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069 星の目


 そして朝が来た。


 完璧な朝だ。


 どう見ても朝。


 かつて昼夜逆転生活をしていた俺からすればこれほど清々しい朝もない。なにせ隣にはちょうぜつ美少女が――あれ、シャネルがいない。


 起き上がって部屋を見る。


 ベッドにはすやすやと寝息をたてているミラノちゃんが。


 俺が起きたからだろうか、ミラノちゃんも目を覚ましたようだ。


「……おはようございます」


「お、おはよう」


 なんだか微妙な関係。


 っていうかいきなり知り合いとも言えない女の子――しかもエルフ!――と一緒の部屋って。童貞にはかなり刺激が強いのです。


「あー、あれ? シャネルいないなー」


 ミラノちゃんに話しかけているのか、それとも独り言なのか自分でもわからない。


 ミラノちゃんはそんな俺をじっと見つめて、なにをするかと思えばベッドの上で土下座をした。


「え、な、なに。いきなり?」


「昨日はろくに感謝もしておらず、すいませんでした」


「い、いきなり感謝されても。それに俺、ローマのことを見捨てたんだぞ」


「いえ、ローマのことですから。たぶん自分の身を犠牲にしたんだと思います、違いますか?」


 俺はミラノちゃんを見つめる。


 この子はとても鋭い子だ。


「あの子、怪我していましたよね?」


 おいおい、それもバレてるのかよ。ミラノちゃんには隠したんじゃないのか。


「まあ、少しな」


 実はかなりの大怪我だったけど。


「あの子は、私に絶対に弱みを見せません。だからきっとそうとうに辛かったんだと思います。あそこで貴方たちに会えたのは女神ディアタナのお導きでしょう――」


 ミラノちゃんは腕の前で手を合わせる。まるで祈るようにだ。


 どうも信心深い女の子らしい。


「ディアタナねえ……」


 ま、少なくともそんな見たことのない女神様の加護じゃないことは確かだろうな。あそこで俺たちが出会ったのは偶然だ。


 ガチャリ、とドアが開いた。


 見ればシャネルが帰ってきていた。


「あら二人とも、起きたのね」


「シャネル、どこに行ってたんだよ」


「街の様子を見てきたのよ。昨日より少しは警戒も解かれてるけど、やっぱりまだ雰囲気は悪いわね。そっちの――女の子がまだ見つかってないからでしょうね」


「ミラノちゃんか。あっ、そういうえば!」


「なによ、大きな声出さないで。周りの部屋にも迷惑よ」


「そうじゃなくてさ、ミラノちゃんがエルフじゃないってどういうことさ!」


 俺はベッドに座っているミラノちゃんに近づく。


「ほらこれ、どこからどう見てもエルフでしょう! 耳だって尖ってるしさ!」


「顔も可愛いし?」


「なんだ、シャネル。嫉妬か?」


「別に、でもその子はエルフじゃないわ。ただの半人よ。そうよね?」


「……はい」


「なんだって!」


 嘘だろ。とうとう夢のエルフに会えたと思ったのに。


 ただの半人? ただ耳が尖ってるだけ?


 いや、でも待って。それってエルフとどう違うの……? 美人で耳が尖っててエロかったらそれってエルフじゃね?(偏見)


 ちなみに僕は巨乳のエルフが好きです。貧乳エルフも好きだけどね。


 つーかエルフならなんでも大好き!


「エルフだろ? エルフって言ってくれよ……」


 俺はがくりとその場に倒れ込む。


「昨日シンクがいない間にいろいろ話したのよ。それで事情もだいたい聞いたわ」


「……そう」


「こっちの事情も話した」


「……あっそ」


「どうしてこの方、こんなに落ち込んでいるんですか?」


 ミラノちゃんがちょっと引きながらシャネルに聞いている。


「さあ、知らないわ。シンク、ちょっとシャキッとしてよ」


「だってエルフじゃないんでしょ!」


「そうよ。その子の目、見てみなさいよ」


 目?


 俺はミラノちゃんの目をじっと見てみる。うーん、きれいなお目々。現代日本じゃ見たこともない緑色の目をしている。エメラルドのようだ。


「おかしいでしょ?」


 と、シャネル。


「え、わからない」


 ミラノちゃんは恥ずかしそうに顔をそむける。それで俺も恥ずかしくなってしまう。


「エルフの瞳ってね、本当は星みたいな輝きがあるのよ」


「そうなのか?」


 こくり、とミラノちゅんが頷く。


 そういえばあの奴隷市場でミラノちゃんを初めて見たときは目の中に星みたいな光があったような記憶がある。


 それが、いまはたしかになくなっている。


「だからその子は偽物よ」


「でも目は? この前はちゃんと光ってたぞ」


「あれはコンタクトレンズっていうらしくて……ウォーターゲート商会の長であるミズグチ様が発明したらしいです」


 ミラノちゃんがおずおずと答える。


「カラーコンタクトか。くそ、水口のやつ。現代知識を駆使して商売してんのか」


 ポップコーンやらコンタクトレンズやら、着眼点がいい。この異世界にないものを作りだしそれを売る。そういうのって誰でも思いつくかもしれないからヤッたもんがちなんだよな。


 というかウォーターゲート商会ってあれか、水口だからウォーターゲートなのか。普通に考えたら水門とかか? センスねーな、こんど煽ってやろ。


「エルフのふりしたほうが売値も高くなるものね、よく考えたものだわ」


 シャネルは感心したように頷く。


「失礼なこと聞くけどさ、エルフとそうじゃない半人だと売値ってどれくらい違うものなの?」


「……私は初物なのでそれなりに値段はつきますが、それでもエルフのかたと比べたら天と地ほどの差もあります」


 初物ねえ……。


 いや、そういう意味なら俺も初物だよ。それで俺の価値は上がらないだろうけど。


 ミラノちゃんは緑色の目をパチパチとまばたきさせた。


 そこには星の光などみじんもない。だけど、それだとしてもきれいな目なことだけは確かだった。


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