束を身に纏った人物が反対側の路地裏からその様子を見ていたとも知らずに…。


「思わぬ形だったが、事態が動き出したか…」


 そう一言漏らすと、黒装束の人物は消えるように姿を消す。




 女性2人の手を取って逃げた忍達だったが、土地勘のない忍の先導で逃げたためか…


「あれ?」


 いつの間にか、南西に位置する倉庫街に迷い込んでしまっていた。


「ここって…どこ?」


「「え…」」


 忍に手を引かれてた女性2人もその言葉に戸惑う。


「見た感じ、倉の密集地帯みたいだけど…具体的な場所はちょっと…」


 そんな中、明香音が周りを見ながら忍にそう伝える。


「僕も無我夢中だったから…どう来たのかわからないや」


 忍も困ったように周りを見回す。


「はぁ……はぁ……はぁ……ごほっ…」


 それに対してユウマは肩で息をしていた。

 鍛えてる忍と明香音はともかく、こんな風に走ったのが初めてかもしれないユウマはアイリをおぶってたこともあり、消耗が激しかった。


「大丈夫ですか?」


 片方の女性…シズクと呼ばれた方…がユウマの元に近寄ってハンカチで汗を拭ってあげる。

 心なしか、そのハンカチは少し湿っていて今のユウマには心地よかったとか…。


「ぁ、はい…ありがとう、ございます…」


 ちなみに…


「…………………」


 アイリはユウマの背にギュッとしがみついて離れようとしない。


 それを見てか…


「助けていただき感謝はしますが、あんな小さい子まで巻き込むのは感心しませんね」


 もう1人の女性、ユキが忍にそう言っていた。


「うっ…」


 言われて忍も自分の行動が軽率だったことは自覚していたのか…


「ごめんね、リースリングちゃん、ノージェラスちゃん……僕のお節介に巻き込んじゃって」


 ユウマとアイリの元に行って謝っていた。


「…………………」


 すぐに行動に移した忍に少し驚いていると…


『主はああいうお人だ。どうにも好奇心旺盛で困りものではあるが、純粋なのだ』


 ユキの隣に来た天狼がそのように忍を評する。


「やはり、契約獣でしたか…」


『うむ。我が名は天狼。名は主より賜りしもので、付き合いもまだ一年に満たないが、それでもあの方と共にあることを誓った身だ』


「少しだけ、羨ましいですね」


 そんな天狼をユキは羨ましいと言った。


『まぁ、契約の際、主の方からこの契約を破棄しても構わぬと言われたがな…』


「え…?」


『話はここまでだ。囲まれているな…』


 話を切り上げ、天狼は周囲を警戒する。


「っ!」


 ユキもそれに気付くと、すぐさま警戒して周りに気を配る。


『主よ、どうする?』


 警戒しながらも天狼は忍に指示を仰ぐ。


「えっと…」


 困ったように忍も周りを見て答えを出そうとする。


「とりあえず、お話ししよう?」


『相手が対話を望んでいればいいのですが…』


「流石にそれは楽観が過ぎるでしょう」


 忍の言葉に天狼とユキが難色を示す。

 壁際にいるユウマ、アイリ、シズクを守るようにしながら忍と明香音が前、天狼が右側、ユキが左側に陣取っている。


「すみません。お話だけでも聞かせてもらえませんか?」


 忍が周囲の気配に向かって声を掛ける。


「なっ…あなた、状況が分かっていて?!」


 忍の声掛けにユキが苦言を呈すると…


『まぁ、少し静かに見ていろ』


「えぇ…?」


 天狼がそれを諫め、ユキは困惑の色を強める。


