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エリック・ゼカリア

2017年4月 アメリカ カリフォルニア州 ポータービル

 地平線に沈もうとする太陽が照らしているのは、数多くの家が配置されている住宅地。その中の一つ、ある一軒家で女性の怒鳴り声が轟く。



「あなたはいっつもそう! なにがトレジャーハンターよ! 石ころばっかり拾ってきて! あなたがそんなんだから夢だった子供も作れないんじゃない!」



 その女性は一方的に怒鳴っている。怒鳴られているのは作業着を着ており、土や泥でかなり汚れている30代の男だ。玄関で立ち尽くし、両手を小さく開いて呆れている。



「いや、これは石ころなんかじゃない! これが売れるんだよ! 分かってくれ!!」



 すると、女性も呆れた様子で再び怒鳴る。



「もういい! 離婚よ! 私は家を出るわ! もう荷物はまとめてある。じゃあね」



 女性はリビングにある大きなバッグを取り、玄関から出ていこうとする。それを男は止めようとするが、女性は止まらない。



「おい! 待ってくれよ! 離婚は言い過ぎじゃないか!?」



 それでも女性は無視して玄関から出ていく。そして、去り際に「さよなら」と一言残して早歩きで去って行く。男はそれを少し追い掛けるが家の前の歩道で諦めて、その場に取り残される。

 その後、頭を掻きながら家に戻り、冷蔵庫から瓶ビールを取り出してリビングのソファに座り込む。そして、蓋を開けてビールを口に含み、ゆっくりビールを流し込むとため息をつく。



「何でだよ……クソ!!」



 テレビのリモコンを壁に投げつけると、そのまま男は酒を飲み続け、いつの間にか眠りに付いていた。

 そして、日は沈み、街灯が街を照らす頃、午後11時過ぎに男は目覚めた。



「んぁ……ん……もうこんな時間か」



 男は立ち上がり、フラフラと歩きながら玄関へ向かう。そのまま外に出るとある場所に向かって歩く。そこは男が通いつめているバー『ダーウィン』だ。店や看板はこじんまりとしており新規の客が来る事は滅多にない。

 男がフラフラとおぼつかない様子で店に入るとマスターが男に声を掛ける。



「よお、エリック! なんだ、もう出来上がってんじゃねぇか! なんかあったのか?」



 すると、男は相変わらず閑散としている店内を見回すとカウンター席に座りながらこう返す。



「やあ、チャールズ。実は嫁に逃げられちまってよ。なにがトレジャーハンターよ! だってさ」



 チャールズはエリックがいつも飲むバーボンを笑いながらグラスに注ぐ。



「ははっ、そうか。まぁ奥さんの気持ちも分かるよ。トレジャーハンターなのに一つも宝を見つけてなくて、稼ぎもほとんどないからな」



 エリックは胸ポケットからお金を払い、渡されたバーボンを一気飲みする。そして、エリックはトレジャーハンターになった経緯を話す。



「確かにそうだ。でも、俺はみんなと違う事をしたいんだ! 誰も知らない様な物を見つけたり、誰もしないような事をしたい! つまらねぇ人生なんて生きてる意味がねぇだろ」



 それを聞いたチャールズは説教を始める。



「いいか、エリック・ゼカリア。お前の気持ちは分かる。でも、もう30歳だろ? いい加減現実を見たらどうだ? 上手く立て直せば奥さんも戻ってくると思うぜ?」



 しかし、説教はエリックには響かなかった。



「お前は何も分かっちゃいない。俺はまだ諦めない! 絶対にな! お金持ちにならなくてもいい! 俺は世紀の大発見をするんだ!」



 そう言うと、チャールズは呆れ果てる。しんと静まり返った店の隅に置いてあるテレビにあるニュースが流れる。



「昨日、ロサンゼルスで隕石の様なものが落ちていく様子が目撃され騒然となりました。“一つの光”がデスバレー国立公園の方角に落下していったとの通報が多数あり、ネット上には動画も複数公開されております」



