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055 スライム狩り、からの野宿


 街の外から小一時間ほど歩けば、そこには広大な森が広がっている。実は街の中にも森はあるのだが、それは国が管理する自然公園のようなもの。しかし外にある森はかなり手強い。


「よく考えたら僕らってどっちも前衛じゃないか?」


「そうだな」


 俺は剣、そしてローマのやつはナイフというか短剣が武器だ。こういう状況だと戦いにくいことこの上ない。二人でいても協力するということがやりにくいのだ。


 広い街道から脇にそれて森の中へ。


 なんだか道を行く人たちの目線が痛い。


「なんか見られてるな」


「珍しいんだよ、冒険者が」


 そういうものなのだろうか?


 それにしてはなんだか俺たちのことを見ている人たちの目がニヤニヤしているようだが……。


「それかさ、わざわざこんな場所に入っていく男女がすることなんて一つでしょ」


「それって……?」


 エロい話し?


 たぶんそうなんだろうな。ローマはフードをすっぽりとかぶっているので顔は見えないもの、体つきだけみれば女の子だ。しかもまだかなり若い。


 俺、ロリコンだと思われてるんじゃないのか?


 まあ良いや。


 森の中に入ると人の気配がまったくしない。それどころか生き物がいるのかすら分からない。


「さーて、やるぞぉ!」


 ローマはナイフを取り出す。


「スライムってどこにいるんだ?」


「どこにでもいるさ」


 そういうもんかなあ、と思っていたら木の上からなにかが落ちてきた。


 ブオヨン、という効果音でも起きそうな落ち方だった。


「出た!」


 ローマが叫ぶ。


 俺は目を見張った。スライムってこういうのなのか!?


 勝手に水色だと思ってたけど、なんだか風邪をひいたときの鼻水みたいな色だ。黄色と緑色を混ぜたような、あの気持ち悪い色。当然あいらしい目なんてついていない。ブヨブヨしたキモい生命体だ。それもけっこう大きい。大型犬くらいあるんじゃないか?


「え、これはちょっと……」


 剣で斬るのも嫌だな。


「うりゃっ!」


 ローマの投げたナイフがスライムに刺さる。そしたらスライムはグニョグニョと少し動いて、すぐに動けなくなったようだ。


「え? それで終わり?」


「まあこんなもんでしょ」


 さて、このスライムからスライム玉なるアイテムを手に入れなくちゃいけないらしいけど、どうするんだこれ?


 と思っているとローマが嫌そうな顔をしながらスライムに手をつっこむ。そして中からテニスボールくらいの大きさの核を取り出した。


「それがスライム玉か?」


「次はシンクがやれよ、順番だ」


 嫌とも言えない。


 でも思っていたよりさらにスライムは弱そうで、こりゃあ楽勝だな。


 そう思って森の中を駆け回る。


 スライムに会ったらだいたい一発で倒せる。やっぱりザコだね。


 しかし半分の10匹ほど倒したあたりで雲行きが怪しくなってきた。


「これ、けっこうかさばるな」


 一つ一つは小さくて軽いスライム玉でも、それが5個、10個となると邪魔になってくる。


「そうさ。だから一人じゃ面倒だって言っただろう」


「なるほど」


 ローマはよく知っている。この分だと冒険者としてローマのほうがベテランかもしれない。


「まあ敵は弱いからな。それでも不人気な依頼なのはスライムがキモいからだよ」


「同感だ」


 ちなみにスライムの色にはバリエーションがあった。土みたいな色をしたのやら、オーソドックスな水色まで、変なのだと二つの色が混ざっているのもあった。


 どうやらスライムどもはこうして色を変えて擬態しているようで、気づかずに踏みつけてしまったりもした。犬のうんこ踏みつけるみたいで気持ち良いもんじゃないよ、まったく。


