<決別>
俺は暗殺者の男を握りしめ、アンヌが尋問を行なう。忘れていたが、アンヌも帝国一の大魔導師なのである。とても長い呪文を唱え、男を無理やりしゃべらせる。
皇帝は魔装巨兵によって世界侵略を考えたが、将軍たちは魔装巨兵のみが戦果を挙げる戦争の計画に自分たちの地位が脅かされるのではないかと考えたのだという。そして、アンヌを殺して魔装巨兵の指揮権を奪うことにしたのだ。すでにアンヌの代わりとなりそうな魔導師たちを集め、明日には実際に魔装巨兵を使って実際に魔装巨兵を動かすことができるか手当たり次第に試していくことにしているそうだ。
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「私はこの国を出ていくわ、・・・あなたも一緒に来てくれる?」
こうなった以上、アンヌは帝国を出るしか生きる道がない。しかし、最大の懸念は俺である。俺が敵となりうるのか、それとも味方でいてくれるかは非常に重要だ。しかし、俺だって皇帝なんかの戦争に協力する気はない。俺はアンヌの考えに賛同し首を縦に振った。
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アンヌが荷物をまとめる中、俺はここに置いていくことになる三体の魔装巨兵を破壊していた。俺と同じように頑丈なのだが、アンヌが開けたハッチから魔装巨兵を内側から破壊していく。
「どう、終わった?」
魔装巨兵の中を完全に破壊し、永久魔石も砕き終えた俺はアンヌをのせて出口を目指す。
「きっとこれからは帝国軍や魔装兵とも戦うことになると思うわ、でも・・・できる限り人を傷つけないで」
俺の中でアンヌはそう伝えてくる。これがアンヌを守りながらだったらそんなことを聞く余裕はなかっただろう。だが、俺はアンヌを守りながらではなく俺自身がアンヌでありアンヌ自身が俺なのだ。こう言ってしまっては悪いが足手まといにはならない。
外に出るとまだこちらの動きはバレていないようで、外には誰もいなかった。だが、逆に警備の兵士すらおらずそれだけの権力者がアンヌの暗殺に関わっているということも示していた。
その後道なき道を歩き、とにかく俺たちのいた帝国軍の要塞から逃げていた。しかし、帝国から逃げるといっても、隣国に行くことも匿ってくれるような場所もないのだ。時折り立ち止まって地図を見ながらどこに行こうかと考えるが、アンヌも周囲の国については詳しく知らない。
「どうしたらいいの」
アンヌは頭を抱える。そもそもこんな30mはある俺がいる以上、噂としていろいろなところに広まっていくことは間違いない。そうなると人のいる場所そのものが駄目だということになってしまう。
そして、そうしている間にも遠くにいた影が近づいてきていた。さっきは遠くてよくわからなかったが、あれは明らかに帝国軍の魔装兵部隊である。機動力で言ったら逃げ切ることは簡単なのでまだ大丈夫だがこのまま追われることになるのも面倒なので、俺は山岳地帯に逃げ込むことにした。岩のゴツゴツしたところだが、のぼる分には問題ではない。
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山の頂上からはなんでも見ることができた。平地やほかの山をはじめ、海やどこかの島まで見える。俺はどこまでも広がる緑の大地を見ながら考える。この大陸の中ではどこにいても見つかるだろう。森に隠れたとしても、いつかその森には開発の手や森林資源を求めた人間が来ることになる。だが、海であれば無人島だってあるだろうし、俺たちを知らない人間のいる島へ行くことだってできるだろう。俺は、アンヌに海に向かって指を指示した。
「海?・・・この大陸の外に?」
俺はうなずく。
「任せるわ。こうなったらどこにだって行ってやるわ」
そういって覚悟を決めたアンヌをみて、俺は山を下りる。まっすぐ海に向かうが、横切る森の前に奴らはいた。帝国軍の魔装兵たちは俺が森に差し掛かると一斉に森から飛び出してきた。俺を円になって包囲してツルや氷、土を岩石に変化させて俺の動きを止めようとする。
「どうして」
アンヌの言うとおりだ。なんでこんなところで帝国軍が待ち構えているのか、少なくともここに来る時の追手とは違うやつらなのは間違いない。
普通ならば多勢に無勢であるが、こちらだってこんな状況でも勝てるように作られた兵器なのだ。こんなことでやられるほどヤワではない。俺は一気に魔力を込めて地面へと触れる。
ゴゴゴゴゴ
物々しい音を上げながら、俺を中心に俺と同じ高さはある岩のドームが出来上がる。そのドームは俺を包囲していた魔装兵たちも囲んで、俺と魔装兵だけの空間が出来上がる。その間もツルや氷を使って俺を拘束しようという行動を続けるが、土だけは俺が完全に支配しているので奴らではどうしようもできない。
そして、一息ついた俺は次の行動に移る。一体の土を泥に変化させて魔装兵を泥に沈めていく。これだけの範囲となると下半身が埋まるまでしか泥に変化させられないが、全員が埋まったのを見計らって次は泥を岩石へと変化させる。
これによって魔装兵たちの動きは完全に封じられた。ツルや氷はその状態のまま一気に火炎放射を出すことによって完全に消えてなくなった。ドームの中一杯に炎が満たされるほどの炎はとてつもない上昇気流を生み出し、煙や砂を巻き上げながらものすごい風が吹く。
こうして俺は魔装兵たちの手から逃げ切ることができ、森の中へと姿を隠した。魔装兵たちの様子が気になるが、岩のドームには出るときに一か所穴をあけておいたため救援を呼びに行くこともできるだろう。
・・・・・
森を抜けた先はどこまでも広がる海だった。
「これが海!?初めて見た!」
アンヌは興奮して外に出てきた。俺は手で受け止めて一緒に海を眺める。帝国では地平線がなく、まっすぐな地形を見ることはないのだ。
しばらくアンヌは潮の匂いを嗅ぎ、波の音に耳を澄ませていたがそろそろ行かなくてはいけない。
「それじゃあ、行こうか」
アンヌを乗せた俺は海の中へと入っていく。果たして安息の地はあるのか、それとも死の旅となるのか、それはまだわからない。