 このニュースを見たチャールズはあるテレビを指差す。



「おい、エリック。この隕石探しに行ったらどうだ? 隕石なら下手すりゃ億万長者だぜ? しかも、今の所誰の手にも渡ってない。距離も近いしこれを最後にするつもりでやってみろよ」



 エリックもテレビを見る。テレビで流れている隕石の動画に釘付けになる。エリックはバーボンを一口で飲み干すと、急いで立ち上がりこう言い放つ。



「これはいいぞ! 行くしかねぇな! 今すぐにでも行かないと! おい、チャールズ、ありがとうな! お前には感謝してるよ!」



 そして、バーから出ていくエリックは走って家に戻る。誰も居ない家に戻ると少し虚しくなるが今はそれどころでは無かった。急いで作業着に着替え、必要な物を取り、車の後部座席に突っ込む。エンジンを掛け、夜中の12時、閑散とした街から出る。

 しばらく車を走らせる事3時間、いくつもの山を越え、デスバレー国立公園に到着する。



「よし、あとは動画を見返して方角を見るだけだ」



 ポケットからケータイを取り出して動画共有サイトで映像を見る。動画と周りの景色を見比べながら見当をつける。地図と睨み合った結果、エリックは北東にある丘を目指す事にした。

 ライト付きヘルメットを被り、ロープを肩に掛け、ハンマーなどの工具が入ったバッグを背負って地図を片手に丘を目指して歩く。


 それから1時間半程小さな山や谷を越え、目指していた丘に着く。丘に到着したエリックはある洞窟を発見する。その洞窟は奥の方から青白い光が漏れており明らかに怪しい雰囲気を醸し出していた。



「なんだありゃ……誰か居るのか? 行ってみよう」



 ヘルメットのライトを調整し、ゆっくりと洞窟に入る。中は暖かく、コウモリや小さな動物、虫は全く見当たらない不思議な洞窟だった。



「何かがおかしい……」



 様子がおかしい事を感じながらも恐る恐る歩き進めていく。そして、最深部に到達した時、ある物を発見する。それは手の平サイズの小さな石だが直視出来ない程、青白く光っており、この世の物とは思えない物だった。

 その石に近付き、手に取ろうと手を伸ばす。



「これはなんだ……眩しい! これは高く売れそうだ!」



 手袋を嵌めてカバンを地面に置き、その青白く輝く石を手に取って、カバンに仕舞おうとしたその時、事態が急変する。その石は輝きを増し、エリックの右手に徐々に入り込んでいってしまう。



「うわ!! おいおい待て待て!!」



 手袋を焦りながら脱ぎ捨てるが、石は待ってくれるはずも無く手の平に吸収されてしまった。エリックの右手の血管が青白く光り、エリックは地面にうずくまって苦しみ出す。



「ゔゔゔぅっ!!! んあああ!!」



 すると、次の瞬間、その洞窟から工具が入ったカバンを残してエリックの姿が消える。そして、ある場所にエリックが現れる。エリックは苦しみが無くなり、体を起こす。しかし、そこはピンク色で六角形の模様が入った空が広がっており、エリックは地面が舗装された巨大な広場の様な場所に居た。少し遠くには高くそびえる黄金の建物がいくつも立っており、地球の景色とは思えない程の景色だった。



「なんだ、これは……ここは……」



 エリックが戸惑っているとエリックの背後から巨大な黄金の飛行船の様なものが飛んできていた。それは、徐々にエリックに近寄っていく。



「なんだあれ! ヤベェ!!!」



 エリックは全速力で走るがその黄金の飛行船はエリック以上の速度で迫る。そして、全力で走るエリックの頭に飛行船の底が当たり、そのまま態勢を崩し、倒れる。



「痛てぇ!! クソ!! 死ぬ!!!」



 飛行船がエリックを押し潰そうとした時、エリックは再び姿を消し、別の場所に姿を現す。そこは、空は澄んだ緑色に染まっており少し薄暗い。エリックの周囲には腰程まで伸びている小麦の様なものが生えており畑のような場所だった。

