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051 冒険者ギルドでステータス2


「いらっしゃいませ」


 受け付けのお姉さんはにっこりと笑顔。たぶんそういうマニュアルでもあるのだろう、この笑顔を見ているだけで歓迎されているような気になる。


「ステータスの開示を、二人分お願いします」


「はい、でしたら二人で1万フランになります」


「え、金とるの?」


 まじかよ、勝手にタダだと思ってた。


 しかも日本円だと1万円か。個人的にフランというお金の単位は好きだ、1フランが1円だから分かりやすい。でもこの異世界の人は時と場合によってコロコロとお金の単位を変えるから、いまだに慣れない部分がある。


「はい、お願いします」


 シャネルが巾着からコインを取り出しカウンターに置く。


「ではこちらへどうぞ」


 そう言われて俺たちは奥のほうへ――行こうとした。


 けどいきなり服の袖を引っ張られる。


 振り返れば先程の顔に傷のある冒険者がえへへと笑顔でいる。


「なに?」


 敬語にしようかと思ったがやめた。舐められるかもしれないし。


「あのさ、俺たちも見ていい?」


 どうやらさっきシャネルに脅されたせいでビビっているようだ。


 俺はシャネルに目で「どうする?」と聞く。


「良いんじゃない、別に減るものでもないし」


 やったあ、と冒険者たちが喜ぶ。


 まあそうか、人のステータス見るのって面白いもんな。


 俺たちは奥の部屋に通される。


 クリスタルのある部屋は鍵がかかっており、受け付けのお姉さんがそれを開ける。そして俺たちはなだれ込むように部屋に入った。というか俺が足早に入ったらみんなもつられただけだ。


「おおっ!」


 部屋の中央には、吊るされているわけでもないのに中空に浮くクリスタルが鎮座している。


 かなりデカイ。軽自動車くらいの大きさがあるんじゃないか?


「あら、キレイね」


 たしかにシャネルの言う通り、水色のクリスタルは宝石のようにキレイだ。キラキラと輝いて俺たちを誘っている。


「ではこちらのクリスタルにギルドカードをかざしてください」


 受け付けのお姉さんが言う。


「それってもしかして、また酷いことになるかもしれないやつ?」


 俺の言葉に受け付けのお姉さんは何も言わない。ただニコッと微笑んだ。


「ねえ、シャネル! これ酷いことになるかもしれないやつ?」


「ならないわよ、たいてい」


「たいてい!?」


「ステータス、見たいんでしょ。じゃあ早くやっちゃいましょうよ」


 うぐぐ、こういうのを足元を見るというのだ。


 あーあ、俺も鑑定眼みたいなのほしかったな。そしたらこんな危険な思いをせず、ついでにお金も取られずにステータスが見られるのに。


「ええ、ままよ!」


 というよりも死なばもろともだ。


 俺はギルドカードをクリスタルにかざす。


「あ、絶対に手は触れないでくださいね!」


 受け付けのお姉さんの注意。


「分かってますよ、それくらい!」


 うおー、こえぇー。


 これ爆発とかすんのかな?


 心なしか周りにいるやつらも緊張の面持ち。つーかこいつら、そこまでして人のステータスを見たいのか!


