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魔人公爵  作者: エドレア
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「ほう、ここが王都か」

「はい、エルスディア王国首都ウィズバーンになります」

「ここに来るまで寂れた寒村ばかり見かけていたから王都も寂れているのかと思えば存外そんなでもないのな」

「我が国は貿易といいますか物流の一大拠点でありますので…」

「ここからでも見えるほど大きな帆船が見えるな。よくもまぁあの大きな物体を動かせるものだ」

「帆の中央に光る石が見えませんか?あれが風の魔石でして、魔力をあの石に注ぎ込むことで風を起こし船を進ませています。最も、かなり高価な物なので装備している船は限られているのですが」

「ふぅん…。スクリューが無いのか。まぁそんなものだろう」

「スクリュー?」

「なんでもない。ほら、色々と案内してくれ。あれなんか知らん食べ物だ。寄越してくれ」

「あの、魔人殿…。そうお金に余裕があるわけでもないのですが…」


 今世初、上京。

 いや東京に行く訳じゃないから上京というのは正しく無いけど状況的には似たようなものだろう。ジョウキョウだけに。

 完全にオノボリさん状態の私だがこればかりは仕方ない。見るもの全てが新しい。中心街を練り歩いてるところだが、可愛いネコミミ獣人がいればそれを相手に屋台で飯を売るトカゲ人間がいる。あれは確かドラゴニュートとか竜人とかいうのだろうか。別の場所ではドワーフが露店をやっていて自分が打ったのであろう刀剣や盾、防具の数々を威勢の良い掛け声で売り込んでいる。その声に惹かれたのか如何にも冒険者っぽい集団があれやこれやと値段交渉に躍起になっていた。冒険者の集団には普通の人間もいれば、エルフや犬耳の獣人、そして青い肌をした恐らく魚人であろう者もいて随分と多彩である。

 全体的に獣人が多めだが種族的に目立った偏りは無い。この多彩さがこの国の強みなのだろう。恐らく多くの国と同盟、ないし協定を結んでいるはずだ。戦争するだけの国力が無いとトマリ騎士は嘆いていたが、個人的な意見として戦争は外交の最終手段である。戦わずして多くの国益を得ているという時点で戦争を起こすどの国よりもずっと勝ち組なのだと思った。


「しかし魔人殿、やはり何か被っていただけた方が…」

「くどいな。その話は既に結論が出ているはずだが。私の容姿に隠すべきものなどありはしない」

「ですよね…」

「それに、見られないようにする措置は既に取っているぞ」

「見られないようにする措置…?確かに思っていたより見られているという感じではありませんが」

「魔力制御の一種でな、気配を周囲に溶け込ませているんだ。私の魔力を自然に溢れる魔力と同質にしている」

「聞いた事の無い技ですね…。極東の国に潜むとされるシノビなる存在なら体得しててもおかしくなさそうですが」

「ほほう…」


 異世界物あるある、遠い東の国って大体ファンタジー日本。

 サムライとかおんのかね。いたらいたで是非剣技とか師事したい。修行はしてた私だけどもほとんど魔力制御に費やしてたから基本的な剣術がおざなりなんだよなぁ。適当に振り回すだけ。私の肉体スペック的にそれだけでめちゃ強いんだけど、懐に潜り込まれて一閃されたらどうなるか分かったもんじゃない。その場合でも体からぶわーっと魔力放出すればいけるかもだけどたまに実体の無い物を斬って無力化して「我に斬れぬもの、無し!」みたいなことやる人いるじゃん。ジャパニーズ剣技怖い。

 忍者もなー。あれもあれで、例えば変化の術とか姿を隠すんじゃなくて誤魔化すような術持ってたらそれも覚えてみたい。魔法でどうにかならん?って思ってるんだけど、どうも私は魔法そのものとは相性が悪いみたいでトマリ騎士に教えて貰った簡単な火魔法の詠唱を唱えても上手くいかなかった。そもそもとして魔物は既存の魔法体系から外れた独自技術みたいな魔法とは似て非なる何かを使う存在のようで、分類的に魔物寄りであろう私が人類魔法を会得するのは魚に空を飛べといってるようなもの、ということだ。昔にエルフの集団相手に適当に魔力ぶっぱして化け物扱いされたのもこの辺が原因だろう。特に属性とか意識せずに放ったんだからそりゃ無属性だ。

