694 殺し合いの場での同族嫌悪
それがどのようなものなのか、俺には分からなかった。
ただ何かしら強力な重火器であることは理解できた。
いわゆるアサルトライフルというやつだろうか。まさか銃の名前までは分からないが、なんとなくそれだけは分かった。
拳銃が作れて、スナイパーライフルがつくれるなら、アサルトライフルだってお手の物か。
銃口がこちらに向けられる。引き金が引かれる。次の瞬間には、銃弾が乱射された。
だが――。
銃弾の方向は一直線。俺はすでにそれが当たらない場所に移動している。その動きは自然と早くなっている。俺は周囲を走り回る。銃弾を避けているのではなく、ただ走っている。その結果として弾丸は当たらない。
しばらくすると、弾が切れたようだ。
シワスがアサルトライフルを投げ捨てる。銃では勝てないと見たのだろう、次は刀を出現させた。
その判断は間違っていないだろう。
俺を殺すのにそんな兵器では荷が重いのだ。
「このっ!」
シワスが飛びかかってくる。
今度は一本か。
後ろに控えたクリスが不気味だ。なにかを狙っているようだ。
シワスは早い。驚くほどに。俺の目でもとらえられるかギリギリ。
それでも俺の体はかってに動く。シワスの斬撃が当たらない場所へ、当たらない場所へと先回りしていく。
最初こそ驚いていたシワスも、やがて自分の攻撃がどうしても当たらないことに腹を立てはじめた。
「ふざ、けるなあぁつ!」
激昂して剣を振るシワス。
そんな態度ではこちらの思うつぼだとも知らずに。怒れば怒るほどシワスの攻撃は回避しやすくなっていく。
シワスは一本がダメならば二本と思ったのだろう。刀を増やす。だがそんなものは意味がない。刀が二本に増えようと、その倍だろうと、なんなら千本だろうと、俺にはかすりもしないだろう。
だが、そう思っていたときクリスが杖を振った。
その瞬間、クリスの杖を中心として光の輪が水にうかぶ波紋のように広がってくる。
その光の輪は先にシワスに触れる。しかしなにもおこらない。光の輪は広がり続けてこちらに近づいてくる。
嫌な予感だ。
俺がしゃがむと、頭の上をその輪が通過した。輪は広がったすえに雲散霧消した。
なんだったのだ――。
シワスが突撃してくる。
その手には先程のアサルトライフルが握られていた。
「死ねよ、榎本!」
なるほど、遠くからでは当てられなかったので至近距離からなら、という考えか。
しかしそんな浅知恵に意味はない。
どんな距離からでも当たらない。むしろ俺の刀の届く範囲に入ってなおかつ両手でアサルトライフルを持っているのだ。
俺はまず、アサルトライフルの長い銃口を斬った。
それで発射の衝撃が想定外の方向に来たのだろう、シワスは銃弾を撃ち出したままそのライフルの銃身を上にあげていく。
天に巻き上げられる銃弾。
俺は踏み込んでシワスを切り裂こうと横薙ぎに刀を振った。しかしシワスは銃の反動を利用してそのまま後ろに飛ぶようにして下がった。
すぐさまアサルトライフルを投げ捨てて、新たな武器を錬成しようとする。しかしその前に俺は追撃を、とさらに足を前に動かした。
だが、その瞬間、クリスの杖からまたもや光の輪が出てくる。
まるでフラフープを大きくしていくように光の輪は広がる。
俺は本能的に危機を察してしゃがむ。しかしその輪はもう一本、広がってくる。今度は少し下の方だ。
上にジャンプしてよける。
しかしそのせいで俺の体は身動きのとれない状況になった。
シワスの両手には拳銃が握られている。それを交互に撃ち出してくる。俺の命をとったつもりだろうが、そうはいかない。俺は刀で全ての銃弾を撃ち落とした。
「無茶苦茶だ!」
そうだろうか、と俺は心の中で返事をする。
おそらくシワスもやろうと思えばできるはずだ。空中を飛びながら銃弾を斬るくらい。
それでも驚くのは、おそらくいままでこういうことをやってこなかったからだろう。
無事に着地。
しかしやっかいだ。
シワスが無尽蔵に出してくる武器も、クリスのあの光の輪も。あの光の輪はシワスに当たってもなんの危害もないようだが、俺に当たった場合はどうなるかまったくの未知数だ。もしかしたら当たった体の一部が消し飛んでしまう、なんてこともありえるかもしれない。
まるでイライラ棒でもやっている感覚。
シワスをいなしながらも、あの光の輪もよけなくてはならないだなんて。
「榎本、お前なんなんだよ」
シワスが、なにか言っている。
どうやら俺との決着をつけるために、会話の必要性を感じているらしい。
俺はべつにこいつと話すことなどない。ただ殺せればよかった。ただシワスは違うのだろう。
「なんなんだ、とは?」
戦いの最中に話をするのはあまり好みではない。
「いい加減しつこいんだよ! お前、何度も何度も!」
「それはこっちのセリフだ」
「なんで死なない、なんで殺せない!」
「そりゃあ俺だって簡単に死んでやるわけにはいかないさ」
何を言っているのだろうか、こいつは。
人間、一部を除いて基本的には死にたくなどない。
だから必死に生きるのだ。
泥水をすすってでも。
それをなぜこいつは人を殺せるのが普通のように言うのだろう。
いや、普通は人なんて殺してくないはずだ。俺だって……。
「お前なんて中ボスのくせに!」
中ボスか、と俺は思わず笑ってしまう。
「ゲーム感覚だよな、本当に」
俺とこの男は違うと思った。
俺はこの世界で次に進むためと復讐をした。たしかにそれをするための力はあった。だが、必死だった。
けれどこいつは遊んでいるのだ。ゲームのように。ただ楽しんでいる。
これまで苦戦すらしたことはなかっただろう。
あるいはただ女神ディアタナに導かれてここまで来ただけなのかもしれない。
来た、というよりも、来てしまった。
この場に。
殺し合いの場に。
シワスの目には恐怖の色があった。
「お、俺は、お前を殺すんだ」
シワスはそう言った。
「どうしてだ」
俺はそう聞いた。
だってそうだろう? 俺にはこの男を殺す正当な理由がある。いや、正当かは分からないが。ただこいつにはタケちゃんを殺されて、土方の死体だって埋葬する暇もなく粉々にされた。
けれどこいつは?
俺に恨みでもあるのか。
まさか復讐したいわけでもあるまい。
「め、女神がそう言ったからだ――」
「ディアタナか? 女神がそう言ったら、人も殺すのか?」
「こ、殺すさ!」
売り言葉に買い言葉だろう。シワスは叫ぶように言う。
俺は冷たく笑った。
「そうかい。俺も殺すよ。ただな、俺は女神になにか言われなくてもだ」
シワスが怯えたように下がる。
こいつの精神はどうなっているのだ、と思った。
弱い、と。
俺は刀を構えた。シワスも慌てて構えをとる。
しかし、こいつの剣に構えなどあっただろうか、と疑問に思った。こいつはいま、恐れて自分を見失っているのではないだろうか?
「お、お前――なんなんだよ」
と、またシワスが聞く。
なんだ、その質問は?
「榎本シンクだ」
「違う、お前は化け物だ!」
化け物?
いいや違うね。
俺は正常だ。
狂っているのは俺ではなく、シワスの方だ。人を殺しても何も思わないシワスの方。
だが、そこまで思って俺は考えを改めた。
――それは俺も同じだ。
だからきっと、俺とシワスは似ているのだ。
違うところもあるが、似ているところもある。これはきっと、同族嫌悪だった。




