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680 近くの村


 弁天台場にはその日のうちに到着した。


 しかし拠点の周りには敵の船がいくつか浮かんでおり、そのまま合流することはできなかった。なので俺たちは少し離れた場所に海賊船を停めた。


「ここから歩いていきますよ」


「はい、それではご武運を!」


「キャプテン・クロウはこのままドレンスまで帰ってもらっても良いですよ」


「まさか! 乗りかかった船、このまま待っていますよ」


「ありがとうございます。ただもし敵が来たら、その時は逃げてくださいね」


「ええ、そのつもりです!」


 海賊船は一見して見えない入り江に隠された。


 俺とシャネル、そしてアイラルンは船を降りて弁天台場へと向かおうとした。


 だが、弁天台場はすでに敵に包囲されているようだった。


「3人でならなんとか忍び込めるかしら」


「そうだな。バレないように、なんとか」


 いますぐには難しそうだったので決行は夜になった。


 弁天台場の周りには小さな町というよりも村があったが、そこに住人はいなかった。かわりに新政府軍の人間たちが占領していた。


 俺は遠くからその村を覗いた。どうも兵士たちはやる気がなさそうだ。


「よし、これなら……」


「どうかした、シンク」


「ちょっと中の様子を見てくる」


 大丈夫? と、シャネルは心配するように俺を見つめる。


「たぶん。なんかあっても逃げられるだろう。アイラルン!」


「はいですわ?」


「俺がいない間にもしなんかあれば、シャネルを頼むぞ」


「もちろんですわ!」


 俺はアイラルンに耳打ちする。


「もし、やばくなったと思ったら時間を止めてでも逃げろ。そしたら俺もお前らに危ないことがあったって分かるからな、すぐに駆けつける」


 シワスとの戦闘があったからこそ思いついた方法だ。


 あいつは時間を上手いこと停止させて俺から逃げおおせたのだ。


「あまり、長くはできませんわよ?」


「良いさ、それでも。とりあえず行くよ」


「無理に様子なんて見てこなくても良いのに」


「敵情視察ってやつだよ。もしかしたら弁天台場に行く方法が見つかるかもしれないしな」


 それに、いざとなれば俺が1人で大立ち回りすることだってできるだろう。


 俺は考える。


 もし、俺が新政府軍の人間を殺しまくればシワスは出てくるだろうか、と。


 そういう可能性はもちろんある。


 ただ、いたずらに人の命を奪いたくはない。


 矛盾していると自分でも思う。誰かは殺したいが、誰でも殺したいわけではない。人を殺すのなんて、それだけで悪いことなのに。


 この異世界に来て、それなりの時間がたった。


 俺は確実におかしくなっている。それを変化というのかは分からない。成長とも言えないかもしれない。もし一番ふさわしい表現があるならば――麻痺であろう。


「こんな事だって、来たばっかりの俺じゃあ絶対にできなかっただろうな」


「どういうこと?」


「いや、面の皮が厚くなったなって思ってさ」


「あら、それならお店で店員さんとちゃんと話せる?」


「あ、いや。それは無理だ」


 だって店員さんから話しかけられるとびっくりしない?


 服屋とかでもよく話しかけてくるけどさ、え? あんた俺の友達? ってくらいグイグイと。俺はああいうの本当に苦手。


「ふふっ。まあ私たちは時間を潰してるから。シンクは楽しんでらっしゃい」


 楽しんでらっしゃいって……いや、まあそうなんだけどね。


 俺ちゃん昔からそういうところあるからな。野次馬根性。


 新政府軍の人たちってどんな感じで蝦夷に攻めてきてるのかな?


