436 シンク撃進
これまで溜め込まれた魔力は、自分でも信じられないほどの威力のビームとなって開放されていく。
放たれた一撃は、暴力的なまでの勢いで敵を飲み込み。そして俺すらも振り回す。
足の筋力で支えることができない。
銃弾を打ち出すときの反動のように『グローリィ・スラッシュ』は上へ上へと向いてきそうになる。それを抑え込みなんとか横一列に並ぶ敵を消し去る。
狙う対象は第一にエディンバラ。その次に3両の戦車。あとは有象無象の魔族の出来損ないだ。
赤黒いビームは、俺の視界すらもほとんど埋め尽くしてしまう。
本当に敵に当たっているのか、それは不安でもあった。しかし俺の感覚――第六感が敵の位置くらいは教えてくれる。
このまま魔力が尽きるまで『グローリィ・スラッシュ』を照射し続ける――そのつもりだった。
しかし終わりは俺の魔力の問題ではなく、武器の問題により訪れた。
突然、魔力がまとまりきらずに雲散霧消してしまう。あたりに霧のような粒子の光が飛び散って、『グローリィ・スラッシュ』が消え去った。
「くそっ!」
剣が粉々になっていた。
刀身――といってももともと刃は潰れていたが――はなくなり、かろうじて柄の部分だけが残っていた。
「エノモト・シンク! どうしたのですか、いまのをもっとやりなさい!」
「やりなさいってお前なぁ!」
状況を見ろ!
俺は柄だけになった剣を放り捨てる。
「あれっ! 剣の先が!」
「見りゃ分かることをいちいち言わんでよろしい!」
腕が震えていた。
疲労だろうか?
それとも歓喜だろうか?
俺の中でなにかが変わったような気持ちがある。例えるならば自転車と同じだ。一度乗れるようになればしばらく乗らなくても自転車には乗れる。それと同じように一度これを使えれば、使えなくなるということはないだろう。
とはいえ、いまは剣がない――。
「まずいですね、敵はそうとうご立腹ですよ」
空では茶色いカラスのような鳥がぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている。
――やってくれたな榎本シンク!
エディンバラの声だ。
嫌になる、いまので倒せなかったというわけか。
見ればエディンバラは黒い魔力の手を前方に展開して、俺の攻撃を防いだようだ。その後ろにいた魔族たちはエディンバラに守られて無傷だったらしい。
だが、その横に並んでいたやつらは――影も形もなくなっている。
そして戦車すらも。
最低限の戦果はあげられた。
これで遠くからの砲撃はなくなった。
あとは、いかにしてエディンバラを倒すかだ。
前に出ようとすると、足がふらついた。
舌打ちをする。
「魔力がないな」
「撤退しましょう」
「うん、そうだな。それも賢いやり方だと思う」
しかし町までの距離よりも、敵と俺たちの距離の方が近い。2人で逃げたとして、町に到達するよりも前に追いつかれることだろう。
「エルグランド、逃げな。俺がここで足止めしてやる」
「な、なんですって?」
「逃げろと言った」
「まさか! どうしてこのエルグランド・プル・シャロンが部下をおいて逃げることなどできましょうか!」
少々芝居がかったセリフに思えたが、エルグランドのやつは本気で言っているようだ。
俺は優しく笑いそうになるところを、それは癪だったので鼻で笑ってやる。
「足手まといだって言っての。俺だけなら死なないからさ、お前はさっさと町の方へ戻れ。それでできれば俺に武器を運ばせろ。いいな」
「……大丈夫なのですね」
「ああ、任せておいてくれ」
エルグランドは頷き、
「分かりました」
町の方へ走り出そうとする。
「あっ、ちょっと待って」
「なんですか」
「とりあえずあんた、金目のもの置いてけ」
「へ? か、カツアゲですか?」
「スキルの発動に必要なの!」
バカかよこいつ、なんでこの状況でカツアゲなんてしなくちゃいけないんだ。
エルグランドは納得したのか、財布を取り出した。その中からコインを渡してくる。金貨や銀貨がざくざくと出てくる。さすがは貴族様だ。
「こ、こんなものでスキルが発動するのですか?」
「ユニークスキルなんだよ」
コインをポケットというポケットにいれる。つうかその財布ごと渡せよと思ったが、それはそれで本当にカツアゲっぽくなるので言わないでおいた。
「で、では行きます」
「おう。俺の刀だぞ。どうにかして届けてくれよ」
「はい――」
エルグランドは走り出した。
