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528 正々堂々


 いまさらそんな言葉に動揺する俺ではない。


 ――手加減しない?


 それはこっちのセリフだ。


 金山はこちらに銃口を向けてきた。


「死ね!」


 まあ、なんて直球な言葉でしょうか。


 そして撃ち出された弾丸。


 それは真っ青な青色をした魔力のかたまりだった。


「なっ!」


 いままでのそれよりあきらかに弾速が早い。


 これは――そう、魔弾だ!


 油断はなかったと確信している。だが『水の教え』をもってしてもその攻撃をよけることはできなかった。


 俺の目の前に盾のように魔法陣が現れて、金山の攻撃を消滅させた。


「ああ、忘れてたぜ。そういやお前、そんなスキル持ってたな!」


 金山はそう言いながらも、先程までの早撃ちと同じ速度で魔弾を撃ち出しくてる。


 というかこの威力、ティンバイのそれよりもさらに強い。


 魔弾をなんとかよけていく。壁や柱に当たった魔弾、それは当たった部分をまっさらに消滅させる。その消滅はそれこそ分子の1つも残らないほどで――。


 俺は察した。


 やつが撃ち出しているのはただの魔力ではない。


「あたれば死ぬぞ! 覇者一閃――」


 それはあきらかに『グローリィ・スラッシュ』の詠唱だった。


「まずいな」


 俺は心を落ち着かせながらもつぶやく。


 避けるための行動を起こしてしまっている。違うのだ、それではいけない。


 金山がリボルバー拳銃を両手に持った。


「おいおい……」


 さすがに二丁拳銃は聞いてないぞ。というかそれ、リボルバー式なのに両手に持って撃てるのか?


 と、思った瞬間には魔弾となった『グローリィ・スラッシュ』が飛んでくる。


 普通に撃てるみたいだ。


 だがそれは俺には当たらない。


 そもそも撃ち出された瞬間には当たる場所にいないのだ。


「妙なスキルを持ちやがって!」


 スキル?


 俺はべつにそんなものを持っていないはずだ。


 たぶん、金山は勘違いしているんだろう。


 俺は薄く笑う。


「そう思うんならさ、見てみろよ」


 俺は挑発するように言う。


 他人から無数のスキルを奪ってきた金山のことだ。当然、他人のスキルを確認するスキルだって持っているはずだ。


「見てやるさ、そして奪ってやるさ! ――は?」


 金山の動きがとまった。


 それは確実な隙だ。


 俺はこのタイミングで必殺の一撃を叩き込む。


 モーゼルを天高く投げた。


 そして抜き身の刀をわざわざ鞘へと戻す。腰だめに構え、


「隠者一閃――グローリィ・スラッシュ!」


 詠唱とともに抜き放った。


 真っ赤な魔力の塊がビームのように一直線に金山へと向かっていく。金山は慌てて二丁の拳銃から青色の魔力を撃ち出す。


 ぶつかり合う魔力と魔力。


 赤と青のそれらは、ぶつかり合って。しかし交わることはなく、赤は赤。青は青として相手を消し去ろうとする。


 しかし結果は対消滅。


 ダメだったか。


 単純な魔力の比べっこでは勝てない。それを把握する。


 頭上に放り投げたモーゼルが落ちてきて、それをつかむ。


 そうしたらいつまでもこの場所にいるわけにはいかない。次の場所へと移動する、はなから攻撃が当たらない場所へと。


 また金山が魔弾を撃つ。


 それは俺からすればとうてい当たらない場所へと飛ぶ。しかし金山からすれば、すれすれにかわされたように見えただろう。


「なんでだ、なんでスキルもないのに!」


「そんなもんなくてもな――俺はお前に勝てるんだ」


 冷たい口調で言い放つ。


 金山は明らかに顔を赤くした。やつに怒りという感情が確実に戻っている。


 とはいえ問題もある。俺の攻撃も相手には当たっていないのだ。


 さて、どうしたものか。このまま隙きを待つのも一つだが。


 と、思っていたら金山からの攻撃が止まった。


「なんだ?」


 こちらとしては無駄弾を撃ちたくないところだ。なにせ俺は魔力を撃ち出しているわけではなく、実弾を撃ち出しているのだから。こおkぞという場所で弾切れなんてシャレにならない。