 小麦畑の様な場所に転移したエリックは頭を抱える。



「なにが起こってるんだ!! 流行りの異世界か!? ふざけんな!!」



 そう言いながら体を起こす。そこは一面に小麦の様な植物が広がっており、遠くにはポツンと石造りの少し大きな建物があるだけだった。



「空が緑色……? これは小麦畑か?」



 混乱しているエリックの視界にある物が入る。それは畑の1m程上空を飛ぶドローンの様なものだった。



「あれは、ドローンか?」



 そのドローンの様なものがエリックに近付く、エリックは少し身構えるが何もしてくる気配がない。そして、それを指でつつこうとした時、ドローンについていたランプが赤く点滅する。



「お? 俺の事が見えてるのか?」



 そう呟くと石造りの建物の方から地響きを立てて何かが近付く。エリックはそれの正体を見るために凝視する。



「あれは? ……なんじゃありゃ!!!」



 エリックは四足歩行の何かがかなり速い速度で近付いて来る事を確認する。そして、エリックも走って逃げ出す。畑の植物を手で素早く掻き分けながら走り続けるが、それはかなり速く、すぐ後ろまで来ていた。


 なんとか畑から脱出し、農道のような荒い道に出る。そのままの勢いで石造りの建物を目指して全速力で走る。しかし、四足歩行の何かも畑から出て来てしまい、エリックと同様に全速力走り出す。その風貌は大型犬程の大きさだが首の長さが犬の倍以上あり、毛ではなくウロコの様なものに覆われている。背中に二つのコブの様な物があり、地球の生き物とは思えない生き物だった。


 石造りの建物まであと10mという所まで来た所でエリックは石につまずき、倒れてしまう。素早く立ち上がろうとするが、もうその謎の生物は目の前まで迫っていた。立つことが出来ずに座ったまま後ずさりする。そして、その謎の生物が飛びかかろうとした時、石造りの建物の方から渋くて低い大きな声が響く。



「待て!!」



 すると、その生物は目の前で動きを止める。それと同時にエリックの後方から大きな足音が近付く。エリックが恐る恐る振り向くとそこには、身長が2m以上あり、全身が石で出来ているような屈強な体に大きな口、そして2本の腕を持ち、二足歩行の生物が居た。

 それを見たエリックは唖然とする。それとは裏腹に“石の巨人”はエリックに近付く。そして、“石の巨人”は再び先程聞いた低く渋い声でエリックに話し掛ける。



「あぁ、すみません。家のエアズが迷惑を掛けました。あなたは……ニビル人の方ですか?」



 その言葉に呆然としながらもアワアワと口をなんとか動かして声を出す。



「エ、エア……ズ? ……あ……えっと……俺はエリック。ア、アメリカ人だ」



 すると、その石の巨人はこう返した。



「アメリカ人? すみません、私の勉強不足で分かりかねます」



 エリックこの言葉使いに少し落ち着きを取り戻し、もう1度話し掛ける。



「あの、ここはどこだ? それにお前は何なんだ……?」



 そう言うと、その石の巨人は自分の腹部と思われる部分の石を少し砕いて、小さな破片をエリックに差し出す。



「ここはバリングル星のランダー王国ですよ? 私はバリングル人のオーガスタと言います」



 オーガスタはさらにこう続けた。



「あなたは記憶喪失かなにかですか? それに、少々違う所はありますが私にはニビル人にしか見えません」



 エリックは戸惑いながらオーガスタという名の石の巨人の欠片を受け取る。そして、バリングル星という名の星に来てしまった事に驚く。



「ここは地球じゃないのか!? それに記憶喪失でもニビル人でもねぇ!」



 この強い言葉にオーガスタは少し驚く仕草を見せるが冷静に答える。



「地球? 聞いたことがない地名ですね。まぁ記憶がハッキリしてるなら私の家でゆっくり話しましょう」



 そう言うと、オーガスタはゴツゴツとして、4本の指が付いている右手をエリックに差し出す。エリックは少し躊躇しつつその右手を掴んで立ち上がる。そして、踵を返して石造りの建物に向かってドスンドスンと歩き出す。そのゴツゴツとした後ろ姿を歩いて追い掛ける。そのエリックの後ろをエアズが歩く。