 魔法の属性は火・水・土・風・光・闇の六属性が基本とのこと。雷は?と聞いたら風魔法の上位扱いってことだけど滅多に使える人がいないんだってさ。

 魔力制御はいつの間にか女神から及第点貰ってたらしいから次は剣術だな。うん。


「ところで、この国に実力者はいないのか」

「っ!?…え、ああ、そうですね。正直に申し上げるなら騎士団長以外に魔人殿のお眼鏡に適う御仁はいらっしゃらないかと」

「それは、剣術に秀でているのか?」

「剣術…?失礼ながら、魔人殿は何をお求めになられているので?」

「言葉足らずで済まないな。私に剣術を指南してくれる者が欲しいんだ」

「剣術指南…ですか」

「私はな、自身の未熟さを未熟なままそう理解した上で放置するのがほとほと癪に触るんだ。今のままでも強いかもしれないが、それが研鑽を怠っていい理由にはならないからな」

「な、なるほど…(うちの団長を狙っているわけではなかったのか…」

「それで、その騎士団長とやらは剣術に秀でているわけではないのだな?」

「剣を握らせば一定以上の扱いはできるかと思いますが団長の得物は槍ですしもっと言えば、あの人の真骨頂は全く別のところにありますので」

「なるほど、概ね理解した。その真骨頂というのが気にならないわけではないが、ひとまずは置いておこう」

「剣術の扱いなら隣国のデマエーレ共和国にて盛んな武術活動が行われていると聞き及んでいます。興味があるようでしたらそちらから適当な人間を紹介するよう外交官へ取り計らいましょう」

「ああ、頼む。…共和国なのか。そういう国とも仲が良いんだな」

「…?」

「いや、何でもない。ほら、今度は港に行こう。珍しい物がきっとたくさんあるぞ」


 私の独り言は聞き取れなかったらしいトマリ騎士。下手に首突っ込むものじゃないと頭では理解しているけどこの国の外交周りが本当に気になる。政情も安定してる感じだし王様に会ったら爵位でも要求してみようかな。中世全盛期なこの世界に農業革命とか産業革命とか起こす気は無いけど地球の商売システムとかそこらへんを上手く使っていけばそれだけで食っていけそう。


 やっとまともな生活が送れそうな予感を感じつつ、私は明日に控えた謁見を楽しみに観光を続けるのであった。










 エルスディア王国王城にて。

 ジャン国王はトマリ騎士の部下たちからの報告を頭の中で反芻していた。


 ────絶望。気配だけで感じる絶対さ。

 ────無情。気分一つ、言葉一つ間違えれば自分たちを鏖殺出来たであろう残忍性。

 ────強壮。山の中腹に大穴を開けるような魔力攻撃をなんて事の無いように適当と言ってのけた魔力の保有量。


 どれもこれも危険としか言いようの無い情報である。

 魔人は預り知らぬことだが三百年程過去に彼女がエルフ相手に放った魔力攻撃はすぐには消滅せず、エルスディア王国を囲む南東にあるもう一つの山脈に直撃し反対へ貫通させた。今ではエルスディア王国にとっては数少ない重要な他国への陸路となっている。


「伝説はやはり事実なのか」

「陛下、やはり直接会われるのは危険かと。ここは私めに…」

「ならん。魔人には余が話をしてみたいと伝えているのだ。ここでいらん対応し機嫌を損なうような真似は不利益をもたらす」

「…ではどうされると?」

「ダンクルオステウスを余の側に付ける。こと、守りに関してアレを上回る傑物はおるまい。」

「貴族たちからの反発は予想されますがそれも想定の内で?」

「当然だ。そもそも魔人には平民を側に付ける以上の提案するつもりだからな。騒動の一つや二つ、覚悟しておけ」


 この翌日に行われる謁見が後に後世の歴史家から時代の節目と呼ばれるようになるが、当人たちには知る由も無い事であった。

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