 クリスタルから青い光が流れ込んでくる。


 それは魔力の流れだ。


「うぐぐ、もういい?」


「まだよ」


 シャネルはいつもどおり冷静だ。


 それとも俺がビビリなだけだろうか? なんにせよ怖くてしかたない。


「はい、終わりました!」


 受け付けのお姉さんが言う。


 俺はすぐさま手を引っ込める。


 受け付けのお姉さんはこちらを見てニコッと笑った。


「お疲れ様です」


「ちなみにこれ、失敗したらどうなるの? 誰か教えてくださいよ」


「まあ、一説によるとクリスタルの世界に吸い込まれるとか。本当かどうかは分からないわよ、だって消えちゃった人たちは帰ってこないし」


「怖いなあ」


「じゃあ、次は私の番ね」


 シャネルはクリスタルにギルドカードをかざす。まったく恐れなど感じてないのだろうか、その顔はいつもどおり冷静なものだ。


 そしてそのステータスの記入が終わった。


「それで、これどうやったら見られるの?」


「そこのギルドカードを裏面タップしたら見られますよ」


 俺はギルドカードを裏に向ける。すると、この前まではスキルしか書かれていなかった場所に文字が浮かんでいた。


 表示されたパラメーターは七種類。



『体力』

『魔力』

『腕力』

『知力』

『胆力』

『素早さ』

『ラック』



 この中で5番目『胆力』だけは意味が分からない。


「なあ、シャネル。これなんて読むの?」


「なに、この文字?」


 あ、これ日本語で書かれてるんだ。


 言葉は通じるのに文字は通じない、くそ不便だなあ。文字も読めるようにしてくれればいいのに、アイラルンもそこのところ都合が良くないよな。


「ああ、でも数字は分かるわね。5番目は――」


 シャネルは自分のギルドカードと見比べる。


「ああ、胆力たんりょくね。つまり勇敢さというか、精神力というか、意思の力のことよ」


「ほえー」


「最初の体力、魔力、腕力、知力、胆力。この5つが五大ステータスで、素早さとラックは添え物というか、一律じゃないのよ」


「一律じゃない?」


「そう、色々な要因で変動することもあるの」


 シャネルがドヤ顔で説明する。


「あのー、その説明私の仕事だったんですけど」


 受け付けのお姉さんが困ったように笑う。


 シャネルは出過ぎたと思ったのか恥ずかしそうに「あら、ごめんあそばせ」と、謝った。


 まあ、しょうじきなところ説明なんてどうでもいい。それよりもさっそくステータスの確認だ。


「で、これどうするの?」


「簡単ですよ、『ステータスオープン』って、そう言うんです」


「おお、音声認証」


 すげえ、と思ったけどいざ言うのは気恥ずかしい。


「シャネル、ちょっと先やってみて」


「ええ、良いわよ。ステータスオープン」


 シャネルがそう言うと、ギルドカードからホログラムのように映像というか、半透明の薄い板のようなものが浮かび上がった。空中へのプロジェクションマッピングみたいなもんか?


 しかしまあ、文字が読めない。


 俺は自分のギルドカードにある文字と見比べた。



『体力』 ―― 255

『魔力』 ―― 374

『腕力』 ―― 130

『知力』 ―― 267

『胆力』 ―― 399

『素早さ』―― 187

『ラック』―― 197(30)



「ふーん、こんなもんね」


 シャネルはつまらなさそうにそう言った。


 パラメーターの書いてあるディスプレイの後の方にわちゃわちゃ、っとした文字が二つある。たぶんこれがスキルなのだろう。


 たしかシャネルのスキルは『火属性魔法』と『幸運』だったはずだ。どれくらいのランクかは忘れたが。


「なかなかのステータスですよ!」


 と、受け付けのお姉さんが嬉しそうに言う。


「とくに『魔力』と『胆力』は300オーバー。これなら超一流です!」


 ほうほう、300を超えれば良いのか。ふふん、つまり俺なんてたいてい300超えだろうな。


 冒険者の中には「女の子に負けた!」とか言ってるやつもいる。


「つうかあの子、強くねえ?」


 という声もする。


 そりゃあそうだよな、魔道具を使ったとはいえシャネルはあの勇者パーティーの魔法使いをも倒したのだ。弱いわけがない。


 さて、さきにシャネルがやってくれたことで俺も恥ずかしがらずにできるぞ。


 ふっふっふ、とうとうこの時が来たのだ。


 ばっちこい、俺の素敵なステータス!


「ステータス、オープンッッッ!!!」

 俺はテンションマックスでそう叫ぶ。

 浮かび上がるディスプレイ。それを食い入るようにみんなが――俺も――見つめた。


『体力』 ―― 100(150)

『魔力』 ―― 100(150)

『腕力』 ―― 100(150)

『知力』 ―― 100

『胆力』 ―― 100(150)

『素早さ』―― 100(150)

『ラック』――   0


 うーん……。


 なんじゃこりゃ?


 え、私のステータス低すぎぃ!


「これ、俺のステータス?」


「そうね」と、シャネル。


 なんだか微妙だぞ。


 周りの人も妙な顔をしている。なんていうか……しょぼいのか?


 つうかなんだよ、運のあたいなんて「0」じゃねえかよ。え、俺ってそんな不幸な人間だったのか?


 おいおい、まじかよ。あんまり感じたこともなかったけどなあ。


 いや、そりゃあ幸せな人生ってわけでもなかったけどさ。


 他の人たちは変な文字だなーなんて言いながら俺のステータスを眺めている。やめて、みないで! 恥ずかしいから!


「というかさ、オール100ってなんだよ。グスン」


 泣いちゃうぞ。


 いや、そりゃあきれいに並んで素晴らしいけどさ、でももっと高くてもいいだろ普通。そういや最初のころにアイラルンがステータスを底上げしてくれるって言ってたけど、もしかしてそのおかげでオール100なのか? あいつ、百点満点のテストか何かと勘違いしてたんじゃないか?


 なんだかなあ……もっと強くしてくれよな。グスン。



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