563 海賊船
敵の海賊船はまっすぐこちらに向かっている。
このままいけば数分後にはすれ違うことになるだろう。
「榎本さん、申し訳ないが機関室に行って火を起こすよう命令してきてください!」
キャプテン・クロウにお使いを頼まれる。
「分かりました!」
俺は甲板から船の中へ。機関室の場所は分かっているが、中に入るのは初めてだった。
機関室は分厚い鉄板の扉で塞がれている。それを開けようとしたが、重くて一息には開けられなかった。
中はとても暑くて、一瞬で体中から汗が吹き出た。
「すいません、キャプテン・クロウから伝言です! 機関の火をつけてほしいそうです!」
近くにいた機関士の男が俺に怒鳴る。
「もうやってます! 魔石だけじゃなくて蒸気の方も始動させてます!」
「あっ、そうですか」
気が利くじゃないか。
機関士の中でもとりわけ歳をとっている中年の男がこちらにきた。
「貴方が榎本さん?」
「はい」
「私はこの船で機関士長をやっている。キャプテンにはあと10分で全力が出せるようになると伝えておいてくれ」
「分かりました!」
「それとキャプテンに伝えておいてほしいことが」
「なんです?」
「魔石を大量に補充してほしいと」
「うん?」どういう意味だろうか。「分かりましたよ」
とりあえずは頷いておいた。
というわけで準備はすでに始まっているようだった。
見れば海賊の中には大きくわけて4種類の人たちがいるようだった。
まず甲板。これは小銃や剣をもって、なぜか知らないがいまから白兵戦でもやらかそうとしているやつら。
それと別に中には大砲を撃つための海賊たちがいる。船の側面には3門の大砲が備えられており、それを撃ち出すための海賊たちだ。これが2種類目。
そして機関を動かしたりしている人たち。これが3で。あとは非戦闘員の4種類目の人たち。この人たちは船の奥に入っていった。
さて、俺はなにか手伝おうと甲板にまた出る。
「キャプテン・クロウ! 機関はもう動いてました、あと10分だろそうです」
「ありがとうございます、榎本さん!」
「それともう1つ、魔石がたくさん欲しいと言ってました」
「魔石はいらないでしょうに! まあ、そこまで言うなら補充しておきましょう」
「補充ってどうやって?」
「あそこからですよ、鴨が葱を背負っておいでなすった!」
敵の海賊船はすでにかなり近い位置にあった。
よく見れば相手の砲門は左右に5つ。計10門だ。数のうえではこちらが負けている。大丈夫だろうか。
「よーし、お前ら気合を入れろよ! 俺たちにケンカを売ったことを後悔させてやれ!」
「おー!」
気合は十分だ。
士気はかなり高い。
いい集団だ、と俺はこれまで部隊を率いてきた経験から思った。
相手の海賊船はいかにもなドクロのマークが入った旗をあげている。一方こちらはドレンスの国旗、アイリスの華をあしらったものをあげていた。
それがいま、マストから落とされる。
そして代わりに燦然とかかげられた旗を見て、俺は苦笑いした。横顔の頭蓋骨、その眼前に仰々しいフック。きっちりと自己主張がされていた。
「行くぞ、野郎ども!」
キャプテン・クロウの号令とほぼ同時に、2隻の海賊船は海の上で向かい合わせになる。
そのまま横付けでもするのかと思えば、違った。
2隻はすれ違いながらもお互いに砲弾を相手に撃ち込む。
船体が大きく揺れる。
どこを撃たれた?
分からない。が、船は航行を続ける。
「よっしゃ、もう一発いくぞ!」
キャプテン・クロウが叫ぶ。
すれ違った海賊船はお互いに少し行った場所で反転する。
おそらくこのまままた撃ち合うのだろう。
しかし大丈夫なのだろうか。さきほど確認したとおりこちらの方が大砲の数が少ない。このまま撃ち合いをつづければジリ貧でこちらが負けるのではないか。
「やれるんですか!?」
「大丈夫ですとも、榎本さん! 心配しなさんな! 先に動きをとめるのはあっち! そうなれば乗り込んで蹂躙してやりますよ!」
この撃ち合いのはてにやはり相手の船に乗り込むわけだ。
そうなれば俺の出番もあるだろう。俺は深呼吸して冷静になる。するとキャプテン・クロウが笑った。
「榎本さん、なかなかに豪胆ですな!」
「でしょうかね?」
「この戦いの場で冷静にいられる。陸に置いておくにはもったいないですよ!」
キャプテン・クロウは豪快に笑う。
それと同時に海賊船が再びすれ違う。
撃ち出される大砲。
相手の海賊の表情すら見える距離。
――おや?
どうも相手は怯えているようだ。戦意のようなものがあまり感じられない。やぶれかぶれの突撃と、そういうわけだろうか?
二度目の砲撃戦でも決着はつかないかった。
どちらも健在。こちらの砲弾はそれなりに相手にあたっているようだったが、相手のものは見当外れの方向に飛んでいる。それに5門あるうちの1門はまったく弾が撃ち出されてこない。
「キャプテン・クロウ。相手の海賊船」
「ですね」
俺たちは甲板の一番先頭にいる。真っ先に狙われそうな場所だが、不思議なほどに弾はとんでこない。
いま現在、こちらの甲板に出ている海賊は15人程度。そのうち数人は大砲で怪我をした。
そんな危険な場所だというのに俺たちは無傷だった。
「そろそろですかね!」と、キャプテン・クロウ。
「なにがです?」
キャプテン・クロウは不敵に笑う。
「シンク、なんだかすごい揺れね」
シャネルが平然とした顔で出てくる。これには俺も驚いた。
「お、おいシャネル! 中にいろって!」
「なにがあったの?」
「見ての通り戦闘だよ! 海賊船が攻めてきたんだ」
「こっちだってそうでしょ」
シャネルは相手の海賊船を見ると「情けない敵に見えるわ」と私見を述べる。
それにたいしてキャプテン・クロウは笑いながら同意した。
勝ち戦。
そう思った瞬間だった。いきなりこちらの船速があがった。
そりゃあもう、目に見えて速度がかわった。
「よしよし、来たぞ!」
俺はその瞬間察した。
さきほどの蒸気機関が始動したのだ。
「早いわね」
シャネルがよろけて、俺の手をつかむ。
「だな」
「よしよし、最大船速だ! 突撃!」
相手の船が準備を終えるまえにこちらは反転、そのまま向かっていく。大砲を撃ち、離脱。相手はまだ準備ができていない。その間にまた反転、撃ち込み、離脱。
それを繰り返すと、相手の海賊船は煙を吐いて動かなくなった。
「よし、野郎ども乗り込むぞ!」
船は横付けされて橋のようなものがかけられた。
これを渡って相手の船に行くわけだ。
俺ははやる気持ちのままに橋に脚をかけて、そのまま渡っていく。
相手の海賊が小銃でこちらを狙っていた。
撃ち出された弾丸。
それを俺はしっかりと見据えて――。
抜刀。
刀で切り裂いた。
そのまま駆け抜けて――。
あ、やばい。
まわりを確認した。敵ばかりだ。調子に乗っちゃったね、俺ちゃん。
前に出すぎた。俺は敵の海賊船に1人、囲まれた!
自業自得だ。
昨日更新忘れておりました、すいません




