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575 仙台城入り


 仙台城は思ったよりも小さかった。しかし美しかった。


 じつのところ、俺たちは仙台城がどこにあるのか詳しく知らなかった。だがそこは榎本武揚が、タケちゃんが教えてくれた。


 俺、シャネル、アイラルン。そしてキャプテン・クロウ。仙台藩からの支援を受けるためにここまで来たのだ。


 最初の門がしっかりと閉じられており、その前にはかさをかぶった兵隊が数人、槍をもって待機している。


 俺たちだけならもしかしたら文字通りの門前払いをくらっていたかもしれない。


「榎本和泉守武揚。ただいま沿岸部の警備より戻った。門を開けてくれ」


 どう見ても遊びに行っていただけの釣り人の姿のくせに、堂々と言ってのける榎本。


 いやはや、恐れ入る。


「どう見ても遊びに行った帰りじゃないですか~」


 門の前にいた兵士が笑いながら言う。


「え、分かった?」


「どう見ても釣り帰りじゃないですか。よく釣れましたか?」


「なかなかだったよ。それに面白い人たちも連れてきた」


「そちらの方々は?」


「ドレンスからの援軍さ」


「入れてよろしいのですか?」


「もし文句を言われたら私の客だと言っておいてくれ」


「承知しました」


「あ、そうだ。澤ちゃん帰ってきた? もし私のこと聞かれたら遊びに行ってたって内緒にしておいてね」


「半刻ほど前に帰ってきてますよ」


「あちゃー……」


 なんだか一般の兵士と楽しそうに会話をするタケちゃんである。


 やっぱり人望があるのか。


 いや、むしろ舐められてる?


 偉ぶらないから好かれているんだね、そういうことにしておこうね。ま、そういう指揮官の姿もあるということだ、俺はいままで見たことがなかったけど。


 門が開けられて、俺たちはぞろぞろと中に入る。


 すぐにお城の中に入れるわけではなく、まずは敷地内を歩いていく。


「ねえ、シンク」


「どうした?」


「なんで門を越えた後にすぐお城がないの? 普通、あっても庭園くらいでしょ」


 たしかに、城の後には迷路のような通路が広がっていた。左右には堀や塀があり、細い道を俺たちは歩いている。


 これがドレンスやグリースの城ならば門を開けた後は一直線で宮殿があるのだ。


「ああ、それでしたら。ジャポネ特有の様式ですよ。もともとジャポネと西洋では城というものの役割が違いますので。ここは城主のいる本丸でありながらも、前線基地としての役割持っているのです」


「つまり、ここで戦いが起こるわけ?」と、シャネルは聞く。


「そのとおりです。だから敵に攻め入られたときのことを考え、複雑な作りになっているのです。たとえばあそこの城壁を見てください。小さな穴が空いているでしょう?」


「ああ、たしかにあるな」


 俺の目でならすぐに見えるが、他の3人はタケちゃんの指差す方向をじっと見つめた。


「あそこの穴から銃を出して、いまこうして歩いている我々を狙撃するわけですね。他にも階段が多く基本的に城へ向かって登っていく構造になっていますよね? これは戦いになったとき、上の位置をとったほうが地の利を得たとされ、有利に戦いを進められるからです」


「なるほどねー。ジャポネの城ってのはそういうために作られてるんだな」


「だいたい分かったわ」


 タケちゃんはまだ説明したそうだったけど、シャネルがもう喋べらないでと睨む。それで押し黙った。


 どうでもいいけど、アイラルンがあまり喋らない。


 珍しく真剣な顔をしている。


「どうした、お腹でも痛いのか?」


 俺は茶化すように聞いてみた。


「そうですの、生理ですの」


「うげ、お前冗談にも質ってもんがあるだろ」


 さすがに品がない。


「本当のところはストレスですの。ああ、朋輩。さっさとドレンスに帰りましょう」


「そうは言うけどな……そもそもお前だって、ディアタナに復讐したかったんじゃないのか」


 そのためにこのジャポネまで来たのだ。


 俺はあくまでアイラルンの復讐を手伝っているだけ――もちろん当事者ではあるけど。


「だとしても最初から決まっている負け戦なんてごめんですわ」


 負け戦?


 まあいいや。


 そのまま俺たちは歩いていく。


 すると、やっと城の近くまで来た。


 ここに来るまでいくつかのブロックを越えてきた。それらは二の丸、三の丸と呼ばれるもので、ようするに層を分けて防衛のために兵を配備するための機構らしい。


 少し開けた場所に、どでんと城が建っている。その前にはまた門がある。


「大手門といいます」と、タケちゃんが教えてくれる。「あそこを超えれば仙台城の本丸ですよ」


 なるほどね。


 その門の前には兵士たち。


 そしてもう1人。門の真ん前で仁王立ちをする女性の姿が。


 長身の女性で、メガネをかけている。どう見ても男の物の、藤色ふじいろの着物を着ている。なんだか雰囲気としてはバリバリのキャリアウーマンといった感じ。


 その女性が、目を見開いて俺たちを見た。


「榎本殿!」


 大声で叫ぶ。


 俺はびっくりして飛び上がる。隣にいたタケちゃんもビクリと震えた。


 女性は大股でこちらに歩いてくる。


 一瞬驚いたが、どうやらタケちゃんの方に用事があるそうだ。


 タケちゃんは慌てている。


「ち、違うんだよ澤ちゃん! こ、これは!」


「これは何だというのですか! 少し目を離したすきに遊び歩いて! 貴方には我々の長としての自覚があるのですか!」


 お、おっかない。


 男勝りとは少し違う。なんだか口うるさい委員長みたいな感じ。


「貴方がそんな調子ですから、奥羽列藩同盟の方も弱腰になっているんですよ! 貴方は卑しくも幕府海軍の総裁なんですから!」


「あ、いや……私は副総裁で……」


「総裁はもういないんですから貴方が総裁でしょう!」


「す、すいません」


 ひえー、タケちゃんなんかすごい怒られてる。


 もしかして遊びに出てたらダメだったんじゃないか?


 タケちゃんはこちらに助けてほしそうな視線を送ってくる。


 えー、マジで?


 でも友達(今日会ったばかりだけど)の頼みだし。


「あ、あの。もうそこらへんで」


 いちおうフォローに入る。


「あっ?」


 ドスの聞いた声と、鋭い眼光で睨まれた。


 こ、こわい。


 無理だ、助けられません。


「あの、澤ちゃん。この人たちいちおうお客さん」


「客? え? どこの国の人ですか」


 澤ちゃんと呼ばれた女性は、シャネルとアイラルンを見て警戒の色を示した。


「ドレンスだよ」と、タケちゃん。


「ドレンス……ま、まさか! 貴方たちは軍事顧問で派遣される予定だった!?」


 たぶんそれです、と頷く。


 澤ちゃんは俺たちとタケちゃんを交互に見て。


「榎本殿。もしかして彼らのことを迎えに行っていたのですか?」


「そうだよ!」


 臆面もなくウソをつくタケちゃん。


「そんな格好で外国からの客人を迎えに行く人がいますか!」


 しかしすぐにバレる。


 そしてくどくどと、また説教が始まるのだった。


 ふと見れば、シャネルがそんな2人を目を細めて見つめているのだった。


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