「お願いです。どうかお話を聞かせてください。どうして、こんなことになったのか…」


 忍は対話を諦めない。

 相手が何者であろうと、まずは話し合うべきだと直感的に思ったからだ。


「話だぁ? そんなもん必要はねぇんだよ!!」


 周囲を囲っていた内の1人だろう男が歩み出てそんなことを言い放つ。


「ガキが出しゃばりやがって! 余計な手間を取らせんじゃねぇよ!!」


 男の怒声が響き渡り…


「ひぅ……ふぇぇ…」


 ただでさえ怯えてたアイリが泣きそうになるというか、もう泣きそう。


「っ!」


 背中越しに聞こえたアイリの泣き声に反応してユウマが一歩前に出る。


「あ、君!?」


 それをシズクが止めようとする。


「恥ずかしく、ないんですか…?」


「あぁ?」


 忍と同じくらい前に出たユウマが言葉を言い、男が怪訝そうな表情をする。

 微かに体が震えているが、ユウマは勇気を持って男に言葉をぶつける。


「こんな大勢で、この人達が何をしたと言うんですか? 女性にこんな風に囲んで、恥ずかしくないんですか?」


「リースリングちゃん…」


 忍もユウマの啖呵に些か驚いていたが…


「この子の言う通りだよ。僕よりも大人なんだし…話し合いで解決することは出来ないの?」


 忍もまた大人相手に真剣な眼を向けて言っていた。

 だが…


「うるせぇ!! ガキが分かった風な口をきいてんじゃねぇよ!!」


 男は感情のまま、ユウマを蹴り飛ばそうとする。


「リースリングちゃん!」


 それを忍が気を用いて防ぐが、大人と子供では体格が違うので簡単に吹き飛び、ユウマも巻き込んでしまう。


「くっ…!?」


「あぅ!?」


 忍はともかくユウマは背中にアイリをおぶっている。


『主!』


「危ない!」


 忍は天狼が体を張って受け止め、ユウマとアイリはシズクが優しく抱き留めていた。


「あなたは! 子供相手になんてことを!」


 それをユキが非難するように男を睨む。


「うっせぇ! そもそもテメェらが俺達に協力しないのが悪いんだろうが!!」


「自分達のことを棚に上げて…!」


 男の言い分にユキが怒りを覚えていると…


「どうして…そんなに人を毛嫌いするの?」


 天狼の体から起き上がりながら忍が男に尋ねる。


「はっ! これだからガキは何もわかっちゃいない。いいか? 俺達、妖怪にとって人間は食料だ。その精気を俺達に吸われればいいんだよ! 死ぬまでな!!」


 "ギャハハハ"と品のない笑う男に…


「違う…」


「あん?」


「人も妖怪も…魔獣や霊獣、龍種だって等しく生きているんだ。そこに差なんてない。一方的に搾取するなんて間違ってる。だって…そんなの悲しいだけだから……だから、僕達はあなた達と契約して一緒になるんだよ。共に生きていくために…」


 忍が力強い眼差しで男を見て、その言葉を否定する。


「ッ…」


 忍の眼差しに一瞬怯んだのか、男が一歩だけ後退る。


「(子供なのに…こんな風に考えてくれる人間もいるのですね…)」


 そんな忍の言葉に心打たれたかのようにユキも忍を見る。


「……よし」


 シズクも抱き留めていたユウマとアイリをそっと降ろすと、ユキの隣に立つ。


「ユキさん、私もあの子達のために頑張ってみます」


「シズクさん…」


「あんなに小さい子達が頑張っているのに、私が頑張らない訳にはいきませんもんね」


「……えぇ、そうね」


 ユキもシズクの覚悟を悟ると、周囲を囲う者達との戦いを決意する。


 と、その時…


カッ!!


