珍問珍答シリーズ その26 光源氏をどう思うか?
1990年代の初めごろ、北九州の町はずれの実業高校で、国語の時間に、「源氏物語」のあらましを勉強しました。
黒板に、光源氏の年齢と、その時つき合った女性の年齢、立場、性格などを簡潔に書いて、一生の一覧表みたいなのを見せるやり方です。普通の国語の先生は、そんなやり方で、源氏を教えたりはしません。
私は、「最初に大きくとらえて、あとで細かく確かめる」というのが、どの教科でも、他のことでも、すべてに通用する、有効な、もののとらえ方だと思います。こまかい部品を確かめて、それを組み合わせて、全体をまとめるというやり方の、真反対のベクトルを使うのです。体験上、そういう大局をみるのが、とても大事だと思っています。巨視的といっても、俯瞰的といってもいいでしょう。政治でも、そういう大局観がないから、長期的展望がないから、借金ばかりふくれあがる、目先ばかりの政治をしているのです。
つい脱線しましたが、国語でも、全体をとらえにくい作品は、生徒も興味をもてません。それで、まず、全体像を紹介しておいて、その、どの部分が、教科書に載っているのか、という視点から授業をします。
たとえば、夏目漱石の「こころ」など。森鷗外の「舞姫」、中島敦の「山月記」なども、漢語が多く、全体像がつかみにくいので、わかりやすいプリントを別に用意して、全体像をおよそつかんでから、部分、部分を確かめる、という方法がいいと信じております。
話をもとにもどします。「源氏物語」を大きくとらえるには、光源氏の一生の一覧を見せるのが一番いい、というのが私の考えで、こういうやり方をしました。この授業の後、感想を書いてもらいましたが、まるで全体を読んだことがあるような感想も、いくつかあります。偏差値が高くはない実業高校の生徒たちとしては、よく、ここまで源氏をとらえてくれた、というのが私の受け止め方です。
・たいした男だ。うらやましい。
・自由がなくて、かわいそう。
・とてもキザだ。かっこつけて恋をしている。
・世の中には、女がほしくてもできない人もいる。こんな男は許せん。
・女のことになると、ちゃらんぽらんだが、根はしっかりしていて、いい人生を送った男だ。
・たくさんの女とつきあっているけど、一人の女を思うような純な所もある。それほどきらいでもない。
ただ、昔の人がカッコイイというのと、私たちがカッコイイというのとは、ちょっとちがうかも。
・今の世の中に、こういう男がいたら、サイテイだ。
・たくさんの女がまわりにいたが、光源氏が本気で好きになったのは、そのうち、何人かしかいないだろ う。
・一回会ってみたい。
・五十何歳の、年取った女とまで関係していたなんて………。
・光源氏は、気は多いけど、一人一人の女性を大切に思っているところは、よい。女を見る目は日本一。
・まだ小さな女の子を見て、将来とても美しくなるだろうと想像し、やっぱりその子は美しくなったのだから、女を見る目はたしかだ。でも、私は、こんな女遊びの激しい男は、好きじゃない。
・カッコよくて、すごくもてて、相手に不自由しなかった。私も、そんなふうになってみたい。
・すごく年下の人や、年上の人とつき合ったりして、恋愛なんて、今と昔と、そんなにかわらないのかなあ。
・好きな人にそっくりな人を見て涙を流すくらいだから、けっして、悪い人ではないだろう。
・かっこいいで、もてる人だから、女遊びをするのも、しようがないか。
・結婚しているのに、何人もの女をつくったりして。………私には考えられないことだ。
・本気で好きになる時と、遊びの時とがあるみたい。本気の時には、とても大切にしてくれそうな気がする。
・プレイボーイだけど、とても思いやりがある人だと思います。だから、たくさんの女の人が寄って行ったんじゃないでしょうか。
・女をコロコロ変える男が、どんな顔か、どんな声か、どんな人か、一度会ってみたい。そして、一言言ってやりたい。「おまえなんか、そんなにいい男じゃないぞ」と。
・男前を武器にして女をまどわすのは、ひきょう。それにひっかかる女も、かわいそう。しかし、相手を捨てずに、きちんとめんどうをみる所は、まあ、いい。
・この時代が一夫多妻だったのはヒドイ。どの時代でも、女はヒドイ目にあわなければいけないのか、と腹が立つ。
・私はマンガで源氏物語を読みました。ほんとうに、多くの女と関係をもち、してはいけない恋をしています。考えてみれば、かわいそうな男だと思います。
・母親の面影を追っているだけのような感じが、いじらしい。
・ただの、すけべえな人間としか思えない。
・はっきり言って、マザコン、ロリコン。いい所は、顔だけ?
・すごく女たらしだけど、好きになった人には、けっこうマジでつき合っている。若いうちは、遊んじょかないけん。でも、ある程度の年になったら、おちつかな、いけん。それにしても、たくさんの相手から、一人にしぼるのは、大変だろうなあ。
定期考査の問題の一部として書かせたものなので、一人一人の字数は多くありません。しかし、本音で解答している感じはしますよねえ。ここまで、よく、とらえてくれた、と、私としては、彼らに感謝したいくらいの気持ちでず。