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050 冒険者ギルドでステータス1


 さてさて、さてさて。


 とうとう来ましたよ。大本命が。


 なにせ俺はシャネルのくだらない歴史話を聞くために外に出てきたのではないです。


 そう、本日のメインイベントは他にある。



 ――冒険者ギルドだ!



 とうとう来ましたこの場所へ。


 いやあね、首都についたときから知ってたのよ。この街にも冒険者ギルドがあるって。でもどうして今まで寄り付かなかったか。そんなの簡単、だって俺たちお金持ちだもの。


 わざわざ危険なクエストを受けてお金を稼がなくても生活できてたからね。


 でも最近、聞いちゃったんだよねえ……。


 ここにあるらしいんだ、クリスタルが。


 クリスタルといえばあれだ、俺とシャネルが冒険者になったときにスキルを鑑定するために使ったあれだ。あそこのクリスタルは小さなサイズだったのでスキルしか鑑定できなかったが、ここはさすがに首都だ。巨大なクリスタルがあるそうだ!


 そして巨大ということは――


「そう、ステータスが見られるのだっ!」


「ちょっとシンク、なに叫んでるのよ」


「ふっふっふ。とうとうこのときが来た。異世界にきて――どれくらい経った?」


「異世界って?」


 あ、まずい。シャネルにもまだ俺が異世界への転移者だとは教えていないのだった。


「こっちの話し。とにかく、この時を待っていたぞ!」


 なにせ異世界と言えば――。


 スキル!


 ステータス!


 エルフ!


 この三つがないと始まらない!


 ということはつまり、俺の異世界生活はまだまだ序盤なのだ!


「スキル、ステータス、エルフ……。スキル、ステータス、エルフ」


「そのブツブツ言うの、やめて。怖いから」


「ときにシャネルよ、先日俺たちを襲ったケモミミ少女なのだが……」


「ああ、あの半人ね」


「そうそう。あれってなんなのだ? 初めて見たけど」


「そうねえ、首都から離れると半人も亜人もあんまり見ないから。まあでもスラム街とかいったら居るわよ、どこでも」


「半人、亜人、なんか違うのか?」


「半人は人がベースで獣が混じってる存在、亜人は逆で獣がベースよ。ジャポネにはいないのね、良い事だわ」


 シャネルのその言い方にはどこか差別的な意味合いが含まれているように思えた。


 もしかしたら俺が今までケモミミたちを見なかったのは、彼女たちが隠れた場所で暮らしていたからなのかもしれない。


 だとしたらエルフもあれか? 山奥とかに隠れ住んでるのかもな。


 ま、そんなことはどうでもいいか。今はステータスだ。


 首都の冒険者ギルドは、この前の町よりもかなり大きかった。しかし繁盛しているかといったらそうでもなく、箱だけでかいだけの無駄な建物のように見えた。


 俺たちが中に入ると、冒険者たちが一斉にこっちを見た。


「ふん」と、シャネルは鼻を鳴らす。「人の顔をじっと見てさ、気安いんだから」


「そういうなよ、きっとキミが可愛いからさ」


 俺は自分のステータスが見られることでテンションが上ってシャネルに変なことを言ってしまう。


「ちょ、ちょっと。あんまり褒めないでよ」


 シャネル、ちょろい。


 もうね、実は気付いちゃったんだよね。この銀髪巨乳ヤンデレ女はちょろいのだ。俺がちょっと褒めるだけでそりゃあもう照れる照れる。


 それにしても、この見られ方は異常なものがある。


 まるで誰もが俺たちのことを知っているような……。


「それで、ステータス見るんでしょ。受け付けかしら? ちょっと聞いてくるわ」


「ああ」


 はい、そうです。俺は人見知りの陰キャなので店員さんとかとも話すのが苦手なのです。だからこういうときはいつもシャネルにお任せだ。


 シャネルが受け付けに軽やかな足取りで歩いていく。後ろ姿も素敵だ。


 俺は暇つぶしに壁際にある依頼書を見る。


 さすがに首都だ、たくさんのクエストが並んでいる。でもそれらはそう難しいものではなく、たとえば『屋敷の屋根裏にでる吸血コウモリの討伐』やら、『街の郊外で巨大なヘビのモンスターを見たから倒して欲しい』やら。中には『家の周りで騒ぐガキどもを懲らしめてほしい』とからしい。


