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第2話「刃であるならば無情である」

リトルウィッチは、ヒーローでもヴィランでもない。普通の、どこにでもいる少女であり、またそれ以下の能力しかない乙女。……そう、意味あるようにそのような条件から選別した。


「標的はゴ・ゴグゴジン。ヴィランで、怪人だ」

「お父様、問題ありません」


問題ありません。ーーリトルウィッチは、シャッターを片腕で捻りながら強引に持ちあげた。薄暗い工場の中に、人間ではない姿の怪人が7………いや、9確認した。彼女があげたシャッターから差し込む陽の光と、工場内の僅かな電球だけが弱々しく内部を照らしている。


しかしすぐに闇が来た。リトルウィッチがシャッターを落とし、ぎゃりぎゃりという音と閉じた。入り口が封鎖された。


怪人たちが慌ただしく武器を手にする姿は、赤外線カメラから見ていた。剣、斧、槍、弓。リトルウィッチにも見えている。それゆえにーー一切の躊躇いなく、81mmオートモーターを乱射した。動体優先識別モードで高速スキャン走査し、無差別に撃つ、撃つ、撃つ。


弾頭はフレシェット。無数のメタルダーツが怪人の肉体を貫くばかりか、放置されている大型の工作機械さえも貫徹した。メタルダーツは空気との断熱圧縮で高温を発しながら、貫通したものを焼夷した。


怪人はゴ族と呼ばれる集団だ。ライフル弾を寄せつけない皮下装甲皮をもち、その筋力は自前の手足だけで何十トンもの衝撃を作りだせる。第3の目を額に持ち超常的な視点から世界を観測することで未来予知や思考だけでも会話する。


だが今、リトルウィッチはその破壊力も生命力も区別なく引き裂いた。予測されるなら、対応できない範囲まで纏めて払えば良いだけの話だ。それはすでに、正規軍が実戦している戦術を利用しているだけのものだ。


「ガゼゴゴゼッ!(化け物めッ!)


ゴ族の言葉のほぼ全ては濁音だけだ。自動翻訳がゴ族の言葉を人間の言葉に変換する。知っても知らなくても、どちらでも、どうでもよいことだ。


彼ら彼女らは、ヴィランだから殺されるのではない、ヒーローだったら殺されないわけでもない。


「リトルウィッチ、踏み込みすぎだ。無理はするな。外に追いたてる気で充分だ。包囲している戦闘員が始末する」

「でもお父様、もし私が逃したら、もしだけど、外の人が死ぬかもしれない。私がここで全部殺すよ」


ゴ族の一人が、斧を手にリトルウィッチへ殴りかかる。ゴ族の剛腕と加速で振るわれる斧の破壊力は計り知れない。だが、そのゴ族は彼女の腕に頭をあっさりと掴まれ「ガガガ!(馬鹿な!)」、握り潰された。人間と同じ構成の脳や骨、眼球などが弾け散った。


人間と同じだ。当たり前だ。ゴ族は、祖先が人間と同じだ。ある意味では、進化した人類の兄弟だ。だったら殺しやすいというものだ。戦争の数が違う。


全身にメタルダーツを打ち込まれたゴ族が、青い血を吐きだしながらがむしゃらに大剣を振るうが無意味だった。撃たれたりないのなら、さらに打ち込まれ工作機械へとその体を縫いつけられ完全に活動を停止した。


「リトルウィッチ、戦い方が荒いぞ。もっと丁寧に、集中するんだ」

「はい!お父様!」


リトルウィッチの声が弾み、すぐに戦い方を変更した。弾幕でただただ圧倒する戦いから、ゴ族1人1人を丁寧に捕捉し、串刺しにしていく。


「ゴグゴ(王よ)」


3人のゴ族が一人を守る肉の盾としてメタルダーツの前に立ちはだかった。刀剣が砕け散り、肉を引き裂き、しかし、守った者を無傷のまま生かし死んでいく。


「リトルウィッチ、標的だ」

「ゴ・ゴグゴジン!」


リトルウィッチは僅かな迷いすらなく、ゴ・ゴグゴジンへと駆けた。ゴ・ゴグゴジンは大剣を握る手に力を込め、迷ったか。戦うか逃げるか。仲間を配下を殺されたのだ。非情になりきれない心なのだろう。