 忍とユキの体が淡く光る瑠璃色のオーラに、ユウマとシズクの体が淡く光る水色のオーラにそれぞれ包まれていったのは…。


「!? な、なんだ!?」


「わっ!? なになに!?」


「忍君!?」


 ユウマや明香音、目の前の男や周囲の気配も動揺する中…


「これって、もしかして…」


『これは、我の時と同じ…!』


 一度経験している忍と天狼が驚く。


『契約だ』


「「「「ッ!?」」」」


 天狼の言葉にユウマ、明香音、ユキ、シズクも驚く。


「お姉さんとぼくが…?」


「………………………」


 ユウマが同じ光に包まれるシズクを見て、シズクもまたユウマを見る。


「これが、契約…」


 ユキも驚いたように自分の手と忍を交互に見る。


「天狼!」


『御意!』


 忍が天狼に呼びかけ、結界を張る。


『これでしばし時間は稼げる。今の内にこの"契約"をどうするか考えろ!』


 天狼の言葉にユキとシズク、ユウマは考える。


 そんな中…


「僕はもう決めてます。天狼の時にも言いましたけど…僕とお姉さんはまだお互いのことを知りません。だから、この契約を破棄しても構いません。僕はお姉さんの意思を尊重します。根に持ったりしません。だから、自分の決断を信じてください」


 忍は微笑みながらユキの眼を見る。


「……………………」


 その言葉にユキも信じられないような表情で忍を見た。


『我が主…あなたという人は…』


 自分と契約した時のことを思い出したのか、天狼は苦笑していた。


「(この子は、本気なの? 契約とは稀少な現象。それなのに、破棄してもいい? 確かにお互いのことを知らない。会ったのも1、2回程度。ここで破棄したとしても…きっとこの子は本当に根に持たないでしょう。ですが…私はどうなのでしょう? この子の無鉄砲さは放っておける? きっとこの先もこの子は危ないことに首を突っ込む可能性が高い。それをみすみす見逃してもいいの? この子の未来のために、私は…)」


 ユキがそのように考えている横では…


「お姉さん…ぼく、どうしたらいいのかな?」


「私と契約、したくない?」


 シズクが座ってユウマの視線まで自分の視線を合わせると、そう尋ねていた。


「よくわからない…」


「そう…」


 やっぱり、この子に契約は早いのか…そう考えた時だ。


「でも…」


「?」


「ぼく、お姉さんが困ることはしたくない…」


「……………………」


 そんなユウマの言葉を聞き…


「(…なんて、優しい子なの。自分のことよりも相手のことを思いやることの出来る子なのね。だったら、私は…)」


 シズクは決意した。


「大丈夫よ。お姉ちゃんがあなたと一緒にいるから」


「え? で、でも…」


「迷惑だなんて思わない。私は、これからはあなたと共に生きるわ。だから、私と契約して…ね?」


「……………………」


 優しい笑みを浮かべてユウマの頬を撫でるシズクを見て…


「…………………うん!」


ユウマの方も頷くと…


「うっ!?」


 ユウマの脇腹に痛みが走り、数秒後には痛みが引く。

 服に隠れて見えないが、ユウマの左側の脇腹には雫のような刻印の契約紋が表れていた。


「これからよろしくね。えっと…」


「ユウマ。ユウマ・リースリング。こちらこそよろしくね、『アリア』お姉ちゃん」


「アリア、か。うん、いい名前をありがとう」


 こうしてシズク改め『アリア』とユウマの契約は成立した。


「……………………」


 その様子を見ていたユキも決心したのか…


「あなたのような方と出会えたことに感謝を。私はこの契約を…受けようと思います。我が君…」


 そっと忍の手を取り、契約の承諾をしていた。


「うん。よろしくね、『白雪(しらゆき)』さん」


「はい。我が君」


 ユキ改め『白雪』と忍も契約も無事成立し、忍の右手の甲に雪結晶のような刻印の契約紋が表れる。

 忍は一度、契約紋が刻まれる感覚を覚えていたので、特に痛がる様子はなかった。


『さて、契約が無事済んだのはいいが…これからどうする?』


 という天狼の言葉と共に結界が"バリンッ!!"という音と共に破壊されてしまった。


「ふざけやがって! 人間と契約しやがった裏切り者はこのまま始末してやる!!」


 男が自らの妖力を迸らせた時だった。


「そこまでだ」


 突如として、そのような声が響き渡っていた。


 その場の全員の意識が声のした方へと向けられると、そこには…


「君達は包囲されている。無駄な抵抗はやめることだ」


 帝国騎士団所属の騎士達がいた。

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