 そしてスライムを狩って狩って狩りまくった。なんとか20個のスライム玉を集めたとき、空はすっかり夕暮れに染まっていた。


 中には玉を持たないスライムや、倒す時に勢い余って玉を壊してしまったスライムもいて思ったよりもたくさん倒さなければならなかった。そのせいで時間が経ったのだ。


「さて、そろそろ帰るか」


「うん、けっこう集まったね。僕つかれちゃったよ」


「そうだなあ、どうだ街に帰ったら。一緒に一杯やるか?」


 って言っても俺、ビールはどうにも慣れないんだよな。ワインなら少しは飲めるんだけど。


「むむむ? それってもしかして僕をナンパしてるのかい?」


「まさか」


「よしとくれ、僕はそんなに安い女じゃないよ」


「はいはい」


 なんていうか……こういう女の子もいいな。シャネルみたいに上げ膳据え膳な女もいいけど、こういう対等な感じのいうなれば友達みたいな女の子。悪くない。


「それでシンク、森の出口ってどっち?」


「はい?」


「いや、だから出口だよ。僕たちどっちから入ってきたかな?」


 俺はあたりを見回す。四方八方しほうはっぽうが森。どこにも出口なんて見当たらない、当然だけど。


「いや……俺も知らんぞ」


「ってことはなにかい。僕たちって……」


「ま、迷った?」


 おいおいマジかよ。俺はローマが道を覚えてると思ってここまで突っ切ってきたんだぞ。


「ちょっと、僕はシンクが道を覚えてると思ってここまで来たんだぞ!」


 どうやらローマも同じことを思っていたようだ。


「しょうがない、とりあえず適当に歩くしかないだろう」


 ある程度ならば来た道を引き返すことができるからな。


 なんて思っていたのだが、森の中って怖い!


 完全に迷った!


「ダメだ、もうこれ今日は帰れないぞ!」


 ローマが泣きそうになりながら言う。


 いや、こいつ殺し屋なんだよね、いちおう。こんな性格してたのか。


「なんとかならないのかよ、野生の勘とかで」


「シンク、そういの半人差別って言うんだぞ」


「それはすまん。それで、どうする? こうなったら野宿か?」


 空はもうすっかり暗くなっている。


「……それが良いかも。どうせ今から街に帰っても陽が落ちた後じゃあ入れてもらえないだろうし」


「ふーん、そういうもんなのか」


「なんだよシンク。ずいぶんと落ち着いてるじゃないか」


「そういうお前は焦りすぎだ」


 まったく、一日野宿するくらいなんだっていうんだ。俺たちは冒険者だぞ。


 たまにはこういうのも良いとすら思っている俺がいる。修学旅行みたいで楽しいぞ。


「こんなことなら寝袋の一つでも持ってくればよかった」


「まさかこんなふうになるとは思わなかったしな」


 こういうのを後の祭りという。


 にしてもシャネルは心配していないだろうか? 一日くらいなら大丈夫かな?


「どうしよう……お腹すいたな。シンクは?」


「たしかに一日動き回ったからな」


 ペコペコだ。


「こうなれば食べられるモンスターを狩るぞ!」


「よしきた!」


 俺たちは血眼になって森の中を歩き回る。


「あ、あっちだ! そこにぷにぷにシシがいたぞ!」


「え、ぷにぷにシシ!?」


 いた。太ったシカみたいなモンスターだ。


「あれは美味いぞ!」


 俺はぷにぷにシシに襲いかかる。


 くそ、こいつ太ってるくせに結構素早いぞ。


「うりゃ! うりゃ!」


 ローマのやつもナイフを投げる。けど危ない、俺にあたりそう!


「危ないぞ、ローマ!」


「シンクこそ動きがのろいんだよ!」


 とかなんとか言っているうちにぷにぷにシシは森の奥へ消えていこうとする。


 さすがに舗装もされていない悪路だ。動物相手に追いかけっこはできない。ならば――。


 俺は飛んできたナイフを一本、空中で掴む。


 ……いや、やろうと思って掴んだけど本当にできるとはね。この分なら真剣白刃取りとかもできるかもしれない。


「お、お前あぶないぞ!」


 ローマも驚いている。


 でも本当に驚いてもらうのはここからだ。


 俺は精神を集中させる。


 そして、たぶんここだという場所に向かってナイフを投げつける。『武芸百般EX』のスキルによって投げられたナイフはまるで弾丸のように飛ぶ。


 そして俺の第六感の通りにナイフはぷにぷにシシに刺さったようだ。


「ぷもぅお~」


 へんてこな泣き声がした。


「よし、やったぞ!」


「お、お前すごいな」


「たまたまだよ」


「謙遜するなよ、シンクはドラゴンだって倒したんだろ?」


 いや、あれを倒したのは勇者である月元だけど。まあこのさいどうでもいいか。


 俺たちは二人でぷにぷにシシに近づく。首元にナイフが突き刺さっている。どうやらこの一発で絶命したらしい。


 死んだぷにぷにシシに向かってローマが何やら呪文のようなものを唱えている。


「なんだ、それ?」


「僕たちは半人だからな。こういう獣を殺した時は女神ディアタナに祝詞をささげるのさ」


 よく分からないがそういうことらしい。


 なんにせよこれで夜ご飯ゲットだ。上手くいったぜ。


 こういうサバイバルしてると冒険者っぽくてなかなか楽しいぞ。


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