<暗雲の帝国>
ドラゴン討伐から帰ってきたアンヌは盛大に迎えられ、国中では何日も祭りが続いた。それは帝国の士気高揚のためにパレードまで行なわれるほどだった。
しかし、この時、帝国は道を誤ったといっていいだろう。
「いずれわが国がこの大陸の支配者となるであろう」
この言葉は皇帝が民衆を前にして言った言葉である。そして数日後、帝国はそれを実現するための第一歩を踏み出した。
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「どういうことですか」
アンヌは冷静に感情の起伏なく言う。ことの始まりは研究室に使者の男が来たことだ。なんでもアンヌをほかの魔装巨兵を動かすことに専念させ、俺にほかの人間をのせるということを伝えられたのだ。
「どうやら将軍たちは、あなた以外でも魔装巨兵を動かすことができると考えているようですね」
使者によれば将軍たちは魔装巨兵を動かすには人間との相性があると考えていて、探せばアンヌ以外でも俺を動かすことができると考えているのだろうということだった。
「じゃあ、やっぱり」
「ええ、戦争ですね」
皇帝は絶対的力を確信しておかしくなったのだろう。こちらの準備が整い次第、周辺諸国に対して宣戦布告することが決定したようだ。
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その日の夜、アンヌはどこから持ってきたのか椅子に座ったまま頭を抱えていた。オークやドラゴンを相手にする戦いとは違い、国と国の、人間と人間の戦いでありそのことへの苦悩や動揺があるのだろう。
しかし、一番気になるのは俺の出入り口から入ってきた謎の人間である。俺だけが動くようになってから部屋の模様替えが行なわれ、正面に魔装巨兵が三体並び左にはアンヌのテーブルが、右には出入り口の洞窟が続いている。
謎の人間は、正面の魔装巨兵の足元からアンヌの様子を伺っているようだ。少なくともここに来たのはまともな理由ではないだろう。実際こう見ている間にも短剣を抜き、アンヌへと近づいていく。
俺は電気を帯電させて後ろから手を伸ばす。人間が感電するところを初めて見たが、まるで体から力が抜けたようにして倒れた。
「なに!?」
倒れる音を聞いてアンヌは顔を上げる。よく見ればそいつは数時間前にここに来た使者の男である。アンヌにとっては突然のこと、あまりのことに唖然とするしかない。