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763 からまれて


 ゴリラ1が突進してきた。


 その動きは巨漢に似合わず、素早い。


 だが俺の目にはスローモーションのように映る。


 突進、それに見せかけてフェイントを一つ入れてくる。


 一瞬だけタイミングをずらしてきたのだ。


 しかしそんな小手先の技、俺には通用しない。


 突進の勢いを少しだけ緩めようと相手の重心がぶれた瞬間、その動きに合わせた。相手の肩を押す。それと同時に出足を引っ掛けた。


 そのまま、男はその場に転けた。


 俺はほとんどその場を動いていない。


「えっ、どうして!?」


 ランティスが驚きの声をだす。


 むしろゴリラ1が勝手に転けたようにすら見えただろう。


 余裕の表情だったゴリラ2の方も、さすがに動きを見えた。


「お、おい。なにしてんだよ!」


 仲間のゴリラ1の方へと声をかける。


「いてて……」


「早く立てって!」


「わかってる! あれ? 剣は?」


 男が立ちあがる。しかし先程まで手に持っていた剣がないようだ。


 とうぜんだ。


 俺が持っているのだから。


「ほら、返すよ」


 俺は剣を投げ捨てる。


 けっこう重い剣だったので、奪ったは良いが持っているのが面倒だったのだ。


「て、てめえ!」


「ほら、どうした。拾えよ。べつに拾ってる間に攻撃したりはしないさ」


 ゴリラ1が剣を拾って、一旦距離をとった。


 懸命だ。


 とはいえ、俺が本気ならばいまごろこの二人は息絶えているだろうが。


「舐めんじゃねえぞ、俺たちはC級の冒険者だぞ!」


「そう、もうすぐB級になる予定だ」


「へえ」


 それがどれくらいすごいのかはよく分からない。けれどランティスはその言葉を聞いて怯えたような顔をした。


 この学者のような顔をした青年は、どうにも冒険者に必要な闘争心というものをまったく持ち合わせていないようだ。仕事を変えればいいのにな、と俺は戦闘の中で関係のないことを考えた。


「お前らのランクは知らねえが、大方FかEってところだろう!」


 ゴリラ1が大声で言う。


 声量もゴリラ級だ。


 あんまりにもうるさいものだから、通行人が足を止めた。


「はあ……」


 俺はため息をつく。


 できることなら俺も見物人の立場でいたかった。


「べつにランクは関係ないだろ」


「はんっ、弱いやつほどそう言う!」


「そうだそうだ」


 ギャラリーを背負って気分が良くなったのだろう、ゴリラたちの口はよく滑る。


 いい加減、イライラしてきた。


「御託はいい……さっさとかかってこいよ」


「かかってこい、だと!」


「おいおい、あいつはビビって動けないんだぜ」


 俺は刀を正中に構えた。


 べつにこちらから打って出ることも出来た。


 けれど、それだと一方的な暴力に見られる可能性がある。せめて相手から一発は攻撃をしかけさせないと正当防衛と思われない。


 静かに、ただ静かに俺は待った。


 ゴリラ共はしびれを切らしたのだろう。


「俺が行く!」と、ゴリラ1の方が言う。


 どうやらゴリラ1の方が前衛で、ゴリラ2の方が後衛なのだろう。


 警戒するのはむしろゴリラ2の方だ。持っている武器がかなり細身の剣だけ。いったいどんな攻撃をしてくるのだ?


「うおおおっ!」


 ゴリラ1の方が剣を振り上げて向かってくる。


 先程よりも早い。


 それに、


 ――ブンッ!


 と、大ぶりだが空気を切り裂くような音がした。


 攻撃がかなり重たくなっている。


 おそらく肉体を強化するたぐいの魔法、あるいはスキルが発動している。


「ふっ」


 俺は軽く息を吐く。


 相手の攻撃は空振りする。


 しかし相手はやたらめったらに剣を降り続けた。その猛攻は一見して、無茶苦茶な攻撃に思える。


 ――だがその実、本命はゴリラ2の方!


