表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/783

082 暗闇の中でご褒美


 ぞろぞろと女の子3人を連れてきた俺へ、ミナヅキは扉を開けた途端につまらなさそうな溜息をついた。


「約束通りかくまってくれ」


「断る」


 扉をしめられた。


「えっ!?」


「シンク、ちゃんと説得したの?」


「いやいや、夕方にはちゃんとかくまってくれるって約束を取り付けたんだよ!」


 また扉が開けられる。


「女とは聞いてないぞ」


「そんなこと言わないで良いじゃないか」


「……ま、そうだな。しかし驚いたよ。榎本が――」そう言ってミナヅキはニヒルに笑う。「こんなに女ったらしだったとはな」


「成り行き上だよ。入るぞ」


「どうぞ」


 俺たちは治療院の中に入る。さすがに夜だから患者もいないようだ。治療院の中は静まり返っていた。


「明日の朝までか?」


 と、ミナヅキ。


 俺はシャネルを見る。


「馬車の時間は昼くらいよ」


「だ、そうだ」


「飯はでないぞ。ここは治療院だ、飯屋じゃない」


「それでいいさ」


 話している俺とミナヅキを見てシャネルたちが不思議そうな顔をしている。なんだよ、と視線をくれてやるとシャネルが3人を代表するように――


「シンクってそんなふうに他人と喋れたのね」


 なんて失礼なことを言ってくる。


「バカにしてんのかよ」


「ううん。可愛い女の子としかまともに話せないのかと思ってたから驚いただけよ」


「バカにしてるよな?」


 ま、否定できない俺がいるのだが。ちなみに可愛い女の子とは普通にしゃべれない。キョドるからね、シャネルなんかとの会話は慣れただけだ。


「そういやそこの女の子、怪我は大丈夫だったか?」


「ああ、うん。ありがとうございます」


 ローマはミナヅキに頭を下げる。


「治ったんならよかった。さて、俺はそろそろ眠る。お前たちはさっさと地下にいけ」


「誰かきてもごまかしてくれよ」


「当たり前だ、厄介事はごめんなんだからな」


 そんなこんなで地下に通された。


 別に布団があったりもしないが、布切れを4枚、ぞんざいに渡された。


「それでもないよりはマシだろ」


 と、ミナヅキ。


「ありがとな」


「ふん」


 扉をしめられた。暗い。もうあたりは見えない。


 そしたら眠気が感じられてきた。


「ふう、僕もう疲れちゃったよ今日は。ぐうぅ……ぐうぅ……」


 暗闇の中でローマの声がした。と、思ったら寝たのか?


 早いな、寝るの。


「私ももう寝るわ」


 シャネルがそう言う。


「私も。おやすみなさいです」


 ミラノちゃんの可愛らしい声。


 みんなしてよくこんな場所で寝られるなあ……。


 なんて思っていたら俺も眠れそうだ。


 暗いけれど目を閉じる。


 ………………なんだか甘い匂いがする。


 いや、なにもチョコレートとかアイスクリームだとか、そういう甘さじゃない。もっとこう、フェロモン的な。つまりは女の子の匂いがするのだ。


 野郎1人に女の子が3人。そりゃあ部屋の中の匂いだってむせ返るほどに甘くなるというものだ。いや、ローマの場合は獣臭かったりして。そんなことないと思うけどね。


 ダメだ、眠れない。


 なんだろう、変にドキドキしてくるぞ。


 それでも寝よう、寝ようとするのだが頭の前の部分が変に覚醒していて眠ることができない。こういうとき、平気で1時間くらい経っちゃうもんだ。


 どれくらいそうしていただろうか、時計がないので分からない。


ふと、なにかが俺の二の腕のあたりに触れた。なんかこう……むにゅっとしたもの。それも二つ。押し付けれて形が潰れて、その分だけ俺の腕に気持ちのいい感触が伝わる。


 そう、おっぱいだね。


 たぶんこんなことするのはシャネルだろう。というかそれしかない。(断定)


 しかし「やめろ」とは言えない男のサガ。むしろもっとやれってなもんで。


 ふむ、なかなか乙なものですな。


 光ひとつない暗闇の中。他の人もいる中で抱きつかれる。バレてはいけないというスリル。そして感じる愛情。


 というかシャネルさん……大胆すぎやしませんか?


 腕にあたっていた胸はそのうちに脇腹にずれている。体を横から抱きしめられる。


 甘い匂いがする――。


「お、おい、シャネル……」


 小さな声でとがめるように言う。


 これ以上やられたらやばい。なにがやばいって俺のあそこがやばい。たぶんこのまま押し倒しちゃう。それでむちゃくちゃに、もうむちゃくちゃにキスやらなにやらしちゃいそう。体を触ったり、あそこにあれをこすりつけたり――。


 でも俺の懇願のような声は無視されたようで、シャネルは――シャネルだよね?――俺の腰回りに抱きつく力を強くする。


 それから何をされると思ったら、下腹部を撫でられた。


 華奢な手が俺の大事な部分を下からなで上げる。


 やっぱりこれおかしいぞ!?


