454 会議場到着
昨日、投稿休みました。すいません
馬車の中で、ガングー13世とエルグランドはなにも喋らない。
「いやいや……なんで無言なのさ」
こういう雰囲気は苦手だ。
「なにか楽しい話でもあるんですか」と、エルグランド。
「ないけどさ」
「あはは」と、ガングー13世は疲れたように笑う。
よく見ればまた足が小刻みに震えていた。
さてはこの人、緊張しているな。
「ガングーさん、あんまり緊張してるとあれだぞ。威厳がない」
「大丈夫ですよ。ガングーはこう見えて本番に強いタイプです」
「そうなの?」
「ですよね、ガングー」
「あ、ああ」
本当かな? なんだか心配になってきた。
ガングー13世の馬車が通ると、周りの馬車や人はそそくさとどいていく。まるでサイレンを鳴らした救急車のようだ。これならかなり快調に会議場までつくだろう。
「あっ!」
ふと、俺は思い出す。
そういえばシャネルになにも言わずに宮殿を出てきてしまった。シャネルのやつ、着替えて宮殿に帰って来たら俺がいなくてびっくりするんじゃないだろうか。
うーん……。
「ちなみにエルグラさん」
「その呼び方はやめなさい」
「会議ってどれくらいかかるのさ、時間」
「その時によりけりです」
「具体的にだよ。なんなのあんた、他人の質問を素直に答えたら死ぬ病気にでもかかってんの?」
「そんな病気はこの世に存在しません」
「皮肉も分からないのかな~?」
なんなんだよ、こいつマジで。イライラするなぁ。
おっと、落ち着け俺ちゃん。怒っても良いことなんてないぞ。流れる水のように、腹立たしいエルグランドの言葉をいなすのだ。
「だいたい1時間ほどでしょうか。早いときは30分ほどで終わるよ」
ガングー13世が代わりに答えてくれた。
「へえ、そうなんですか」
30分で終わってくれるなら、まあ大丈夫だろうな。1時間でも大丈夫。シャネルの着替えは長いからな。いつもどの服を着るか小1時間は悩むからな。
「ちなみに遅いときは深夜までかかります」
エルグランドは俺を脅すつもりかそんなことを言ってくる。
「そしたら俺、途中で抜けるから」
さすがに深夜まで会議を見学するつもりはない。
「大丈夫。今日はこのあと晩餐会もあるからね。いつもより早く終るに決まってるよ。せっかくだしシンクくんも参加してくれたまえ」
「晩餐会?」
つまりパーティー?
うーん、いちおう戦時中だよね。なんだかノンキすぎやしませんか。
まあタダ飯にありつけるというのなら喜んでいくけど。でも晩餐会ってお硬い感じかな? うーん、シャネルは案外好きそうだけど。
「ちなみにその晩餐会はどこでやるの?」
「ベルサイユ宮殿です」
「二度手間!」
なんで行ったり来たりしなくちゃならないの。いや、まあ会議に参加する人たちが全員宮殿から出発したわけではないだろうし。
会議場がどんな場所かは知らないけど、そこでご飯を食べるわけにもいかないだろうしな。
「つきましたよ」
「え?」
いきなりエルグランドが言うものだから、なんのことか分からなかった。
窓の外を見れば、太い石の柱で天井を支える神殿のような建物が見えた。
なにかにつけて洒落たものの多いパリィの街で、こういう古めかしいものはなんだか異質だ。古い時代の建造物がそこにだけ残っているように思えた。
「変な建物でしょう。一時期ドレンスにはリバイバルブームがありましてね」
「リバイバル?」
っていうと、ルネサンスみたいなものだろうか。
「それで古い時代の建物を模して会議場を作り直したんだよ」
「それはガングーさんがやったの?」
「いや、私ではないよ。もっと昔の政治家さ」
ふーん。
まあ良いんじゃないだろうか。温故知新なんて言葉もあるわけだし。故きを温めて新しきを知る、良い事だ。
俺たちは馬車から降りる。
中から出迎えでも来るかと思ったらそんなことはなかった。勝手に入ることになる。
会議場の入り口は最初どこにあるのか分からなかった。けれどよく見れば壁の一部の色が少しだけ変わっていて、そこに小さな取っ手がついていた。
エルグランドがその取っ手を引く。
すると色の変わった壁が自然と横にスライドした。
「おおっ、自動ドア!」
なかなかハイテクである。魔法だろうか?
ワクワクして入ると、がっかりした。
内側に人がいて扉を引っ張っていた。
「なにこれ、手動ドアじゃないか」
「外に誰が来たか上の方から確認して、中から開けているんだよ」
ガングー13世は親切に教えてくれる。
「なんでそんな面倒なことを」
「どうも当時は入り口のないデザインが流行りだったらしいね」
変なの。
まあいいや。
入り口は小さいように見えたが、その先には広々としたエントランスホールがあった。中心には銅像が2体あった。
1つはたぶん、ディアタナとかいう女神のもの。
そしてもう1つは初代ガングーだ。
ガングーのことは一度、金山の記憶の中で見ている。ここに置かれた銅像はその記憶の中のガングーにとてもよく似せて作ってあった。
本当は会議場の中を探索したいところだったがエルグランドにあまり離れるなと言われたので素直に従う。
どうやら会議場にはいくつかの部屋があるらしい。その部屋の1つ1つが会議場なのだろうか。
通路を歩いていく。
一本道だが、ドアがいくつかある。それらを素通りしていくと階段があった。
「この建物、何階建て?」
「何階だと思いますか?」
と、エルグランド。
「質問してるのはこっちだぞ」
「当ててみなさい」
「はいはい、1階建て1階建て」
適当に言ってみる。
目の前に登りの階段があるのに1階建てってのはありえないからな。
そしたらエルグランドは悔しそうな顔をした。
「……正解です」
「えっ?」
からかっているのだろうか。
「よく分かったねシンクくん」
「いや、まあ……あはは。察しとか勘みたいなもんは昔から良いしね」
いちおう、こっちの異世界に来る前からそれなりに良かった。『女神の寵愛~シックス・センス~』をアイラルンにもらってからはさらに良くなっていた。
階段を登っていく。
階段は途中で左に折れ曲がっていた。踊り場で立ち止まる。すれ違う人もいなければ、前にも後ろにも歩く人がいない。もしかしたら会議ってもう始まっているのではないだろうか。
「何をしているのですか。早くついて来なさい」
「はいはい。エルグラさん、まだ歩くの?」
「もう少しです」
階段を登った先には、登る前とほとんど同じ風景があった。、違っているところと言えば床に赤い絨毯がしいてあるくらい。それがなければ1階と2階の見分けはつかない。
「じゃあ私はこっちだから」
「うん? ガングーさんはここなの?」
てっきり一緒なのかと思っていてが、ガングー13世は扉を開けて入っていく。
俺たちはまだ歩くようだ。
まだ歩く……。
べつにあれだけ行軍したのだから、いまさら歩くくらいはなんともないのだけど。
また階段だ。
「この先です」
「これ本当に1階建てって言えるの?」
だって階段があるじゃないか。
3階も同じような光景。絨毯の色は緑。
「会議場に入れば分かります」
「はいはい」
「ここです」
「はいはい」
エルグランドが扉を開ける開ける。ちょっとだけ中がどうなっているのか気になる。
俺はエルグランドの後ろから会議場に入るのだった。




