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747 シャオシーの復讐とその姉


 ティンバイはその後、掘っ立て小屋には戻らなかった。シャオシーの家に招待されたからだ。


 家は小さな一軒家で、けれど子供が1人でクラスには広すぎるくらいだった。元からそう裕福ではない暮らしをしていたのだろうということが雰囲気で伝わってきた。けれど幸せだったのだろう、とも思った。


「大したもんは出せないんだけど、もてなさせておくれよ」


 出されたのは質素なかゆだった。


「ほう、良いのかい? なら俺様も夜メシを出すよ」


 ティンバイはお礼に、と自分が持っていた保存食である干し肉を渡す。たっぷりの塩でつけられた干し肉は薄味の粥と相性が良かった。


 それを食いながら2人は無言だった。


 なにか喋ろうとティンバイは思うのだが、シャオシーのただならぬ雰囲気を察知してあちらから話を切り出すのを待った。


 無言の食事の中でティンバイもシャオシーも空気を張り詰めさせている。楽しい食事とはとてもじゃないが思えない。


「あ、あのさ……」


 とうとうシャオシーが口を開く。


「どうした?」


 シャオシーは干し肉を噛み切ろうとしながら、上目遣いにティンバイを見つめる。


「お願いがあるんだ、聞いてくれるかい?」


「うん、話は聞いてやる。だがお前さんの願いをきいてやるかは別だ」


 だから、その意識を見せてみろとティンバイは睨むようにシャオシーを見つめ返す。


 普通なら、大の大人でもティンバイに睨まれて萎縮してしまうところだ。けれどシャオシーは勇気を振り絞るようにティンバイを見つめ返した。


「オイラに、モーゼルを貸してやってほしいんだ!」


「ほう、モーゼルを。なぜ?」


 理由は分かっていた。


 それでもティンバイは聞く。


 これは意地悪ではなく、シャオシー自身に自分の決意を確認させるためだった。


「オイラ、殺したいやつがいるんだ」


「ほう、それは誰だ」


「孫家のやつだ、あいつを殺さないと。オイラ、姉ちゃんを助けたいんだ!」


「ほう、助ける……とな?」


 ティンバイは驚いた。


 じつに勝手な話だが、てっきりシャオシーの姉はすでに死んでいるものかと思っていた。


 もしもその生命がまだ助かるというのならば。


 ティンバイは少し笑った。勘違いしていた自分が悪いと思ったのだ。


「姉ちゃんは孫家のやつに連れ去られた」


「ああ」


「親だって殺された」


「おう」


「だからせめて姉ちゃんだけは助けないと」


「助ける……か。復讐とは考えないのか?」


 シャオシーは一瞬、キョトンとした顔をした。そしてすぐに顔をこわばらせる。


「あ、あたりまえだ! 復讐してやるんだ!」


 なるほどな、この子は本当に良い子だ。


 自分の憎しみのために戦おうとしているわけではなく、家族のために戦おうとしているのだ。


 この子は似ている、とティンバイは思った。けれど違うところもある。


 強さの表裏である。


 他人のために人を殺す、自分のために人を殺す。


 それは似ているようで違う。


 ティンバイはこの子供がその願いを叶えたさい、どんなふうに前に進むのかが見てみたくなった。


「貸してやろう」


 ティンバイは自分の懐からモーゼルを取り出した。


 ティンバイが愛用するモーゼルである。これは彼の父親の形見であり、彼が初めて人を殺したのものこのモーゼルでだった。


「良いのかい?」


「ああ、もちろんだ。使い方は分かるな」


「大丈夫、だと思う」


「撃ったことは?」


「ないけど。練習させてくれるかい?」


「ならねえ。大丈夫だ、お前さんの気合しだいで、このモーゼルの銃弾は必ず当たる」


「そんな――」


 嘘でしょう? と、シャオシーは目を見開く。


「信じろ、俺様がそうだった」


 実際、ティンバイはこのモーゼルを初めて撃ったその日から、ここぞというところでは必ず百発百中だった。


 シャオシーはティンバイの言葉を頭から信じたというよりも、信じることに決めたのだろう。ティンバイからモーゼルを受け取った。


「さて、そうと決まれば決行は早いほうが良いな」


「いますぐ行くよ」と、シャオシーが言う。


「いいや」と、ティンバイは首を横に振った。「まずは寝るぞ」


「寝る?」


「そうだ。万全を期す。狙うなら深夜、相手が眠っているときだ」


「そ、そんなのは卑怯なんじゃないかな?」


「若いな。殺し合いするんなら卑怯もクソもねえさ。まず一眠りして英気を養う。そこから闇討ちをかける。相手は夜中に叩き起こされて、さぞあたふたすることだろうぜ」


 シャオシーは納得して頷いた。


「分かったよ」


「ああ、言ってなかったが。とうぜん俺様もついていくぞ。なあに、お前さんの殺したい相手は取らねえよ。用があるのは腐れ馬賊共のほうさ」


「馬賊?」


「ああ」


 自分の名前を語ったやつらを許せない、という思いがあった。


「馬賊と戦うの?」


「そうだ」


「どうして? ヅォさんが戦う必要なんてないでしょう?」


「それがあるんだな。ガキには分からねえだろうが」


 さっさと寝ろよ、とティンバイは言った。シャオシーは素直にそれに従う。夜がふければ起こしてやる、と言ってティンバイも目を閉じた。


 ティンバイは眠ることはしない。


 それはただ目を閉じて、体と頭を休めているだけだった。


 そしてシャオシーも。猛った思考は容易に眠りを許さない。それでも眠るんだ、とティンバイは何も言わずに雰囲気で訴えるのだった。


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