062 エルフエルフエルフ、そして2人目の復讐相手
出てきたのはそう、俺が見たくて見たくてたまらなかったエルフだった!
エルフエルフエルフ。
しかも巨乳!
いやー、巨乳エルフって邪道っていう人がいるけど俺は好きよ。しかも童顔だから、これってあれよねロリ巨乳。古い言い方ではトランスジェンダーという言葉があります(豆知識)。
「シャネル、俺あの子ほしい!」
「ダメよ、どうせ高いわ」
「だよねー」
というかエルフって本当にいるんだな。やべえ、興奮してきた。
あの子を買う人間がこの中にいるということか? 腹がたつぜ。くそ、奴隷反対! こんな場所クソだよ、さっさと警察にでも摘発されろ!
エルフの少女は顔を伏せたままこの奴隷市場に集まった人間を悲しそうな目で見つめた。この中に自分を買っていく人間がいる。その事実を受け入れようとでもするように。
ふと、俺はエルフの少女と目があった。
緑の瞳がこちらを見つめている。
その中には、まるで星のような輝きがこめられていた。
「エルフってきれいだなあー」
「あら、私とどっちがきれい?」
こういう質問をしてくる都市伝説、昔いたよね。そう口裂け女。
「あはは」と、俺はごまかす。
「どっち?」
シャネルは笑顔で聞いてくる。さて、どっちでしょう。
少女の後に、男がでてくる。まばらな拍手。横にいる商人よりもさらに太ったそれこそ肉達磨のような男だ。
「――ッ」
俺は目を見開く。
男はエルフの隣に立つ。エルフの女の子には首輪と、そして手にもカセをつけられている。だから逃げられないのだろう、男に近づかれて少しだけ嫌そうな顔をしている。そして悲しそうでもある。
「シンクってさ、ああいうのが好みなの? 金髪が好きなの?」
「……いや、それよりも」
「しかしあれは高いですぞ!」
「ちょっと黙ってくれ」
俺は商人に言う。
俺の様子がおかしいことに気づいたのかシャネルが手を引いた。それで少しだけ落ち着けた。
「どうしたの? あれ、シンクが見たがってたエルフでしょ? そんなに嬉しいの」
まさかそんなわけがない。
俺はそのエルフの少女――たしかに可憐だ――の隣に立つ男を睨む。
「あいつだ……いた」
その一言でシャネルも邪悪に笑う。
「とうとう見つけたのね」
そう、あの男だ。あいつは、水口だ!
ははは、こんな場所にいたか。
とうとうだ、とうとう見つけた!
「お集まりのみなみな様! 本日はお足元の悪い中、よくぞお越しくださいました!」
水口はそう言った。
昔とはすっかり変わってしまっている。スポーツマンだった面影はどこにもない。体はだらしなく肥え太り、髪は脂ぎって伸びている。何よりも口元に浮かんだ下品な笑み! かつてよりもさらに腹の立つ容姿になっていた。
「こちらが我がウォーターゲート商会が自信を持ってご紹介する商品です。お集まりの聡明な皆様はもうこの奴隷がどのような種族かお分かりでしょう。そうです、この奴隷こそかの有名なエルフなのです!」
「ふん、エルフなんて……」
シャネルが小さな声でいう。
「その存在を知っておられても実際に見たものは少ないあのエルフです!」
水口のやつ、煽るなあ……。
というかエルフってやっぱり珍しいのか。
「そしてこのエルフ、当然のごとく経験はありません! もちろん魔術判定での鑑定書もついております!」
その少女は顔を伏せたまま、いまにも泣きそうな顔をしている。
尊厳みたいなものは全て奪われている。本当に商品としての価値を高めるためだけに性行為の経験すらもさらけ出される。そういうのって見ていて興奮する人もいれば、可哀想に思える人もいる。俺は後者だ。後者だからこそ、自分はまだ優しい方だと思うことができた。
しかしあそこに立つ肥え太った肉達磨はどうだ?
……最低のやつだ。
「男の人って処女が良いの?」
シャネルが聞いてくる。
「人による」
水口が何やら説明を続ける。それでとうとう、エルフの少女は涙をこぼした。俺の視力にははっきりとそれが見えた。
酷い話だな……もちろんあの少女だって売られたくてこんな場所にいるわけじゃないはずだ。何かしらの事情があってこんな場所に連れてこられたのだ。
「皆様、次のオークションは2週間後です。こぞってご参加ください!」
それからも何かしら説明があって、このオークションは終了となった。
出口は入ってきた場所と別にあった。俺たちは係員に言われてそちらから出ていく。
「エルフか……」
「ほしいの?」
「いや、それよりも何だか悲しくなって。奴隷って嫌だな」
「シンクは可愛い子にだけ優しいわ」
「そ、そうかな?」
そんなつもりはないけどさ。
「だから私にも優しいのね!」
そんなつもりはないけどさ!
「しかしウォーターゲート商会も秘蔵っ子を出してきたということでしょうな。あれが売れなければ破産でしょうから、だからこそああして出してきたんですよ」
「あ? あんたまだいたのか」
商人は俺たちについてきていた。
「いましたとも。とはいえここでお別れです。ではまた、ご縁があれば」
係員たちはそれぞれの客を小分けにして様々な出口から出していく。もしかしたら入るときもそちらから入れるのかもしれない。
俺たちが出たのは凱旋門のほど近くにあるウォーターゲート商会の商館だった。
「それで、どうするの?」
「どうするもこうするも。復讐するという目的は変わらないさ。問題はどうしてやろうか、ってことだよな」
「ええ、闇討ちでもする?」
たしかにそれも一つだが……。
「ちょっとそれじゃあ芸がないな」
できればもっとあいつに絶望を味あわせてやりたい。
ふふ、しかし俺が月元を殺したおかげで武具が大暴落。あいつも借金で首が回らない、と。良い事だ。
お、良いこと思いついたぞ。
「いっそのことどうだ、さっきのエルフの子。あれをさらうっていうのは? そしたら水口のやつは奴隷を売ることができなくなって金が手に入らないぞ」
そうなればもう破産だろうか?
「さらう、っていうのは現実的じゃないんと思うわよ。殺す程度なら楽でしょうけど」
「う、うーん」
シャネルさん、いつもながら発想がやべえ。普通それで殺すってでるか? いや、たしかにその方が簡単なんだろうけどさ。さっきだってステージの上に立っている水口にしろエルフにしろ、シャネルの魔法で狙撃みたいなことできただろうし。
「せめてもう少し穏便にいこうぜ」
「あら、復讐しようって人間がずいぶんと気弱ね」
「まあまあ、ほら帰りにカフェでもよるか? 気晴らしにさ」
俺はシャネルの機嫌をとるために言う。
「あら、良いわね」
シャネルは一瞬で笑顔になった。
喋らないで、笑顔で、そして杖さえ持ってなければ最高の女の子なんだけどな。銀髪で青い目も奇麗でおっぱいも柔らかくて大きいし。いかんせん性格が……。
ま、それも良いけどね。
それにしても奴隷市場に顔をだして良かった。
やっと見つけたぞ、2人目の復讐相手。
俺の中に、メラメラと復讐の炎が燃えだしたのだった。




