713 戦い
敵の4体は俺を取り囲むように位置取りをする。俺は両手に持った武器で、できる限りの隙をなくすようにした。
それでも4体1ではまずいかもしれない。
とにかく相手の数を減らすことが先決だ。
それに、いちばん怖いのは敵がガングーを狙うこと。ガングーはいまもこちらの戦闘を見る余裕などないようで、キーボードを叩き続けている。
女神ディアタナはこうして俺たちそれぞれに攻撃をしかけて、俺たちの存在を消そうとしているのだ。
「ボー」
という音がした。俺を囲んでいる奴らのうちの背後からだ。
そちらが気になり目を向けそうになる。しかし攻撃してくる気配はなく、まさかこれは俺の気を引く作戦なのかと疑う。
俺の左右のやつらが同時に襲いかかってくる。こいつらの武器は両方とも剣だけだ。しかし動きが早い。
いままでの敵とはぜんぜん違う。
かわす? それとも迎え撃つ?
迷いの中で俺の動きはどうにも重たい。
「くっ!」
とっさの判断がつかずに、俺は後ろにさがるようにして攻撃を避けた。敵の攻撃はからぶり。そのまま俺は後ろを振り返る。
後ろの敵は少し離れた場所にいた。こちらが持っているの武器は斧と盾。とにかく後ろからの攻撃が怖い。俺だって後ろに目があるわけじゃない。気配だけを頼りに背後を警戒するのは無理がある。
刀ではとどかない距離。ならばとモーゼルを向けて弾丸を打ち込む。だが人形の影は盾をかかげてそれを防いだ。
カン、カン、カン。
影に当たったモーゼルの弾は、なぜか金属がぶつかり合うような音を出す。
「どうなってんだ!」
一対多の場合のセオリーは動き続けることだ。足を止めるなんて愚の骨頂。とにかく動き続けて、相手の攻撃から当たらない位置、あるいは相手と一対一の戦いになれる位置をとる。
しかし――。
俺が逃げるように動くと、影たちの内の1体がガングーの方へと向かおうとした。
「なっ――」
そうだ。
これは俺だけが敵を倒せば良いような戦いではない。俺にはガングーを守るという使命があるのだ。
俺とガングーの間には敵がいる。そのさらに先にガングーを狙う敵が。
ガングーももちろん敵が来ていることに気づいているのだろう。しかし画面から目を離すことはできないのだろう。その額に汗が浮かぶ。
まずい――。
俺は足にありったけの力を入れて走り出す。
俺を止めようと敵が一体こちらをブロックするように前に立とうとするが、そんなものに構っている暇はない。
俺はその脇をすり抜けてガングーに襲いかかろうとしている影に後ろから斬りつける。
敵を背後から襲うというのはあまり楽しいことではないが、このさいそんなことを考えている場合ではない。
「冷や汗ものだぞ!」
と、ガングーが文句を言う。
その間にも指は器用に動き続けている。
「すまん」
いまのは俺もひやりとした。
それで、俺は自分があまり冷静ではないことに気づいた。
俺はさっきから無駄なことを考え続けている。こんな調子ではダメだ。
「ガングー、俺は少し集中するぞ」
「まだしてなかったのか!」
怒られた。
ま、そうだよな。
少し笑って、その笑ったのに合わせて息を全て吐いた。そして呼吸を浅くして、見るでもなく俺は俺の敵を眺めた。
俺の心が静かになる。
まるで水面に映った水鏡の景色を見るように周囲を確認した。
敵は依然として4体いる。
俺はガングーを守るように前に立ち、右手に刀を、左手にモーゼルを構える。
相手が動こうとする。その瞬間にモーゼルを撃ちこむ。動き出そうとした相手は体が無防備になっていた。俺の弾は避けられることはなかった。
あと3体。
そして次に動き出そうとしたやつは、あえて動かせるその動いた先を予想して、先に弾を置いておくように撃った。これも避けられなかった。
あと2体。
残るは斧と盾を持つ、重量級。それと剣を持つ、普通のやつ。そいつらは重量級の盾を前面に押し出して、そろって前に出てくる。
だからどうした?
俺はゆっくりと歩くように前に出て、相手と近づいた瞬間に横に回り込む。相手は盾を横にスライドさせてくるが、俺の狙いは後ろにいた軽装の敵だ。
剣を向けてくる。
突き刺そうとしてくる。
それは俺に当たらない。すでに当たらない位置に移動している。そしてこちらの反撃。
一瞬だった。
影は斬れ、絶命――それを絶命と言ってもいいのか分からないが――する。
そして残る敵はあと1体。
斧だの盾だのはもう問題にはならない。フットワークで撹乱して、相手の動きがついてこなくなった瞬間に勝負を決めた。
「どんなもんだい」
気を高ぶらせないようにガングーに報告する。
「いい調子だ。けど、相手もまだ来るぞ」
分かっている。
これはおそらく、シャネルの五行魔法が成功するまで続くだろう。いいや、もしかしらたその後も? 俺はいつまで戦い続けるのだ。
今度は無数の影が浮き上がってくる。
すでに数は100を越えていそうだ。
「とんでもない数だぞ」
ガングーも分かっているのだろう。
「任せておけ」と、俺は言う。
「それと榎本シンクくん、シャネル・カブリオレはもうすぐだ」
「そうか」
それは良い、と俺は思った。
もしシャネルが来てくれればこんな敵も魔法で一掃してくれるだろう。俺の『グローリィ・スラッシュ』は燃費の悪さを考えたときに使うのがためらわれる。
敵が一斉に出てくる。
「なんでも良いがね、ガングー」
「なんだ?」
「あんたもどうしてこんな敵に襲われそうなカフェの前にいるからね。適当に建物の中にでも隠れててくれよ」
「すまんな」
まあなんだって良い、俺は俺のやることをやるだけなのだから。