 建物の玄関の扉は両開きで木材の様な物で出来ており、高さが3m程ある重厚感のある扉だ。オーガスタはその片方を片手で軽々と押し開ける。中はかなり天井が高く奥行も広さもなかなかのものだった。家具の様な置物は基本大きく普通の人間の手で扱うには難しい程の大きさだった。中に入るとオーガスタが研磨された綺麗な石を指さす。



「あなたには少し大きいかも知れませんがそこの椅子に座ってください」


「あぁ、分かった」



 言われるがままに腰まである綺麗に研磨された大きな岩に座ると、オーガスタは大きな鉄の円柱型の入れ物から鉄のコップに小麦色の液体を注ぎ、それをエリックに渡す。



「これは、オスホといってあなたが迷い込んでいた畑に生えていた植物から取れるエキスみたいなものです。ニビル人が好む飲み物なので、あなたはニビル人に似ているのでお口に合うかと」



 それを受け取り、匂いを嗅ぐ。匂いは柑橘系の匂いで毒はなさそうだった。エリックはそれを一口だけ飲む。



「ん? ミカンみたいな味がして美味しいな。……で、さっきから言っているニビル人ってなんだ?」



 すると、オーガスタも岩の椅子に座り話し出す。



「ニビル人はニビル星に住む高度な技術を持った者達です。彼らは遥か昔にバリングル星に降り立ち、私達との交流を深めました。見た目はあなたより目が大きく、身長が高い。肌は薄い緑色です。あなたはどうやってここに?」



 オーガスタの言葉に戸惑いつつもオスホを飲みながら質問に答える。



「俺は地球である隕石に触れたんだ。そしたら、急に……」



 エリックは途中で話を止め、自分の右手を見る。そこには普段と変わらない右手があり、石が吸い込まれたのが嘘かの様だった。我に返ったエリックは話を続けた。



「そしたら、俺の右手に石が吸い込まれていったんだ。次の瞬間、全身が痛み出して気が付いたら、空がピンクで六角形の模様が入った世界に居た。それに、黄金の飛行船や黄金の建物もあった!」



 そこまで言うと、オーガスタが口を挟む。



「そこは恐らく、ニビルです。ニビル人は黄金の飛行船でよくバリングル星に来ますし、ニビル星はピンク色のバリアで守られています。で、その次はどうなったんですか?」



 エリックは小声で「あれがニビル……」と呟き、また一口だけオスホを飲み、息を整えて話を続けた。



「その次は、その飛行船が迫ってきて押し潰されそうになった時、また俺は瞬間移動したんだ。それで、気が付いたらあの畑に居た。で、あの、変な生き物に追い掛けられたんだ」



 それを聞くとオーガスタは赤い目を伏せ、大きな口の近くに手を添えて考え込む。少し間を開けてエリックに再び視線を戻す。



「その隕石が気になりますね。ヘンリー王なら何か知っているかもしれませんね」



 その話を聞いたエリックはオスホを飲み干し、少し希望を見出す。



「やっとアメリカっぽい名前が出て来たな。じゃあ、そいつに聞けば何か分かるかも知れないんだな。俺は地球に帰りたいんだ。もうこんな所ウンザリだ」



 すると、オーガスタは立ち上がり、コップを回収して水で軽くゆすぎながら話す。



「分かりました。ヘンリー王が居るのはここから北の遠くにあるランダー王国の首都、パヴェウです。私も一緒に行きましょう」



 エリックは大きく頷き、座っていた大きな岩に寝転ぶ。



「そうか…… 出発はいつだ?」



 その質問にオーガスタはコップを定位置に戻し、再び椅子に腰を落としてこう返す。



「遠いので早めに出た方がいいでしょう。久しぶりの遠出なので私も楽しみです」





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