五位の夕方
よく、皆で集まった。全員が全員深い間柄だった訳では無い。あまり話したことがないやつもいた。その点神代は、誰とでもよく話していた。
あれは俺にとっても、いや、全員が全員にとって、友達だったのだろうか。柄にもなく思ったことがある。
どちらでもいいか、少なくとも、仲間だったのなら。
「あれ、おい実、これお前じゃないか」
翔祐がスマホで写真を見ながら言う。
「あ、ほんとだ、ぜってぇ神代じゃん。てか、やばくないか」
澤田も僕だと言うので間違いないのだろうが、それよりもそのもの凄い驚き方に僕まで驚いた。
「なんだ、僕にも見せろ」
「ほら」
まて、なんだこれは
「まさに絶句したというところか、実際はこうして口を開いているのだが」
戯言を振りまくのは頭を整理している証拠。無意識にでもそうしてしまう。なんだこれは。
数枚の写真があった。僕の写真はそのうちの1枚だけだ。そしてその全てに共通して映る人物は1人。
「なんで咲良が写ってる」
1枚は村雨が写っている。
ほかのやつは知らないが、どれも咲良と1人の男が楽しそうに話している写真が……まて
「咲良?おい神代本当なのか。いつの間に彼女いたんだよ。てか、何股してんだよこの女」
「まて弦太郎、この娘は」
「どうしたんですか実さん」
ピンポーン・ピンポーン
結構緊迫した空気の中、かなり間抜けな音が鳴る。
「勝手に上がるわよみのる」
この声は咲良か、、まて
「親御さんか」
「ねぇみのる、こいつが助けてって」
「誰も助けなど求めていない、にしても変わらないなこの家も」
「うわっでたっ、尻軽女、不倫相手もいる」
「なに勝手に入ってきてんだ混乱を招くな」
「咲良さん村雨さんお久しぶりです、どうかしたんですか」
「誰が尻軽女よ、てかあんた誰」
・・・・・・うるさい
夕暮れ時、いつもは一切の音がせず、自分以外の声がしない家の中。
平日のこの時間に、母親がキッチンにいたことなんてない。そこに立ちエプロンをつけた彼女が、なんだが愛しく思えた。
今日は久しぶりに、この家が騒がしい。
「さて、とりあえず話をまとめると。こいつは隣に住む幼なじみで、こっちが同じ中学の友達で、僕も村雨も咲良の彼氏じゃない。OK?」
「OK理解」
澤田が理解してくれた。これで本題に入れる。
「それで、あの写真はなんなんだ説明しろ」
「最近、俺や俺の周囲に対する嫌がらせが耐えない。嫌がらせと言っても一種の風評被害だ、ネット上でありもしない話を振りまいているやつがいる。」
「チェーンメールみたいなやつか」
村雨の説明に翔祐が反応した。翔祐は誰に対しても積極的なのだから、当然なのだが。僕は、僕らの中にほかの人間が入っているそのことが、不思議な感覚でたまらなかった。
「チェーンメールなんてとっくに滅びただろうが、やっていることは変わらないだろう」
「それじゃあどうする村雨、3分以内に回さないと不幸が降り注ぐぞ」
「だからチェーンメールじゃないと言っているだろ」
「そうよふざけないでよ、私盗撮されてるんですけど」
軽く冗談言ったら怒られた。
「まぁ安心しろ、流石にモザイクも何も無い写真はまずい。けど、その投稿はもう消された」
「俺らの写真を載せればそうなるだろうな」
「え、なんで、運営?」
まぁなんだ、四城に暗雲が立ちこめると言ったところか。
「安心しろ、僕がその雲を晴れさせてやる」
「出来ましたよ皆さん」
何故皆、式谷の飯の方が盛り上がるのか。なにより美味しかったから仕方もない。
「じゃあまたな神代」
「困ったら呼んでくれ」
「さて、本題に入るか」
翔祐と澤田には、あまり人に言えないような事情もあると説明して帰ってもらった。
「なんか悪いわね、ごめんねゆらちゃん」
「大丈夫、あいつら良い奴だから」
「神代お前、いや、なんでもない」
村雨がなんか言いたそうに見つめてきては止めた。なんだ、なにか顔についてるのかと気になってしまう。
「そんでどこまでいったっけ。あぁあ、こいつが犯人取り逃がしたとこまでね」
「取り逃がしたわけではない」
「犯人の姿は見たんですか」
「いや、そこまでは見えなかった。だが男だ」
「四城って男女比五分五分くらいだろ」
参ったな。なんの捜査も初めていないけど、はっきりいってこういうのはどうも苦手だな。犯人の足取りがつかみにくい上に情報が少ない。