「じゃあ、行ってくる」


 日が暮れた頃に待ち合わせ、として、場所は近くにあった白樺の木を選んだ。


 俺はゆうゆうと村の方へ歩いていく。


 新政府軍の人たちは決まった軍服がいちおうはあるようだが、それを着ていない人も大量にいた。だから俺の格好でもまったく怪しまれないだろう。


 関係者ですよ、という顔をして中に入っていく。


「さて、と。どうしましょうかね」


 聞き込み、はたぶんできない。コミュ障だからね。


 だから盗み聞きすることにした。


「どうせもう函館も落ちたんだろ?」


 耳をすませばそんな声が聞こえてきた。


「この戦いは俺たちの勝ちだな」


「そりゃあこの戦力差じゃな。さっさとあの弁天台場も攻めれば良いのに」


「そうなんだけどさ、それがどうも上手く行かねえんだよ。知ってるか? あそこにいるの、土方歳三らしいぜ」


「え、あの新選組の? マジかよ、あの京都で血の海を作ったっていう新選組? おっかねえなぁ」


「俺だってそうさ。昔は京都にいてさ、その頃に一回だけ新選組に襲われたんだよなぁ。命からがら逃げたけど、もうトラウマになって」


「ひえ~、よく逃げられたな」


「逃げ足だけは早いんだよ、わっはっは」


 どうやら土方歳三の名前は敵からも恐れられているようだ。


「じゃあさ、もしかしてあそこの台場を攻められないのって、うちの隊長が土方歳三を恐れてるから?」


「いやあ、それはないだろ。だってうちの……あれだぜ?」


「まあ、だよな」


「天下無双の人斬り様よ。京都じゃ新選組のやつらを何人も血祭りにあげたって言うぜ。まったく、なんであんなやつが隊長やってるかね。朝から姿も見ねえしよ」


 ん?


 これはここらの部隊の隊長の話か。


 人斬り、と聞いて俺はシワスのことを想像した。たぶんこの予想は正解だろう。


「きっとあの聖女様と朝から乳繰り合ってんだよ」


「俺、あの聖女ってのも胡散臭いと思ってるんだけどな」


「やっぱそうだよな、顔も見えねえし。そのくせあの人斬りシワスがデレデレしてるんだぜ。いったいどんな存在なんだよ、怖いぜ」


「あれ、そもそも女なの?」


「いやあ、さすがにそれは女だろ。いちおう出るとこは出てるし」


 面白そうな話してるなぁ、と俺は会話をしている2人に近づいた。もう少し、詳しい話が聞きたかった。


「ねえねえ、お2人さん」


 2人とも、あまりパッとしない顔をした男だった。1人はなぜか爪楊枝を口にくわえている。美味しいのだろうか?


「ん、なんだあんた? でかいな」


 爪楊枝をくわえた方が言う。


「でかい?」


 言われるほど大きいかな。いや、たしかにまあ身長は平均よりも大きい方だと思うけど。


 ああ、でもよく考えてみればジャポネの人は小柄なのが多いかも。


「どうかした? あ、もしかしてなんか任務?」


「あ、いや。そういうわけじゃないんだけどさ。ただ隊長ってどこにいるかな?」


「今朝から見てないな。どこかにいるんじゃないか?」


「そっか。聖女様も?」


「分からないけど。なんか報告か?」


「そんなところ」


「ねえねえ、キミは聖女様ってどんな人だと思う?」


 爪楊枝をくわえていない方が俺に話をふってきた。よし、スムーズに会話に入れたな。


 これはもう俺ちゃん、コミュニケーションの達人では?


「んー? 聖女様。いや、まあ可愛いよね」


 てきとうな軽口。


「可愛いかよ? あんたセンスねえな」


「あはは。それにしても、いつになったら弁天台場を攻めるかねえ」


「まあ、明日か明後日。今週中にはって話だけどな」


 お、これはいい情報だ。


「早くしてほしいもんだよね」と、俺は知りもしないのに適当に答えた。


 それから、少しだけ会話する。


 さてはて、どこでこの会話を打ち切ろうかと考えるが中々終わる機会がおとずれない。話に入ることはできても、抜け出すことはできない。やっぱり俺はコミュニケーションが苦手だ。


「あれ、そういえば隊長のところに報告に行くんだろ?」


 爪楊枝をくわえた男が、思い出したように言ってくれる。


「ああ、そうだった」これを俺は話から抜ける好機と見た。「行ってこなくちゃ」


「たぶんあっちの家の方にいると思うけど。ただ気をつけろよ」


「気をつけろ?」


「機嫌が良いときに話しかけるんだぞ」


 ほうほう、機嫌が悪いとダメなのか?


 もちろん俺はシワスに会いに行くわけではないのだが。


 分かったよ、と俺は言って爪楊枝をくわえた男が指差す方向に歩いていく。


 するといきなり、轟音が鳴り響いた。


 ――ドンッ!


 なにか、光の柱が家の中から屋根を突き破って伸びた。


「な・ん・だ!」


 と言いながらも俺はその光を、魔力の塊を知っている。


 あれは『グローリィ・スラッシュ』だ。見れば分かる。


「ああ、なんだ。機嫌が悪いのかぁ……」


 誰か知らない、近くにいた人がつぶやいた。


 どういうわけか分からず、俺は確認するために、いまは消えてしまった光に向かって走り出すのだった。


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