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474 空からの敵、そしてスキルの覚醒


 空から落ちてきた魔族の兵隊は、頭から地面に突き刺さっている。


「な、なんだ!?」


 俺は思わず叫んでしまう。


「シンク、離れて!」


「い、いや……たぶんあれ死んでるぞ」


 そんな気がする。それは勘だが、たぶん正解のはずだ。


「上から落ちてきたのよね?」


「そうだと思う」


 おそるおそる近づく。まったく動かない。やっぱり死んでいるようだ。


 いきなり落ちてきた兵隊に気付いて数人の兵士たちがこちらに近づいてくる。


「な、なんだよこれ」


「魔族ってやつだぜ!」


「ひゃ~、俺、初めて見たよ」


 なんだか緊張感のないやつらだ。でもしょうがないかもしれない。俺たちはいま、あくまで軍事訓練という名目でモン・サン=ミッシェルの外にいるのだ。


 誰だって、学校の避難訓練の日に本物の火事がおこるとは思わないだろう。


「シンク、もしかしてこれどんどん落ちてくるの?」


「かもしれん。どうなってんだこれ。空から攻めてくる? 海からじゃないのか?」


 だとしたらどうなるんだ?


 海からではなく空から敵が攻めてくる。つまりこれは奇襲ということではないのか。


 しかしどうやら違うようだ。


 俺たちから見て左側。西の方面の空に、なにか光のようなものが反射した。それは最初、星の光かと思ったが違う。おそらくあれは……。


「敵だ、西の海岸に着陸してるぞ!」


 俺の近くにいる兵士が首を傾げた。


「えっ?」


「ほうけてる場合かよ! 敵が来てるんだって! お前ちょっとエルグランドにでも報告してこい。シャネル、俺たちは先に行くぞ!」


「分かったわ」


「エルグランドって、エルグランド閣下ですか? というかあんた誰……?」


「うるせえ、とにかく急げ! これは訓練じゃないぞ、本当に敵が来たんだ!」


 時間がない。


 兵士たちの集合、出陣を待っている間になにか大変なことになるかもしれない。それなら、自由行動を許された俺とシャネルはさっさと向かうべきだ。


 瞬時にそう判断して走り出す。


 たしか西の海岸にも兵士はいたはずだ。海岸沿いではなく、少し離れた拠点に配置されていたはずだが。そちらにいる兵たちは、異変に気付いているのだろうか。


「ねえシンク」


「なんだ!」


「これ、走ったあとに戦うの?」


「そうだよ!」


「戦場って大変ね」


 シャネルは息も切らさずについてくる。


 スカートのフリルをゆらしながらもシャネルの表情はまったくゆれない。


 底抜けの体力があるわりには、魔法を使うとすぐに疲れるシャネルさん。どういうことかよく分からないが、昔からそうだ。


 海岸沿いから海岸沿いへと走り抜けた。


 距離としては数キロほど離れていたが、俺もシャネルもそれくらいならすぐに走ることができる。なんだかんだと言って、この異世界に来てからの俺はよく運動をしている。そのおかげもあって体力もついてきている。


