052 冒険者ギルドでステータス3
しかし俺はステータスをじっと見ててあることに気がつく。
――この()ってなんだ?
「なあ、シャネル。このカッコの中に書かれた数字ってなに?」
「さあ、なにかしら」
「ああ、それでしたらスキルでの補正ですよ」
受け付けのお姉さんが教えてくれる。
「そういうこと。だから私は幸運のところにカッコがあったのね」
「なるほど」
理解できました。
俺は『体力』『魔力』『腕力』『胆力』『素早さ』に補正があるな。
えーっと、ってことはこれが『武芸百般EX』の補正か?
あれってどんなスキルだっけ? たしかステータスに補正がかかるとか書いてあった気がするけど。
「あの、お姉さん。これ、このままスキルとか見られないんですか?」
「ああ、それでしたらそちらのギルドカードの画面をスワイプさせて――」
あー、はいはい。スマホと同じね。
俺は指をしゅっとスライドさせる。そうするとステータスが画面が切り替わった。
「あ、上手いです。初めてのかたはなかなかできないんですけど」
「あはは」
褒められて嫌な気はしない。
でもこんなこと現代日本に生きていた人ならたいていができるさ。
「で、そこに出たスキルをタップして――って、ああああっ!」
「うわ、びっくりした!」
けっこう冷静そうなお姉さんなのに、いきなり叫んだからこっちも叫びそうになった。
やめてくれよな、心臓に悪い。
「あわ、あわわわっ!」
受け付けのお姉さんは俺の開いたスキル画面を、口を半開きで見つめて指さしている。
美人な顔が台無しだ。
でも、なにがそんなにおかしいのだと思いシャネルを見る。
すると、シャネルも目をくわっと見開いている。何があっても動じることは少ないシャネルだ。こういうふうに驚くのはレアだろう。
「え、なに? なんかおかしいの?」
「おかしいもなにも――」
と、シャネル。
「おかしいですっ!」
と、受け付けのお姉さん。
分からない。何がおかしいのだ?
そりゃあ文字は全部日本語だからみんな読めないだろうけどさ。
見慣れたスキルたち。
『武芸百般EX』
『5銭の力』
『女神の寵愛~シックスセンス~』
『女神の寵愛~視覚~』
この中で最後のスキルだけは最近手に入れたものだ。これのおかげで目がよくなった。その気になれば他人のスキルを視ることもできるのだが、それは魔力を大量に使うのであまりやらない。
うーん、なにがおかしいんだ?
「すげええっ!」
と、冒険者が叫びだす。
「なんだこれ! 初めて見たぜ! どんなスキルなんだ!」
「きっとこのスキルがすげえんだぜ!」
「いいなあ、俺もこんなスキルほしい!」
なんだか知らんが褒められる。
ちょっと照れるなあ……。
「ねえ、もしかしてパラメーターよりスキルの方が大事なタイプの異世界?」
「異世界ってなによ」と、シャネル。
「いや、こっちの話し」
「まあでも、普通はパラメーターなんかよりスキルが重要よね。だってパラメーターなんて頑張れ変わるものじゃない? それに比べてスキルは一生ものだから」
「ほうほう」
つまり俺のパラメーターが弱くてもあまり気に病む必要はないのだな。
なにせ俺にはチート級のスキルが4つもあるのだ。このスキルたちのおかげでどれだけ助けられてきたか。
ん、スキルが4つ?
あれ、もしかして……。
「なんで4つもスキルがあるんだよ!」
「凄すぎだろ! フルスキルの上ってなんだよ!」
「さすが勇者が死んだ戦場でも生き延びただけはあるぜ!!!」
あー、なるほど。
そういうことね。
理解理解。
「というかシンク、スキル増えた?」
「増えたよ」
「なんでよ?」
さすがのシャネルも焦ってる。
「そりゃあお前」俺はウインクしてやる。「俺には女神様がついてるからな」
つまりは肩入れされているのだよ、わっはっは。
シャネルはなんだか妙な顔をして、
「下手なウインク」
と、言う。
いや、気にするところそっち?
むしろ女神様がついてるのほうじゃね? ま、いいけど。
「そ、それで。どんなスキルなんだ?」
最初に俺に話しかけてきた冒険者が言ってくる。
そうそう、たしかこのスキル、説明だけはこっちの世界の文字なんだよな。なんだか翻訳しかけの本みたいだ。
俺はスキルをタップして、シャネルに、
「読んで」
と、ギルドカードを渡す。
「ええ、いいわよ。まずはこれ、『武芸百般EX』ね」
周りにいるみんなが息を呑んだ。
その静かな部屋の中で、小鳥のさえずりのような美しい声が響く。
『武芸百般EX』
あらゆる武術に精通し、武神とまで讃えられるべきスキル。また、どのような技であろうと武に関することであれば一目でその性質を見抜き、真似することが可能。
常時ステータスに補正(レベル5)がかかる。また武器を持った場合は力と素早さに、無手の場合は反射神経やラックなどのステータス外の部分に補正(レベル3)がかかる。
ふんふむ。
たしかにこんなスキルだったはずだ。
つまり俺のパラメーターに補正がかかっているのは、このスキルの常時ステータス補正(レベル5)というやつか。
あれ、ってことは剣を握ったりしたらまたステータスあがるのか?
