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081 ミラノ救出


 そして俺たちはなんとか奴隷市場の入り口まで到着した。


 この前も登った鉄製のハシゴ。この前と同じように俺が先頭だ。


 この先にローマちゃんがいると思えば足も早くなるというもの。たったったとハシゴを登りきり天井部分に埋まっている扉を開けた。


 身をだして、周囲の確認。この前と同じように3人の男――門番とでも言うべきか――がいる。


「ようこそいらっ――」


 言い終わらないうちに俺は当身を食らわせる。


 まず1人、気絶させる。


 そして2人目のアゴめがけて回し蹴り。


 2人目も沈む。


 そして3人目の首をしめる。


「うぐぐっ……」


 顔を真っ青にして3人目の男はジタバタともがく。しかしやがて動かなくなった。


「す、すげえ……」


 ローマが感心したように言う。


「見惚れてる場合かよ。シャネル、鍵はあるか?」


 地下から出てきたシャネルが気絶した男の体をあさる。すぐに鍵は発見された。それを鍵穴に差し込み、しかし回さない。


「いい、ここを開けた瞬間にとにかく魔法を使うからね。ローマちゃんはミラノちゃんの救出。シンクはそのサポート。良いわね」


 俺とローマは頷く。


 シャネルは俺にたいしてニッコリと笑った。


「なんだよ」


「シンクって本当に優しい人よね。こんなところまで来て人助けなんて。そういうところ、大好きよ」


「言ってろよ」


 ちょっと恥ずかしかった。人から優しいなんて評価されること、あんまり経験なかったから。


 隣ではなぜかローマが顔を真っ赤にしている。たぶん大好きっていう告白を聞いて、隣にいるだけなのに照れたのだ。お子ちゃまめ。


「じゃあ行くわよ、3……2……1……」


 そして扉が開け放たれる。


 と、同時にシャネルが詠唱を開始した。


 その詠唱の完了までの間に俺はあたりの様子を確認する。


 人はこの前よりも多い。そのどれもが欲望に忠実な最低な野郎どもだ。


 壇上にはミラノちゃん。そしてかつての面影などまったく残さない、醜く肥え太った水口。


 タイミングは偶然にもばっちりだ、ちょうどミラノちゃんのオークションをやっている。もっとも、今日はどうせミラノちゃんのオークションしかやらないのだろうが。


 俺たちがいきなり入ってきても、こちらを向いた客は数人だった。ほかの客はミラノちゃんにでも見とれているのだろう。


 だが――。


 シャネルが詠唱を完了した。


 その刹那、部屋中に花火が飛び散った。


 色とりどりの花火だ。とてつもない音もする。きれいだと喜んでいる暇なんてない。


「行くぞ!」


「うんっ!」


 俺とローマはミラノちゃんに向かって走り出す。


 ローマは動きがすばやく、逃げ惑う客たちの間をぬっていく。だが俺にはそんな器用なことはできないので他の客たちを突き飛ばしながら壇上へと向かう。


 だがそんな逃げていく人間とは別に、俺たちに向かって来る人間がいる。


 ウォーターゲート商会のやつらだ。


 できれば殺したくはない――。


 俺はそういう思いで剣を振るう。人を殺すのって楽しいことじゃない。とくにこうやって剣で斬るってのはぞっとしない。


 逆にさきほどの『グローリィ・スラッシュ』のような手に感触の残らない方法ならば、まだマシなのだが。


 俺は向かって来る敵の腕や足を重点的に狙って斬る。


 さすがにこれならば死なないだろう、死んだらごめんね。


 花火はまだなり続いている。かなり大規模な魔法だ、シャネルのやつさてはジェネレーターだとかいう魔道具を使ったな。


 ローマがミラノちゃんのところまで到達した。


 ミラノちゃんはシャネルがプレゼントした白いロリィタドレスを着ている。だがその首には極太の首輪がつなげられていた。