「いやあ、榎本。よく分かったよ、お前はすげえよ」


 いきなり、にこやかに笑ってみせる金山。


 不気味だ、しかし攻撃のための動作を起こす様子はない。


「そりゃあどーも」


 返事はしなくても良かった。だが俺も体力が減っていることは確か。


 ここは乗っておいて、少しでも体力を回復させるべきだと判断した。


「どうにも互いに手詰まり、千日手の様相ようそうだ。ここは男らしくこいつで決着をつけるってのはどうだ?」


 金山はダモクレスの剣を構えた。


 だれがそんな提案にのるか、と思った。


 だが、次の金山の言葉が俺を動かす。


「怖いのか?」


 そう、言ってきた。


「誰が」


 俺はモーゼルをしまい、刀を構えた。


 たがいに近づきあい。


 間合いの中に入る。


 金山は笑っていた。俺はたぶん、無表情だ。


「その昔、ガングーのいた時代だ。男たちはなにか揉め事があればこうして剣を持ち、一対一で戦った。そして勝ったほうの言い分が通った」


「そりゃあずいぶんと野蛮なことで」


「俺たちがやっているのも、そういうことだろ、榎本」


「さあ、どうだかな。俺はべつに自分の言い分を通そうとここに来たわけじゃねえ。お前を殺すために来ただけだ」


「それが自分の言い分を通すってことだろうよ?」


「違うな」


 俺はべつに自分の意見とかがあるわけじゃないんだ。


 ただこいつを殺したい。


 失ってしまった青春を、取り戻したいだけなんだ。


 シャネルと一緒に――次に進むんだ。


「なにが違う!」


「俺はみんなのためにやっている、お前を殺せばみんなが平和に生きられる」


「おためごかしを」


「なんとでもいえ――」


 先に動いたのは金山だった。


 いきなりだった。


 まだ話の途中とも言える雰囲気の中で斬りかかってきた。


 だがその剣は空を斬った。


「えっ?」


 不意をついたつもりだったのだろう。


 だがそんな攻撃は見え見えだった。


 俺の勘が告げていたのだ、金山は卑怯な手を使ってくると。


 正々堂々?


 そんな言葉が似合う男ではないのだから。


「用意ドンで始まるわけじゃないとは思ってたけどさ」


 さすがにこれは、情けないのではないだろうか。


 俺はそれを金山に分からせるために、あえて攻撃をしなかった。


「このっ!」


 金山は怒りでこちらに向かってくる。


 だがとうぜんのように俺には当たらない。


 そして俺の攻撃は――。


 金山の腰まわりに、刀が触れた。


 まるでバットを振るスイングのように動かされた刀。そこに、むしろ金山の方から飛び込んできたような形で。


 そのまま斬り裂く。


 とは、いかなかった。


 金山の裏の狙い、それは分かっていた。


 金山の体に俺の刀が触れた瞬間、俺の体に衝撃が走る。


 そのまま吹き飛ばされそうになる。


「なにが!」俺は叫んだ。「正々堂々だ!」


 吹き飛ばされるわけにはいかない。ここが踏ん張りどころだ。


 地面に根をはやしたように俺は気合を入れて、そのまま刀を振り抜いた。


 結果、俺たちはどちらも吹っ飛んだ。


 金山は腹に深々と傷を受けて、俺も体中をズタボロにされながら。


 もっとも、金山の場合は吹き飛んだというよりも刀をよけるために飛び退いた、という感じだが。


 けっきょく、やつには正々堂々なんて無理なんだ。


 いまのでよく分かった。


 俺は立ち上がり、金山をにらみつけるのだった。


すいません、更新おくれました

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