「ちょっと待ってくれよ、EXスキルだって! それも武道系の――」
頭にハチマキを巻いたいかにも武道家みたいな男が出てくる。
見せてくれ、と俺のスキルをまじまじ見る。
「すげえ……」
と、口から出たのはそんな言葉だった。
「ここまでのスキルは見たことねえ。俺が持ってる『鉤爪C』のスキルですら武器を持ったときの補正のレベルは1だ。それでも実数値なら『腕力』や『素早さ』に100の補正がかかるんだぞ。それが補正レベル3だって! 単純計算でそれだけで300オーバーじゃねえか!」
おおっ、とどよめきの声があがる。
なんかいきなり出てきた有識者みたいな武道家。俺のことをべた褒めする。
俺ちゃんあれね、あんまり褒められるのになれてないからこういうの照れるのね。
「シャ、シャネル。次にいこう、次」
俺は恥ずかしくなってそう促す。
「はいはい。お次は『5銭の力ね』
『5銭の力』
死戦を越えて5銭。
致死級の攻撃を受けた時、その攻撃を無かったことにすることができるスキル。発動には条件がある。受けるべき攻撃の大きさに応じて、貨幣価値があると万人に認められているものが減っていく。これを支払えない場合は発動しない
「あ、説明増えたんだ」
最初見た時は何も書かれていなかったはずだ。
これは俺のユニークスキルらしく、ギルドにも登録されていなかったのでもともとは説明も書かれていなかったのだ。
何度か発動すれば説明が追加されるかもしれない、との話しだったので、つまりはそういう事だろう。
「な、なんだよこのスキル! チートだぜ!」
「死なねえスキルなんて聞いたことねえよ!」
「強すぎるぜ!」
まあ、うん、なんだ。
あの、褒めすぎでは?
羨望の眼差しで見られる。あきらかに俺の方が歳下だっていうのに、みんなして俺のことをなんだか尊敬しているようだ。
もちろん中には俺と同じくらいの若さの者もいる。そういうやつらは逆に俺の事を妬ましく思っているのか、ちょっと面白くなさそうだったりもする。そりゃあそうだよな、誰だってこんなふうに褒められたいよな。
「シャネル、あとの二つは……いいわ」
ここからは企業秘密だ。
こいつらに教えてやることはない。
それに俺自信はどんなスキルかをアイラルンに聞いているしな。
「あら、そう。でも本当になんで4つもスキルがあるのかしら?」
「ま、まあ。そこらへんはあんまり気にしないでさ」
突っ込まれるとボロが出そうだ。
嘘は苦手なタイプです、はい。
いや、まあシャネルになら全部話しても良いんだけどね、別に。でもそれは今じゃない。
とりあえずこんなところか、目的だったステータスも見られたし、良しとしましょう。
ま、ぱっと見は微妙だったけどスキルの補正のおかげでかなり上等らしいし文句はない。
「よーし、シャネル帰るか」
「ええ、そうね」
「ああ、ちょっと待ってくれよ!」
最初に俺に話しかけてきた冒険者が俺に言う。
「なに?」
「あんた、このあと暇か? もし良かったら武勇伝を聞かせてくれよ!」
どうする? と、シャネルを見る。
シャネルはご自由に、とでも言うように手を振った。
「じゃあ、そうだな。うん、いいよ」
勇者――月元を殺したことは話せないが、少しくらいはドラゴン退治の話しをしてもいいかなと思った。
できるだけ月元をこき下ろしてやろうかと思ったが、やめた。
俺はあいつへの復讐をとげたのだ、だからもう許した。ま、許したかは微妙だけど、そう思うことにはしたのだ。
「やったぜ! おい、みんなも行くよな!」
わいわいと喜びの叫びがあがった。
ふーん、まあどこの冒険者ギルドでもこういう主みたいな人はいるのだな。
そういう人に嫌われないのも処世術というやつだろうか? なんでもいいけど処世術って文字、エロいよね。
というわけで、アルコールの摂取に行くことに。
「あ、あの。そのお洋服どこで買ったんですか?」
「あら、私?」
シャネルはシャネルで女の冒険者に話しかけれられている。
「はい、とっても素敵な服です!」
そりゃあ、高いからね。
「この服の良さが分かるとは、さすがパリィの人はオシャレさんね」
シャネルさん、かなり嬉しそうです。
この調子じゃあまた服を買い漁るな。ま、いいけど。
俺たちはそのまま酒場に行くことに。
うーん、こんな宴会なんて久しぶりかも。
ま、悪くない気分だね。た、ま、に、は。




