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566 見えない敵


 叩き潰された海賊たちは主に甲板の隅の方にいた人間たちだ。俺とシャネル、そしてアイラルンは真ん中の方でかたまっていたので怪我はない。


「うげえ、たくさん死んでますわ!」


 アイラルンは血の気の引いた顔をしている。


「まずいな」


 俺たちはいま現在、シャネルの灯してくれている明かりだけを頼りにあたりを見ている。


 空は真っ暗だ。


 しかし果敢に撃ち出される大砲の光が、ときおりあたりを照らしている。それがクラーケンへのダメージになっているかは疑問だが。


「榎本さん、大丈夫ですか!」


 キャプテン・クロウも無事だったようだ。


 俺たちに駆け寄ってくる。


「平気です」


「榎本さん。榎本さんだけでもカッターで逃げてください」


「カッター?」


 初めて聞く単語だった。


「手漕ぎ式の小舟です。榎本さんたちだけでも逃げてください。その間の時間くらいはかせいでみせますので」


「まさか。逃げだせませんよ」


 手漕ぎ式の舟でどこまで行けるというのか。


 それに時間をかせぐと言っても、この海賊船にそんな方法があるとは思えない。


 キャプテン・クロウの提案は善意からくるものだろうが、その方向性は間違っている。


「ですが――!」


「戦うしかありません」


 俺ははっきりと言う。


 ここに来て逃げるという選択肢はないのだ。そもそも海賊船は動かないのだし。


「しかしどう戦えば! クラーケンに勝てるわけがありません!」


「とにかくやつを海の中からおびき出さないと。通る攻撃も通らない」


「おびき出す?」


「はい。そうすればシャネルの魔法で――」


 俺がそう言った瞬間だった。


 突如として海の中からクラーケンの触手が一本、出てきた。


 こちらに向かって真っ直ぐに向かってくる触手。俺は体をかがめるようにして刀に手をかける。そのまま触手が俺をつかもうとする瞬間に刀を抜く。


 居合斬り。


 斜め下から振り抜いた刀は、触手の先を一息に斬った。


 断面からは紫色の液体――おそらくは血が出る。


 それは俺たち4人にかかった。


「きゃあっ!」最初に反応したのはシャネルだ。「ちょっとシンク、服が汚れたわ!」


 襲われたことに驚くよりも服が汚れたことにご立腹している。


「えっ、えっ、えっ!? いまなにかありましたの?」


 アイラルンの方はなにが起こったのかわからない様子だ。


「下がってろ!」


 俺は次の攻撃に備えて叫ぶ。


 他の3人の盾になるようにしていま触手が伸びきた方に立つ。


 が、嫌な予感は後ろからきた。


 舌打ちまじりに振り返り、抜身の刀で背後から襲ってきた触手を斬る。


 相手だって生き物だ、脳がある。後ろから襲うことくらいしてくる。


 それでも反応してみせる俺。ときおり、自分の感覚というものが怖くなる。


「さすがですわ、朋輩!」


 アイラルンは紫色の血にまみれながら手を叩いてくる。


「気を抜くなよ」


「このまま襲ってくる触手をすべて斬ってしまえば良いんですわ!」


「そうはいかないだろ」


「え、でも……」


「斬られるのが分かっててずっと触手を伸ばしてくるわけがないだろう」


 そのうちだ、と俺は思った。


 そのうちクラーケンはしびれを切らしてその姿を現す。


 また触手が出てくる。それはかなりの素早さで、ブチン! という音がして俺から少し離れた位置にいた海賊が潰された。


 守れなかった。


 仕方がない。


 仕方がないだって?


 できることなら守りたいに決まっている。手に届く範囲の人を。


 怒りが湧き上がりそうになるのを必死でこらえる。冷静に、ただ冷静に。


 そして俺は水のようになる。


「雰囲気が……」と、キャプテン・クロウが言う。


 感覚を頼りに俺は舟の墨の方へと行く。


 そしてまるで出てくることが最初から分かっているように刀を振る。


 するとどうだろうか。


 海から飛び出してきた触手はそのまま甲板に到達する前に切れた。


「シャネル、その場から離れろ! 右にだ!」


 そして俺は叫ぶ。


 シャネルは素直に右へと走る。するとその場に触手がのびてきた。


「キャプテン・クロウ! あんたはこっちへ走ってこい!」


 キャプテン・クロウも素直に従う。触手が空をきる。


「アイラルン、その場にいろ!」


「えっ?」


 アイラルンは反応できなかった。それが良かった。アイラルンの回りに触手がくる。が、アイラルンにはあたらない。


 俺はアイラルンに駆け寄って、回りを停滞する触手を片っ端から斬る。


「ありがとうですわ、朋輩!」


 なにか答えようとしたが、やめた。


 かわりに言う。


「シャネル!」


「なにかしら」


「明かりを消せ! それでお前から見て6時の方向!」


「なるほどね」


 シャネルはすぐに察してくれた。


「まだだぞ、あと20秒だ!」


 シャネルが呪文の詠唱を始めた。


 ここらへんはツーカーだ。俺が言いたいことをシャネルはすぐに理解してくれる。


 シャネルから見て6時の方向にクラーケンが出現するのだ。


「み、見えませんわ!」


 と、アイラルンが取り乱す。


「大丈夫だ、俺はちゃんと見えてる!」


 視覚に魔力を込める。


 こう言ってしまえばわけが分からないが、感覚でいえば目に力をこめるようなものだ。


 あと10秒。


「でも朋輩!」


 アイラルンが何かを言おうとする。


「なんだ!」


「あ、いえ……気のせいかもしれません」


「言えよ!」


 あと5秒。


「いえ、いいですわ」


 気になるな、もうっ!


 そしてその瞬間が来た。


 ゆっくりと海が割れ、巨大な生き物が飛び出してくる。


 イカともタコともつかない巨大なモンスター。名はクラーケン。


 そしてそのクラーケンの出現と同時にシャネルの魔法が飛んだ。


 炎の矢が飛ぶ。


 閃光。


 あんなもの当たればひとたまりもないはずだ。


 やったか?


 直撃した。


「ああ、やっぱり……」


 だが、アイラルンががっかりしたような声をだす。


 俺はすぐさまその意味を知るのだった。


明日から違う小説を書くので、月末まで2日に1回の更新を目処にします。すいません

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