 なんだか害虫駆除かあるいは何でも屋の仕事みたいだ。もちろん俺は文字を読めないのでまた聞きなのだが。


「な、なあ。あんた」


「え?」


 いきなり声をかけられる。


 やだな、やめてほしいな。俺、知らない人と話すの苦手よ。


「あんた、もしかしてドラゴン討伐の生き残りの二人か?」


「……はい?」


「だからさ、勇者が死んじまったドラゴン討伐だよ! その生き残りじゃねえよな、まさか」


 話しかけてきた男はいかにも冒険者でございという格好をしている。動きやすそうな革の鎧に、俺のものより一回りくらいは小さな剣。顔には深いキズがあり、しかし強面というわけではない。どちらかといえば間抜けそう、と言ったら俺も人のことは言えないな。


 話しかけてきた男から少し離れた場所に他の冒険者たちもいるが、どこか期待したような顔でこちらを見ている。


「なんで、それを?」


「ああ、やっぱりか! おおい、みんな! やっぱりこの人たちがドラゴン討伐の生き残りだ!」


「すげえ、握手してください!」


「サ、サインを!」


「あのドラゴン討伐の話し聞かせてください!」


 あれよあれよという間に冒険者たちに囲まれる。


 若いのからおっさんまで、男ばかりだ。女性冒険者もいるにはいるのだが、どこか「男ってバカねえ」という顔で冷めた目でこちらを見ている人ばかりだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんでこの歓迎ムードは。そもそもどうして俺のことを――」


「そりゃあ有名人っすよ!」と、冒険者の一人が言う。


「そうそう、俺たち冒険者の憧れだ。なにせあの勇者が死んだようなクエストを生き残ったんだからな!」


 ま、まさかこの前のドラゴン討伐。かなりのところまで広まっているのか?


 そりゃあ前の町では飲めや歌えの大宴会を三日三晩、俺とシャネルのために開いてくれたけどさ、あれはあの町の問題が解決したということもあってだろう。まさかその噂が首都にまで届くとは。


 ……これは、もしかしたら俺とシャネルは本当に有名人なのでは?


 昨晩、あの半人のケモミミ少女に言われたことが思い出される。


 たしかあのケモミミ少女は俺たちが有名人で、狙われたと。なにかそんな事を言っていたはずだ。


「この身の丈に合わない大剣を持ったのっぽの優男。それに銀髪の絶世の美女。その二人組が首都に入ったって聞いてから、いつギルドに来てくれるかワクワクしてたんだぜ!」


 最初に話しかけた男が俺の手を掴みぶんぶんとふる。握手のつもりなのだろう。


 というかこの剣、大剣だったのか。


 なんか大剣ってゲームのイメージとかで身長と同じくらいの剣のことを想像してしまう。


 つうかそれよりも、シャネルめ。絶世の美女でとおってるのか。俺はなんだ、のっぽの優男? そりゃあこの異世界じゃあ身長は高い方だがそりゃあないぜ。


「あら、人気者ね」


 シャネルがこちらに戻ってきた。


 男どもが舐め回すようにシャネルを見る。俺はそれが嫌で、盾になるようにシャネルと男どもの間に立つ。


「それで、どうなった?」


「うん、大丈夫。いますぐにでもステータスの開示ができるそうよ」


「そりゃあいい」


 俺がそう言うと、周りが嬉しそうに騒ぎだした。


「すげえ、こんな上級者のステータスを見られるなんて!」


「参考にしようぜ!」


「な、なるのか? 俺たちなんかが見ても参考に」


 はあ、とシャネルがため息をつく。


「外野がうるさいわね」


 シャネルが胸元から杖を取り出す。


 あの、ちょっと思ったけどそこに杖を入れておくのやめません? エロいから。


「焼く?」


「焼かない」


「ふん、冗談よ」


 でも杖を取り出したことで少々効果はあったようだ。みんな黙った。なんだか教師が今から怒るのを察して黙る生徒たちのようだった。


 というか本当に冗談なのか?


 まあそれは聞かぬが花で言わぬが仏。うん、どっちも使い方違うね。


 俺たちは受け付けへと行く。当然のように後ろにぞろぞろと冒険者たちがついてくる。


「いらっしゃいませ」


 受け付けのお姉さんは笑顔だ。


さてさて、とうとう待ちに待ったステータスだ。俺は精一杯の笑顔を返したのだった。


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