 首輪から繋がった鎖の先には頑丈そうな柱がある。


「くそ、だめだ! はずせない!」


 ローマが焦ったように叫ぶ。


「誰でもいい、そいつらを捕らえろ! いや、殺しても良い! 褒美はどれだけでも出す!」


 水口が口から泡を飛ばして叫んでいる。


 醜いものだ。


「邪魔だ」


 俺は向かって来る敵を切り捨てる。


 壇上まで行き――水口を睨む。


 水口が恐れおののき、一歩後ろに下がった。


「シンクさん!」


 と、ミラノちゃんは俺に抱きつこうとする。だが俺はそれを手でせいした。


「シンク、だめなんだ。この首輪が頑丈で外れないなんだ」


「どいてろ、ローマ!」


 俺は力の限り鎖に剣を突き立てる。


 ――ガッギンッ!


 だが鎖を斬ることはできない。


「はっはっは、無駄だ無駄だ! それは特殊な魔術で加工してあるんだ! 剣なんぞで斬れるものか!」


 水口が自信満々に言う。


「そうかい」


 だからどうだというのだ。


 俺は剣を腰だめに構える。


「ローマ! お前は向かって来るやつらを迎撃しろ!」


 こうしている間にも俺たちのいる壇上にはウォーターゲート商会のやつらが押し寄せてきている。


「うん!」


 俺は魔力を剣に込める。


「シンクさん、なにするつもりですか!」


「怖いと思うから目をつむっててくれよ!」


 行くぞ、と俺は剣を振り抜く。


「隠者一閃――グローリィ・スラッシュ!」


 いつもより出力を抑えてのグローリィ・スラッシュだ。


 そんなことをやるのは初めてだったので上手くできるか心配だったのだが、なかなかどうして。うまいことできた。


 俺のはなった黒い一撃は鎖だけをちぎることに成功したのだ。


「よし、やったぞ! シャネル、撤収だ!」


 少し離れた場所にいるシャネルに言う。


 シャネルは杖を振り回している。振り回すたびに花火が出ているのだが、その表情はなんだか楽しそうだ。たぶん面白くなってきてハイテンションになっているのだろう。


「分かったわ!」


 しかし引き際はわきまえている。


「さあミラノ、行くぞ!」


 ローマがミラノちゃんの手を引く。


「う、うん!」


 俺たちは出口に向かって走り出した。


 先頭はシャネル、そしてローマ、ミラノちゃんと続き俺がしんがりだ。


 この前出たときも道はだいたい覚えていた。


 シャネルは向かってくる敵を火属性の魔法で蹴散らしていく。俺も追ってくる的に向かってグローリィ・スラッシュをぶっ放してやった。


「待て、待ってくれ~! わたしのものだ、その金はわたしのものだぁ~!!!」


 遠くから水口の泣き言が聞こえた。


 バカか、ミラノちゃんはお金なんかじゃない。一個人だ。だからこそ、彼女は自由であるべきなのだ。誰の所有物でもない。奴隷なんかじゃないのだ。


 俺たちは商館の中にでた。


 ここはウォーターゲート商会の総本山なのだが、しかしよっぽどお金がないのか活気というものがまったくない。奴隷市場のほうが人がたくさんいたほどだ。


 そのまま外へと飛び出す。


「わぁ……星空」


 ミラノちゃんが空を見上げて言った。


 たしかにきれいだ。こういうのを満天の星空というのだろうか。どこもかしこも夜空中が星でいっぱいだった。


「見てる場合じゃないぞ、逃げるぞ!」


 ローマが言う。


「そうだな」


 そして俺たちはまた走り出した。


 どこへって? 別に隠れ場所である治療院にじゃない。それはきっと自由に向けてさ。なーんて、たまにはちょっと格好つけてみたくなる。


 なんにせよミラノちゃんが助けられてよかった。


 あとやることは1つ。絶望した水口を殺す、俺がこの手で。





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