<性能試験>
「誰が乗ってるの!」
しばらくして我に返ったアンヌは警戒した様子でこちらをにらみつける。しかし、俺には言葉を発することもできない。こうなると下手に動くべきではないので、彼女の動きを待つ。
「っ!」
アンヌは魔力を体に巡らせて一気に飛ぶと俺の背後へと回り込む。魔装兵器はあくまで乗り物であり、俺も例外なく背中にはハッチがある。これは登録した人間でしか開くことができず、自分の魔装兵器は自分しか使うことができないようになっているのだ。俺の登録者はアンヌであり、ハッチを開けられるが、もちろんそこには誰もいない。
「嘘!どうして!」
これがアンヌとのファーストコンタクトとなった。しかしこの時の俺は、この出会いがあれほどまでに長いものになるとは思ってもいなかった。
・・・・・
青い空の下、俺の魔法攻撃が炸裂する。火炎放射や火炎球、放水に氷塊など上げてしまえばキリがない。俺は帝国軍のお偉方に魔装巨兵の性能を見せるため、アンヌとともに性能試験に駆り出されていたのだ。
「素晴らしい」
「良いものを見せてもらったよアンヌ」
「ありがとうございます」
ハッチをあけてコックピットから降りてきたアンヌは将軍だか団長だかに様々な言葉をもらう。みんなアンヌが魔装巨兵を動かしていると思っているのだ。実は俺の背中にあるコックピットではどんな操作をしても全く俺の動きに影響を与えない。そのため、俺は操作されたとおりに動くことができず、すぐに自律した魔装巨兵だと気づかれることになってしまう可能性があるのだ。
では、気づかれたとしてどんな問題があるのかということだが、そもそも魔装兵器は魔導師が乗って操作するものである。しかし、操作もしてないにも関わらず自立して動くなんて、もとの世界でもただの暴走する機械である。もしそうなってしまったら何をされるか分かったものではない。
そこで俺はアンヌを利用することにした。彼女が乗っていないときには動かないのである。一度テストパイロットのような奴が俺に乗り込んできたが、俺は無視を決め込んだ。そしてアンヌが乗った時に動くことによって彼女以外は俺を動かせないと思わせるのだ。
こうなってしまえばアンヌが俺を動かすしかない。俺がひとりでに動くことは知っているはずだが、誰にも言っていないのだろう。俺の意図に気が付いてか、どのような攻撃をどこにするといった指示だけそれ以外は何も言わない。俺はこうして今日の性能試験をやり終えたのである。
・・・・・
しかし、俺はその後彼女の研究に巻き込まれていくことになる。最初のほうは俺に対する恐怖心もあったのだろうが、それが薄れると一気に研究の対象としての興味が出てきたようだ。俺が動くどころか自律して動くこともそうだが、外からまじまじと俺の動く様子を観察できるのだ。これほどの観察対象はいないだろう。