表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
529/783

522 ティンバイ対カーディフ


 止まれ、と強い口調で言われた。


 俺たちは素直に足を止める。


 だって俺たちの進む先、金山のいるであろう王座の間の前に仁王立ちしている男がいるのだから。


「止まれ」


 なんて言われなくても止まるさ。


 立っていたのはカーディフだ。


 身の丈を超えるほどの大剣を自身の背中にかついでいる。


 それをブンッ、と振り回すようにして抜き放ち、俺たちを睨んだ。


「まさか貴様たちがここまで来るとはな。ベルファストは何をしている」


「あいつなら倒したさ」


 俺は迎え撃とうと前に出て、刀を抜こうとした。


 だがティンバイがその俺よりもさらに前に出た。


「その隻眼、そして大剣。魔王軍筆頭将軍、カーディフ殿とお見受けする」


 邪魔をするな、と怒気をはらんだ背中が言っている。


「そういう貴様は何者か?」


「これは申し遅れた。張作良チャンヅォリャン天白ティンバイと申す」


「チャン? ルオのチャン将軍か? まさか、偽物だろう」


「本物か偽物か、この魔弾を味わってみれば分かるさ」


 ティンバイはモーゼルを抜いた。


「加勢するぞ」と、俺。


「いらねえ」


 だが、一瞬で断られる。


 しょぼーん。


 俺はシャネルに慰めてもらう。


「おー、よしよし」


 あ、本当に慰めてくれた。


「悪いがこの戦いは俺様の――ルオのものだ」


 ティンバイがあまりに真面目な顔をしているので、俺もふざけるのをやめる。


「なにか、あいつに恨みでもあるのか?」


「ないね、あいつ自身には。だがカーディフ家の人間には骨髄まで恨みを持ってる」


「どうしてだ?」


「俺様たちの国を無茶苦茶にしたのは、あそこにいるカーディフの父親。先代の魔王だからだ」


 なるほど、と俺はなんとなく察した。


 ルオの国は昔、グリースと戦争した。その戦争で負けて、国は無茶苦茶になった。それで魔石を砕いた麻薬のようなもの――魔片なんてものまで流行はやるしまつ。


 それが八つ当たりだとしても、ティンバイがカーディフを恨む理由は理解できた。


「張作良、敵としては不足なし。と、言いたいところだが。我々の目的はお前たちを魔王様の元へ行かせないことだ。悪いが正々堂々、とはできないな」


「おうおう、噂に名高いカーディフはこの俺様と戦うのが怖いと見える! なら良いぜ、俺たち4人がかりで倒してやる。そうしたらお前さんも言い訳ができるだろう。多勢に無勢だとな!」


 カーディフの眉毛が、ピクリと動いた。


「怖い、だと?」


「ああ、そうさ。この俺様に負けるのが怖いのならばそれで良いぜ!」


 カーディフの剣の切っ先が、ティンバイに向いた。


「良いだろう」


 どうやら一対一に同意したようだ。


「よろしい。おい、兄弟。手を出すなよ」


「分かった」


「あとな――」ティンバイはこっそり言う。「休んでな」


 くっ、たしかにまだ俺は本調子じゃない。


 ここでカーディフと戦い、その次に金山と連戦ではかなり厳しいだろう。


 ここはお言葉に甘えるべきだ。


 それに俺は確信している。


 ティンバイが負けるわけないのだと。どれだけ怪我をしていようが、なにくそ、こいつは誰もが認める英雄なのだ。


「お、おい。本当に大丈夫なのかよ!」


 ローマがティンバイに言う。


「うるせえ! 女子供がおとこの戦いに口を出すんじゃねえ!」


 言いきるティンバイに、ローマは何も言い返せないようだ。


「ふん。男の人ってバカなのよ」


「え、俺もか?」


 なんかシャネルが俺のことを見ているぞ。


「さあ、どうかしらね」


 俺は微妙な感情をいだく。たしかにバカだから言い返せないのだ。


 さて、そんな俺と同じバカなティンバイ。


 持っているのは長距離射程の大型モーゼルだというのに、じりじりとカーディフに近づいていく。


 まるで、俺様はまったくビビってねえぞと言い張るように。


 そしてなにをするかと思えば、カーディフの大剣の間合いに入ってしまった。


「先に言っておくぜ」と、ティンバイ。


「なんだ?」


「俺様の魔弾は、死ぬほど痛い」


 その瞬間、カーディフが大剣を肩から振るう。


 ティンバイはそれを避けずに、むしろモーゼルを突き出した。


 カーディフの剣とティンバイのモーゼルの銃口がかち合い――。


 ――衝撃波。


 周りを一瞬にして通り抜ける。


 廊下の窓ガラスが音を鳴らして揺れ、そして割れた。


 散乱したガラスからシャネルを守る。


「い、いったいどうなった!」


 俺はいかにもザコキャラのようなセリフを吐いてしまう。


 でもしょうがないじゃないか。


 ティンバイが魔弾を打ち出したのは見えたのだが、そのあとの衝撃波でなにが怒ったのかわからなかった。


 しかし状況が分かるにつれて、俺は驚く。


 ティンバイはその場に立っていた。


 カーディフもその場に立っていた。


 だが、互いに武器を手放していたのだ。


「不覚……まさかこれほどとは」


「武器を拾えよ、許してやるぜ」


「お前こそ拾ったらどうだ、大切な武器じゃないのか?」


「はんっ! 俺様は素手でも戦えるぜ」


 なにか意地を張り合っている。


 どうやら互いの武器がぶつかりあって、お互いに武器を手放してしまったらしい。


 ティンバイのモーゼルはこちらの方に。


 カーディフの大剣は少し離れた壁に斜めに突き刺さっている。


「つまらないことを言うな、お前も王である前に武人であろう」


 カーディフはこちらに来た。


 俺はティンバイに言われた通り、手は出さない。加勢はしないという約束だ。


 カーディフは床に落ちたモーゼルを拾うと、ティンバイに投げた。ティンバイはそれをキャッチする。


「お前も――王である前に武人、か」


 ティンバイは何かを思ったのだろう。薄く笑うと、壁に突き刺さった大剣を取りに行く。


 それを引き抜いて、いっきに投げた。


 取れなければ死ぬ、くらいの勢いで。


 しかしカーディフはなんなく大剣の柄を空中で握ってみせた。


「チャン将軍、お前は良い男だな」


「いまさら気づいたのかよ」


 仕切り直しだ。


 2人の漢は向き合い、武器を向け合う。


 なにかしらお互いに認めるところはあるようだが、分かり合う手段など当然もたないのだろう。


 睨み合って。


 次に仕掛けたのはティンバイだ。


 モーゼルが弾けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