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459 晩餐会にて


 会議が終わって、なぜか俺はパーティー会場にいた。


「……うーん。晩餐会か」


「どうしたのシンク、浮かない顔してるわよ」


 俺の隣には合流したシャネルがいた。


「いや、まあね。なんか面倒なことしちゃったなって思って」


 どーしてあんなこと言っちゃったかな。いや、まあ周りから責められてるガングー13世があんまりにも可哀想だったからなんだけど。


「会議場に行ってたんでしょう? どうだった?」


「なんかぐちゃぐちゃだった」


「ぐちゃぐちゃ?」


「話し合いというか足の引っ張り合いみたいな感じでさ。ぜんぜん話なんて進まないの。もう文句言ってばっかり」


「そうなの」


「でさ、俺も腹がたってさ。……けっきょくとんでもないこと言っちゃった」


「あら、そうなの?」


「うん。なんかドレンスってさ、ルオの国と交流みたいなのが無いらしんだよ。でも兵が足りないからどこかの国から助けてほしいわけじゃない?」


「そうね。自分の中に状況を打破できる力がないなら他から力を借りる。至極まっとうな考え方だわ」


「で、ルオに助けを求めたい。でも交渉する人がいない」


「なるほどね、話が見えてきたわ。さてはシンク、その交渉役を買って出たのね」


「そういうこと」


「良いんじゃないの? ルオの人ならシンクが言えば助けてくれるでしょ」


「だそうだと思うけどさあ……」


 実際どうなの? 久しぶりに友達から手紙かなんかが来て、その内容が戦争するから兵力を貸してくれっていうのは。


 なんか俺、すっごい不義理なことをしているんじゃないか?


「うーん。うーん」


「そうやって悩みすぎるのはシンクの可愛らしいところでもあるけど、悪い癖でもあるわよ」


「褒めてる、それともけなしてる?」


「応援してるのよ」


 はあ、とため息。


 それにしても晩餐会である。俺たちは現在、宮殿に戻ってきていた。


 宮殿の中にはパーティー会場があり――なになにの間とか呼ばれていた――そこにたくさんの人が集まって立食パーティーが開催されていた。


「晩餐会っていうから、落ち着いた場所で美味しいもの食べれるのかと思ってたんだけどな」


 フレンチとかね。


 うん? フレンチはフランス料理だよな。ならこの国だとドレンチになるのか? ま、どうでもいいか。


「親睦を深めるためでしょ。ほら、シンクもあっちで話してきたらどう? 私は壁の花でもしてるわ」


「壁の花?」


 なにそれ?


「舞踏会とかで誰にも誘われずに壁際にいる寂しい女のことよ」


「なるほど。だから壁の花か」


 俺としてはシャネルをそんな惨めな立場においやることはできない。だからどこにもいかずに2人で壁際にいることにした。


 シャネルは1度家に帰って着替えてきただけあってパーティーでもまったく悪目立ちのないドレスだ。可愛らしいけど、この子はどんなときもこういう服を着ているからな。


 ちなみに、シャネルが宮殿に戻ったのは俺たちが会議場から帰ってきたのとまったく同じタイミングだった。そのシャネルはなぜかフミナも連れてきていた。


 そのフミナはいま――。


「あ、あの。私は……あの……すいません」


「妹は淑やかで奥ゆかしい性格でしてね」


 エルグランドの横にいて、なにやら他の貴族たちに紹介されている。


 けれどフミナはすごく居心地が悪そうで、ときおり助けを求めるようにこちらを見てくる。俺は手をふって頑張れよとエールを送る。


 お家の事情だろう、あんまり口をはさむものではない。少なくともいまの状態ではね。これでエルグランドがまたぞろ政略結婚だの言い出したらさすがに文句も言うけどさ。


「シンク」


「なんだ?」


「あそこのあれ、取ってきて」


「うん? あの果物か?」


「ええ」


 了解、と歩き出す。


 それにしてもシャネルが俺に頼み事をするなんて珍しい。普通なら自分で取りに行きそうなものなのだが。


 立食パーティーは食べ放題のビュッフェスタイルだ。とはいえ自分でトングを使って好きなようにとるわけではなく、それをするメイドさんがいる。


 メイドさん……。


 嫌いじゃない、むしろ好きだ。


「すいません、その果物ください」


 と、俺はメイドさんに言う。


 メイドさんは何も喋らずに、にっこりと笑顔だけ返してガラスでできた綺麗な皿の中にカットされたフルーツを入れてくれた。なんとも気持ちのいいバランスで数種類のフルーツが盛られる。


「ありがとうございます」


 と、俺は言う。


 けれどメイドさんは何も答えない。たぶん、そういうルールなのだろうなとなんとなく察した。どこのメイドさん――ちなみに、男の人もいるにはいる――も一言も喋らないのだ。


 シャネルのところにもどる。


「はい、果物もらってきた」


「ありがとう」


「なんかさ、メイドさんたち喋らないんだけど」


「でしょ? なんだか気持ち悪くて、私あの人たちから食事をもらいたくないのよ」


「なんでかな?」


「さあ、知らないわ」


 そうかシャネルにも知らないことがあるんだな。じゃあガングー13世にでも聞いてみようかな。


 と、思ったらガングー13世はパーティー会場の真ん中の方で人をたくさん集めて話をしている。なんだかパーティーというよりも公務の延長のようで、顔には余裕がない。


 あの人も大変だなあ、と俺は壁際に立ちながら思うのだった。


 ふと見れば、とんがった耳をした少女がこちらに駆けてきていた。その後ろには不機嫌そうなケモミミと、トカゲと人間が半分ずつといった感じの半人がついてきている。


「シンクさん!」


「やあ、ミラノちゃん」


 まるでエルフのようなロリ巨乳ちゃん。その昔、人身売買されそうになっていたのを俺が助けてアメリアという国に逃した。いまはその国でアイドルのようなことをやっていたらしいが、ドレンスへの増援として来てくれた。


 テルロン戦線で会った後、パリィに帰ってきてからは一度も顔を会わせていなかったが。


「よう、お前今日も辛気臭さそうだな」


 後ろにいるのはローマ。


 そしてその後ろにはリーザーさん。


 どうやらこの晩餐会にはアメリアの人たちも呼ばれていたらしい。


 久しぶりだね、と再開を祝して俺はリーザーさんに手を差し出す。


「榎本さん、お久しぶりです」


「久しぶり。いまはパリィのどこで?」


「いえ、我々はここより少し離れた場所におります。艦船がありますので、その停泊のために」


「なるほど」


「ですからパリィに来たのは久しぶりなんですよ」と、ミラノちゃん。


「そうそう。この街には嫌な思い出ばっかりあるからな」と、ローマ。


「警察に捕まったな」


「ほんとうにな。って、誰のせいだと思ってるんだよ」


「ごめんね、ミラノ」


「いや、ローマは悪くないのさ!」


 みんなで笑う。


 いい雰囲気だ。いかにも友達という感じ。


「なにか飲みましょうか。自分がとってきますよ」


「リーザーさん、俺も行きますよ」


「ねえねえ、ミラノちゃん。その服可愛いわね」


「そうですか? この前、部隊のみんなに買ってもらったんです」


「へえ、どこで?」


 なんかシャネルたちは女子トークをはじめてるし。がさつなミラノもそれを聞いていた。


 俺はリーザーさんと壁から離れる。


 周りからちらちらと視線を感じた。


 半人差別。


 嫌な感じだった。


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