「済まない神代、これは俺の不注意が招いた問題だ。だが、俺一人では解決するのは困難だ。不本意ながら、手伝って貰わねばならない。頼む。」
うちの連中、みんなプライド高いんだよ。だから、こうお願いされたら力貸さないわけにはいかない。
「言われなくても、仲間だろ。でもまぁ、俺の力だけじゃどうにもならない。ちょっと手伝い増やすか」
村雨はあからさまに嫌そうな顔をしている。勘のいいガキだな。嫌いじゃないわ。
「俺は嫌だぞ」
「あと僕の電話じゃ出てくれないだろうから頼んでくれない」
「ふざけるな」
ふざけるな、なんで俺があいつらに頼み事など……
だが、俺1人の力では解決できないのが事実。こうやって神代に頼んだが、まぁ、こいつの強みは仲間がいることだ。
予想はできたはずだったんだが。なにより
「お前はいいのか、神代」
「何がだよ」
虚勢を張る姿は、きっと俺たちにしかわからない。本当は自分が一番会いたくないはずなのに。
「仕方がない、今からここに長野を呼ぶぞ」
「長野さんってどんな人なんですか」
「長野 夕、なんていうか、オタク?キモイやつ」
ピンポーン
「久しぶりに連絡が来たと思えば、いきなり頼みがあるからこいって、俺も忙しいんですけどねぇ」
家に入ってきたかと思えば直ぐに早口で話し出した。
「どうせ暇だろ」
長野は目線を一瞬神代へ向けて再び俺の方を向き直す。
「それに、神代の家に来いなんて言い出すんだから。なんだお前、まだこんな馬鹿信用してんのかよ」
相も変わらず嫌なやつだ。
「お前は俺に勝てないけどな」
「あぁそうだ、2位のお前と5位の俺、雲泥の差だろうなぁ。だが、俺を頼ってきたんだろ。仕方ねぇから力貸してやるよ」
これだから嫌だったんだ、ウザイ。
「あんた達いい加減にしなさい、いつまで喧嘩してるの。てか長野、みのるのこと悪くいうのはやめなさいよ」
「篠崎、お前もいつまでも神代にベッタリかよ。本当仲良いなぁ幼馴染って。あれ、そっちは誰だ?」
「どうも初めまして、実さんのクラスメイトの式谷優來です。」
「あぁ、あぁぁあ。式谷さんねぇ。創世の一番でしょ知ってる知ってる。え、何、神代と仲いいの」
「いいから本題に入ろうよ長野、僕がお前を呼ばせたのは現状報告をするためじゃない」
「なんだよ、創世のクセに」
「お前が勝手に秋銅に行ったんだろ。僕が代わりに行っても良かったんだけど」
「神代くんじゃついていけなくなるよ。自称進学校の授業とは違うんだから」
「安心しろって長野、すぐに僕や式谷、他の皆もお前を抜いてちゃんとあいつを倒すから」
「・・・・・・神代。お前元気になったな」
実さん達の話では、この人が五等星の一人。秋銅高校の長野夕さんらしいですが。
「はぁ?なんだお前、犯人取り逃がしたのかよ。おいおい村雨、オープンスクールもういっかい行ってこいよ」
お世辞にもいい人そうに見えません。少なくとも、先程からずっと村雨さんに対して嫌味を言っています。
それに、実さんに一切話しかけません。たまに横目でちらちら見ているようですが、今の所最初に話して以来顔すら合わせていません。
「長野さんって、お友達なんですよね」
咲良さんに小声で聞いてみます。
「そうよ、変でしょ。なんか見慣れちゃったけど、前から誰に対してもあんな感じだから」
実さんと龍海さん、村雨さんも、最初見た限りではどんな関係なのかよく分かりませんでした。はっきり言って普通の人から見たら、仲の良い友達だなんて思わないでしょう。そんな、特殊な人達です。
でも流石に、これも仲良い故なのでしょうか。
「んじゃな村雨。わかったら連絡するから待ってろ」
そう言って神代の家を出た後、正直何を考えているのか自分でもよくわからなかった。
気まずいなんて、俺が感じるんだな。
神代の奴、なんか少し戻ってたよな。
いつの間にか行かなくなったし、わざと見なくなった。でも本当は何時もチラ見してて、だからちゃんと見てた。
卒業した時も、去年偵察ついでに創世の文化祭を覗いた時も、死んだ魚のような目をしてた。
それが今日見たらちょっと元気になってやがった。原因はなんだ。そういえばそうだ、今年度になって伝説の噂をよく耳にするが、やっぱり神代か。
あの女か、えっと、なんだ、そうだ、式谷、式谷優來だ。
神代の奴、何を考えてるんだ。
まぁそれは後々。とりあえず調べてやるか。