そして俺はそれとは逆方向。魔族たちのいる方向に向かって歩きだす。
ポケットに手を入れて、余裕綽々に。
「やってやるさ――」
時間くらいは稼げるはずだ。
頭の中で考える。まずはどうにかして相手から武器を奪う。そのあとはとにかく無茶苦茶にでも戦うしかない。そして、そして。勝つ。
はじめ歩いていた俺は、その速度を上げていく。
敵の魔族の出来損ないもこちらに向かって歩を進めだした。
距離が縮まっていく。
魔族のやつらはコピペでもしたように同じいで立ちで同じ武器を持っている。
最初に襲いかかってきた1人、そいつが剣を振り上げた。その刹那、俺はモーゼルを抜く。
「当たれよッ!」
叫んで、トリガーを引く。
振り上げた手の第一関節を打ち抜いた。
それで相手はたまらず剣を落とす。それを拾い上げる前に、次の敵がきた。
「戦いは数ってかよ!」
悪態をつき、剣を拾うことは諦めた。
まるで濁流のように敵は俺に襲いかかってくる。
逃げの一手は、しかし伸びてきた真っ黒い手で防がれた。
魔法のエフェクトが出て敵の一撃を防ぐ。
「榎本シンク!」
「来たか、エディンバラ!」
俺の周りにいた魔族の出来損ないが、一緒になぎ倒された。
おいおい、仲間だろうとお構いなしか。
俺は素手で構えをとる。
「お前の、お前のせいで俺の身体はこんな――」
「知るかバカ!」
うねうねと動く魔力腕が、俺の命を刈り取ろうと伸びてくる。それを横に飛び退いて避けて、そのまま俺は距離をつめた。
握りこぶし。
それを顔面に叩きこんだ!
エディンバラはバランスを崩して後ろに倒れこむ。それで両腕が振り回されて、また周囲の魔族たちがブチブチと潰れていった。
そこらへんに落ちていた剣を拾い上げる。
前に、前に出る。撃進だ。
「隠者一閃――『グローリィ・スラッシュ』!」
このさい、出し惜しみはなしだ。
「そんな攻撃がきくかぁ!」
エディンバラは立ち上がり、魔力の腕を増幅させるように巨大化させ、俺の攻撃を防ぐように手を突き出す。
だが俺の狙いはそちらではなく、敵の数を減らすこと。
鞭のようにビームを振り回し、周囲の敵を消し去っていく。
その途中で剣はすぐに壊れてしまった。
武器をもう一度調達しなければ――。
どこかに、どこかにないか。
「全軍、この男に構うな! 突撃しろ!」
「なッ!」
エディンバラの号令。それにより魔族の出来損ないたちはまったく俺のことを無視して町に向かって進みだした。
俺は武器を探すが、どこにも武器は見当たらなかった。
運が悪い。
そう、俺は運が悪いのだ!
「おいおい、戦場で一騎打ちでもやる気かよ」
「お前1人くらい、俺だけで殺せるさ。他の兵士の数をこれ以上減らせば、魔王様に何を言われるか分かったもんじゃないからな」
くそ、俺は満足に足止めもできないのか。
情けない。
いや、人間1人にできることなんて限界があるのだ。
あとはエルグランドが町まで逃げ切ってくれればいいが。
俺はエディンバラと対峙する。
やつの両腕はいまにも俺に襲いかかってきそうで。しかしその予兆がまったくよめない。人間の手のように関節があるわけでもない。それどころか、肩の部分もぐちゃぐちゃとした黒い魔力で隠れていて、行動の『おこり』がまったくよめないのだ。
それでも――。
バチンッ!
と、魔法のエフェクト。
スキルでなんとか防いだ。またしてもまったく見えなかった。
「さて、榎本シンク。お前はあと何度殺せばいい?」
消え去った魔力の腕が、すぐさま生えてくる。
「どうだかな――その前にあんたを殺すさ」
武器を、早く武器を届けてくれ――。
俺にはここまで武器を届ける方法も思いつかないが、素手では話にならないのは確かだ。
「死ねッ!」
エディンバラの腕が動く。今度はきちんと見えた。
俺はさまざまな選択肢を一瞬で頭の中へと思い浮かべ、もちろん逃げることもできて。それでも、それでも前へと。
俺は撃進する――。
先日、劇場版『GのレコンギスタⅡ ベルリ撃進』を見てきました
だからどうしたんだって話しなんですが、今回も最高に面白かったので。
本日のタイトルはそれによせてあります。
富野由悠季という人は本当にすごい人だと思います。自分が半世紀後に、富野監督のように創作を続けていられる自信ははっきり言ってありません。だからいま、できる間に死にものぐるいでやっているのですが。
動かないままなら始まらないから、今度ほかの小説も投稿してみたいなと思っています。よければ見てください。