ーーだが命とりだ。


リトルウィッチはイオンクラフトで加速し、サンダーフィストがゴ・ゴグゴジンを殴りつけた。雷の一撃が頭部を襲うが、まだゴ・ゴグゴジンは生きている。


ゴ・ゴグゴジンは大剣を中段から横薙ぐ。腰も足も地についていない一閃だ。フェイントにもならない。だが、ゴ・ゴグゴジンは大剣のその一閃、質量の移動でもって、頭を殴られ崩れた重心を元に戻して見せた。優雅でさえある。


「……舐めてますの?」


無配慮にリトルウィッチが足を伸ばし、ゴ・ゴグゴジンを踏み潰した。暴れられているが、ゴ族の剛力でさえも彼女の全体重の全力からは逃げられないようだ。リトルウィッチにはーー情けがない。非情にただ、踏み潰す。骨が砕かれ、内臓が破裂し、口から潰れた臓器が飛びだしてもまだ足を沈める。なぜか。まだ、ゴ・ゴグゴジンが生きているからだ。


「お父様」

「リトルウィッチ、生け捕りとここでの始末、どちらが良いと思う」

「このゴ族に価値はありません。またこの戦いの趣旨があくまでも、私の調整のためだと思いますので、ならば調査のために捕縛するよりも、ゴ族を殺す経験の蓄積の一つにしたほうが、個人的に、ためになると考えます」

「ならば殺せ。リトルウィッチの意見を優先する」

「ありがとう、お父様。ーーあっ、伝え忘れていました」


リトルウィッチが、81mmオートモーターから射出されるメタルダーツでゴ・ゴグゴジンの頭部を完全に破壊した。


「この戦いは放送されるのですよね?」

「リトルウィッチ計画だ」

「はい。ならばここで、私は考えました。お父様への愛の告白をすれば、永遠に、そして全世界に私とお父様の愛の繋がりを見せつけられるのではないかと……」


指揮車両の中では、この会話は筒抜けだ。オペレーターは無表情を貫いている。冷たい、感情の機微が極端に薄い女性ばかりだ。だが内心ではそうではないことを、私は知っている。これは、後で話のタネにされるな。


「もし告白を録画したとしても、編集でカットする。無意味だぞ、リトルウィッチ」

「それは残念です」


リトルウィッチは工場の奥へと進む。まだ任務の1つが終わっただけだからだ。もう1つ残っている。彼女は探しだした。ゴ族のネストだ。そこは工場内だというのに、粘液を固めた有機的な空間が作りあげられていた。独特の造形が科学を侵食しているようにも見える。


「コクーンを発見しました」

「焼き払え。全てだ」

「かしこまりました」


ヘルナパームが、ゴ族のネストを一閃した。水平に振るわれた熱剣は全てを溶断して、燃やした。


ゴ族は滅びゆく種族だ。ただ、誰かが戦って滅ぶのではない。自然消滅だ。種の存続のために、現代の環境に適応した新種になろうとしていた。


ここは、そんな改造施設の一つだったのだ。


命が焼き殺される悲鳴が木霊した。コクーンの中には、『人間ではなくなった人間だったもの』が繁殖しているからだ。ヘルナパームの業火に透かされ、コクーンの中にあるヒトガタが影を作った。


孵化直前だったのだろう。いくつかのコクーンは、内側から破られ、中身が飛び出てきた。皮がなく、腹の内臓が肋骨と膜でかろうじて支えられた肉塊はそれでも逃げようとして……1人も生きては出られない。リトルウィッチが許さない。その体を引き千切られ、叩きつけられ活動を停止した。


おぞましい。だが、肉体と接触したものを自由に量子分解できるクオンタムマンという名のヒーローが戦ってきた相手である。ゴ族とは、その程度の種族の1つだ。


「やぁ……」


随分と可愛らしい声が聞こえた。それはリトルウィッチからだ。流石に、彼女でも堪えるものがあったらしい。……そのことに少しだけ、嬉しく思う私がいたのは間違っているだろうか。


この戦いの記録は、全世界に送信される。ヒーローが何と戦っているのか。自分たちが何と敵対するべきと、直面しているのか。ヒーローに何を押しつけているのか。これで、少しは理解することになるだろう。

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