 成長。


 間違いなくそれだ。


「あらん、もう戦闘が始まってるわよ」


「そうだな!」


 なかなか判断の良い指揮官がいたのだろう。海岸沿いではすでにドンパチを始めている。やはり敵は空から攻めてきたらしい。備えられた高射砲こうしゃほうが火を吹いている。


 いや、違うな。あれはもともと高射砲として備えられた大砲ではない。おそらく無理やり空に向けて撃っているだけなのだろう。


 狙いはあまり定まっておらず、敵に打撃をくわえることはできていないようだ。


 敵はゆうゆうとパラシュートを開いて海岸沿いに降りてくる。


「ねえシンク、あれなに?」


 シャネルは敵が空から落ちてくるさいに使うパラシュートを知らないのだろう。不思議そうなに、しかしこの戦場において驚くほど冷静に聞いてくる。


「あれは落下傘らっかさん、パラシュートだ。空気抵抗かなんかそういうのを使って空から地面に安全に落下するための装置。それよりも――」


 俺はこの異世界に似つかわしくない技術であるそれよりも、その先が気になった。


 空から降りてくる敵がいるということは、空の上に敵の母艦のようなものがあるのではないか? 魔族の兵隊を輸送してきた船、あるいは航空機が。


「あれ、きちんと開かないことがあるのね」


「えっ?」


 言われてみればそうだ。あまり精度が高くないのかパラシュートが開かずにそのまま落ちてきている兵隊がいる。そういう兵隊は地面に激突して、たぶん死んでいた。


 俺たちが最初に見た魔族の兵隊もおそらくそうだったのだろう。風に流されてあちらに落ちたのだろうか。


 上空を見る。最初は点みたいだったなにかが次第に大きくなってくる。


 それがパラシュートでもって降りてくる敵だと気付いたときには、シャネルは迎撃のための魔法を唱えていた。


「晩夏たちこめし陽炎のごとき虚しさで、我が敵を灰燼とかせ!」


 杖先から飛び出したのは『ファイアー・ボール』の魔法。その名の通り火の玉を杖先から打ち出す魔法だ。あまり魔力を使う魔法ではないようで、シャネルでも連発ができる。


 シャネルは魔力の燃費が悪いのか、少し魔法を使うとすぐに疲れるのだ。


 まあ、それは俺も同じだが。


 上空の敵はシャネルの魔法を受けて一気に火だるまになる。


「1体ずつ倒してもしかたがない! できれば敵の親玉を叩きたい!」


「って言ってもね、シンク。どこに敵の大将がいるかなんて分からないわよ」


「そうなんだが――」


 少し離れた場所に敵が着地した。ちゃんとパラシュートが開いたのだろう、ラッキーだな。きっと俺だったら開かないで地面に激突していたのだろうな、運がないし。


 俺は刀を抜く。


 敵は俺たちを認めると、最初、緩慢かんまんな動作で向かってくる。それは次第に早くなる。


 手には金属製の棍棒こんぼうを握っている。


 まともに武器をかち合わせればこちらの刀が折れることはサルでも分かること。


 なので俺はまず、相手の棍棒の動きを見切ることにした。


 相手の攻撃を避けてから、カウンターでこちらの攻撃を食らわす作戦だ。


 全神経を集中させる。俺の場合、全神経というのは第六感も入るわけだが、そのスキルによって相手の動きの予想がつく。


 ――えっ?


 不思議な感じがした。俺の脳内に直接、なにか映像のようなものが浮かぶ。その映像は現実の視界に映る景色とほとんど同じもので――しかし相手の立つ位置が違う。


 脳内の映像と現実の映像がリンクする。


 脳内の映像は半透明な未来の映像だ。


 それによると、敵が次に動く位置が理解できた。


「まさかな!」


 と、俺は自分の中に生まれた新しい力に歓喜して、独り言にしては大きな声で叫ぶ。


 相手の次の動きが見える。


 それはまさしく未来予知。『女神の寵愛~シックス・センス~』がみせる未来の映像。


 なんなく相手の攻撃をよけた。


 そして――。


 敵の鎧、その隙間を狙い刀を突き立てた。


 相手がどちらににげようとするかもなんなく理解できて、そのまま未来の映像の方へと刀を動かす。当然のように俺の刀は相手の首筋に突き刺さった。


 俺は経験上知っている、魔族の鎧は堅牢だが隙間を狙えばその限りではないのだと。


 首を斬る。


 罪悪感はない。ここは戦場で、それに相手は魔族。すでに人間として生きているかも微妙なのだから。俺はけっしてバランスを崩して、命の大切さを忘れているわけではない。


 そう自分に言い聞かせる。


「お見事」


 と、シャネルが言う。


「見えたんだ」


 俺は刀についた油のような液体を服の裾でぬぐった。シャネルが一瞬嫌そうな顔をする。洗濯が大変なのよ、という顔だ。


「見えたってなにが?」


「相手の動きが。未来予知みたいに」


「すごいのね」


 いいや、と俺は首を横にふる。


「これはあんまり良い事じゃないな」


 さきほどの歓喜はすっかりかげひそめた。


 スキルの覚醒には違いない。けれどこれは、俺が師匠に教わった『水の教え』に反するものだ。水は流れ、痛みを感じることもなく、ましてなにかを避けることもない。ただ流転し、決まった形を定めない。


 しかしこのスキルを使うと、俺は明確に敵の攻撃をよけてしまう。


殿方とのがたの戦いっていうのは難しいのね」


 俺はシャネルに笑いかける。


「しかしいまは有効なスキルだ」


 使えるものは使う。それは当然のことだろう。


今日からしばらく更新時間を21:00に変更します。

一週間程度様子を見て、あまり変化がないようでしたら16:00更新に戻します。

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