 明らかにこのゴリラ1の攻撃は揺動だ。


 実際の止めを刺そうとしているのはゴリラ2。こちらの隙きを狙っているようだ。


 不気味だ。


 しょうがないので誘ってみることにした。


 俺は普通に動いていれば当たらないゴリラ1の攻撃を、あえて刀で受けた。そのまま受けては刃がずたずたになるので、うまい具合にそらす。それでも足は止まった。


 その瞬間だった。


 ゴリラ2が剣を抜いた。


 いいや、違う。


 それは剣ではなく、剣のような形をした杖だった。


 ――なるほど、魔法攻撃か!


 人間、見かけによらないということだ。


 いかにも強面、筋肉に自信があるという冒険者がまさか魔法を使うとは思わないという思い込みや盲点を突いた作戦だ。


 放たれた魔法は火系統の基本技である『ファイアーボール』だ。シャネルもよく使う技である。俺が見慣れたものよりも弾速は遅く、また火球の色も違う。


 とはいえ普通の人間ならば避けられない速度と、そしてタイミング。


 しかし俺は抜群の反応速度で刀を振るう。


 小さな火球は、俺の刀によって真っ二つに切り裂かれ、そしてかき消えた。


 刀が赤く輝く。『クリムゾン・レッド』はある程度までの魔法――あるいは魔力と言った方が良いか――を吸収することができるのだ。


「なるほどな」


 種は割れた。


 これでもう怖くはない。


「くっ――」


 ゴリラ2の方は魔法を乱射してくる。


 しかしそんなことをすればゴリラ1の方にも当たる可能性がある。


「危ねえだろう!」


「さっさとどけ!」


 仲間割れのように怒号がとぶ。


 見るに堪えない、そろそろ良いだろうと思い俺はまずゴリラ2の方へと歩み寄った。


 その動きはある種の緩慢さがあるもので、しかし敵の攻撃は一切俺にかすりもしない。


 手を伸ばせば届くような距離まで、俺は歩みを進めた。


 ゴリラ2が護身用のナイフを抜く。


 しかしその刃先は抜いたその瞬間に柄と離れている。俺が斬ったのだ。


 そして何が起きたのか理解できていないゴリラ2の脇腹を、刀の峰で鋭く打った。


 悶絶して、その場に膝をつく男。俺はその顔面に蹴りを入れた。


 これでゴリラ2は気絶。


 もう1人。


 ゴリラ1の方が手を上げた。


「お、おい冗談だろ?」


「なにがだ――」


 どうやら戦う気はなさそうだが。すでに戦意喪失。


「そんなマジになんなよ、ちょっとしたおふざけじゃねえか」


 俺は刀を構えた。


 いまさら冗談でしたでは済まない。最初、この男たちは本気だったのだ。


 ゴリラ1に近づく。


 こちらの本気は理解したのだろう。ゴリラ1は必死の抵抗を試みるが――。


 一瞬で勝負はつく。


 俺は刀の峰でゴリラ1の手首を打つ。それでゴリラ1が剣を落とした。そこから、開いている左手でみぞおちを貫く。


 これで2人とも、気絶した。


「ふう……」


 まったく、この手のやからはどこにでもいる。


「勝ったんですか!?」


「ああ」


「こ、殺したの?」


「まさか、気絶してるだけさ。アザくらいにはなるだろうけどな」


 周りに人が集まっていたので、このまま放っておいても誰かが何とかしてくれるだろう。


 面倒なことになると嫌なので、俺はランティスを連れてその場をさっさと離れることにする。


「行くぞ、ランティス」


「うん、ついてきて!」


「おう」


 小走りで走るランティス。


 どこに行くつもりだろうか?


「とっても強かったんだね!」


「相手が大したことなかっただけだよ」


「謙遜しちゃってさ!」


「で、俺たちはいまどこへ向かってるんだ?」


 ま、どうせ行く場所なんてないからついていくだけなんだけどね。


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