 いや、いくらなんでもシャネルはここまでしない。


 え、もしかして違うの? これシャネルじゃないの?


 まさか……ミラノちゃん?


 シャネルとミラノちゃんの胸の違いが分かるほどに俺はプレイボーイじゃない。いや、感覚的にはミラノちゃんの胸のほうが柔らかい気がしたんだけど……でもこれどっちだ?


 まさかこの暗闇の中で見えない相手に君の名は? なんて聞くわけにもいかないんだからさ。


 ま、少なくともローマではないよな。あいつ胸ねえし。


 指を舐められる。


 なんだよ、まさかこの暗さの中で見えてるのか? こっちのことが。


 人差し指をペロペロされて、くすぐったいけれど、それだけで気持ちが良くなる。


 そのうちに暗闇の中の美少女はだんだんと大胆になっていく。横から抱きつかれていたのが前からに変わり、そのまま俺は押し倒された。


 馬乗りになっているのだが――いかんせん見えない。


 ひらひらのスカートが俺の体を包み込むようにしている。どっちも同じようなゴスロリ服を着ているからそれは判断材料にはならない。


 でもシャネルにしては体が小さい気がするんだよ、やっぱり!


「ミ、ミラノちゃん?」


 俺は勇気を出して聞いてみる。


 これでシャネルだったらマジで最悪だぞ。


 でもその人はなにも答えない。まるで答えないことを楽しんでいるように。


 押し倒されたまま、手首を掴まれた。そのまま俺の手はいざなわれるように、その人の豊かに膨らんだ胸へと運ばれる。


 ――これ、揉んでも良いんですか!?


 あとでお金とかとられないよな、と思いながらも優しくタッチする。


 柔らかい。この世のものとは思えないほどの柔らかさ、力を入れればそのまま崩れてしまいそうなくらいに、でも俺の指はどこまでもその胸に沈み込む……。


 当然のごとく俺のあれがあれする。おっきくなる。


 ………………あ、これまずいわ。


 もう我慢できない。


 いきなり熱烈に唇を吸われた。まるで貪るようにして。


 そして、そして、そして!


 だが、胸を押し付けられたときと同様に、いきなりその人は俺から身を引いた。


 始まるのも突然だったら終わるのも突然だったというわけだ。まさかキスで満足したわけではあるまい。たぶん、これは試されているのだ。


 これ以上のことをしたいのならばあなたから来て、と。


 俺は迷いに迷う。


 たぶん相手はミラノちゃんだ。あの淫乱エルフもどきはなんでか知らないけど俺のことが好きらしい。それ自体はとてもう嬉しいこと。でも俺にはシャネルがいるのだ。


 うーん。


 ここから進めばもう引き返せない。


 うーん。


 このまま行けばたぶんミラノちゃんルート。


 うーん。


 そしたらシャネルは? たぶん俺の元から去るだろう。


 うーん。


 いや、シャネルのことだからそれでも良いと俺のそばにいてくれるかもしれない。


 うーん。


 こういうのを難しい言葉で懊悩おうのうというんだ。


 うーん。


 でもそうなればシャネルは悲しむよな……。


 俺はふと気がつく。俺は最初ミラノちゃんのことを考えていた。というよりも俺の欲望であり、つまりは性欲と戦っていたはずだ。


 でも途中から俺はシャネルのことばかり考えている。


 それってたぶん、俺がシャネルのことを好きだったことなんだろうな。


 俺はシャネルが一番好きだ。そりゃあ他の女の子も可愛いと思うし、もしかしたらエッチなことだってしたいと思うかもしれない。


 でも、やっぱり一番好きなのはシャネルなのだ。


 暗闇の中でさきほどまで俺に寄り添っていた影がため息を付いた。


「ひどい人……」


 俺はなにも答えない。それこそが俺の返答だった。


 その人はもう俺を諦めたのか、ちかよってこなくなった。


 一人の女の子を選ぶのってハーレムよりよっぽど大変だと思う。だっていろいろな誘惑と戦わなくちゃいけないのだから。


 でもそういうのって男として当然だと思う。


 きっと俺がもっと器用ならばたくさんの女の子を同時に愛せたはずだ。ま、そうだったら童貞じゃなかったかもしれないけど。つまりはそんな可能性はゼロなのだ。


 俺は目を閉じた。


 すると、なにかが俺の唇に触れた。


 まるでご褒美のようにキスされたんだ。


 でもそれはさっきの熱烈なものとは違う。冷たく、唇に触れる程度の、キスだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