表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

436/783

429 会食、逃げの逃げ


 夜になり、俺たちはみんなで食事をとることになった。


 つまりは会食である。


 なーんて、格好いい言い方をしてみたものの、場所は俺たちが泊まっている宿の1階。つあまりはいつもの酒場だった。


「はい、シンクさん。どーぞ」


 ミラノちゃんがワインをそそいでくれた。


「うん、ありがとう」


 俺は礼を言って一口飲む。


 いやあ、やっぱり女の子についでもらうアルコールは美味しいなあ。


 え? 変わらないって? 変わるんだよ。


「わっ、このお肉美味しいな。久しぶりに魚以外にありついたぞ」


 肉にかぶりついているローマ。


「なあローマ、それもしかして共食いじゃないのか?」


 俺はちょっと気になって聞いてみる。


「お前それ、半人差別だぞ!」


「お、すまん」


 いやはや、知らない間に差別をしていたとは。


「あ、あの。お名前聞かせてもらえませんか?」


 俺の近くではデイズくんが頬を真っ赤にしてミラノちゃんに話しかけている。


 同じ半人同士、もしかしたらミラノちゃんのような子が好みなのかもしれない。


「ミラノですよ」


「そうなんですか、お美しい名前ですね!」


「ありがとう」


「少年、うちのアイドルにあまり手を出さないでくれよ。自分たちの生きる希望。いや、価値。なんなら存在理由なのだ、彼女は」


 リーザーさんが真面目な調子で、やばいアイドルオタクみたいなことを言っている。


 トカゲみたいな人だけど、案外ひょうきんなのか? これも半人差別かな。


「そういやミラノちゃん、どうして俺がここにいるって分かったんだ?」


 いきなり現れて、いままでなんとなく流してきたけど。


 そもそも俺がこの町にいるなんて、どうやって知れたのだろうか。


 もしかしたらまたディアタナとかいう女神のせいだろうか? アイラルンと違って、あっちの女神はなにを考えているのかまったく分からないからな。そもそも会ったこともないし。


「いちど私たちの船はパリィによったんです」


「そこでな、たまたま聞いたんだよ。テルロン方面の指揮官にお前がいるってな」


「ほー」


「それでミラノが駄々をこねたんだよな」


「こねてないよ、ローマったら!」


「お前に会いたいからってわざわざ旗艦まで引き連れてな!」


「ちょっと、あんまり言うと怒るよ!」


「あっはっは。というわけさ、シンク。お前、どうだい? ミラノのこと」


「どうってなにが?」


 俺はワインを飲む。ふと見ればルークスのやつはもう潰れて寝ているようだった。デイズくんが困ったようにゆさぶっている。


 ローマのほうを向き直ると、彼女はダメだこりゃと両手をあげていた。


「パリィに寄ったってことは、アメリアの援軍はまだいるのか?」


「全部で10隻です。でもそのうちの6隻は沈んでしまいました……」


「あいつら、海の上でいきなり襲ってきたんだ! 卑怯なんだ!」


「いや、まあそりゃあ……戦争だろうしな」


 そもそもローマだって俺のこと不意打ちで殺そうをしたことがあっただろ。


「実際ほとんど戦争といえるような戦いにはなりませんでしたが。こちらの船が一方的にやられただけです。私たちは逃げるので精一杯で……」


「相手は何隻だったんだ?」


 2人の少女は言いにくそうに顔をそむけた。


 しかしリーザーさんが近くで話しを聞いていた。


「一隻ですよ」


「たった?」


「はい。ただあれを普通の船と一緒にしてはいけません。自分たちは大砲のような通常の兵器でやられたのではなく、なにかしらの魔法攻撃を受けたのです」


「魔法攻撃……」


 相手は魔族だからな。


「すごかったぞ、あれは陰属性の魔法なのか。いきなりでてきた黒い塊がこっちの船を飲み込んでいったんだ。あとにはなにも残らなくて――」


「自分たちの船は土手っ腹を貫かれましたが、それでも他の船が囮になってくれたおかげでなんとかこうして逃げ切れました。ただもう二度と会いたくない敵です」


「なるほどな。そういえば俺、前から思ってたんだけど。どうしてみんな魔法での攻撃をもっとばんばんしないんだ? 戦争って言ってもさ、肉弾戦ばっかりで」


「魔法攻撃、ですか? それはつまり大きな範囲での?」


「そうそう。そういうのなんて言うんだったかな? 戦術兵器的に魔法を使えばもっと簡単なんじゃないかなって」


「無理ですよ、シンクさん」


 ミラノちゃんがたしなめるように言ってくる。


「そうなの?」


 なんでか理由が分からない。


「もしそれができれば良いのですがね。ただ榎本さん、よく考えてみてください。榎本さんの周りに、戦場において敵部隊を壊滅せしめるほどの威力で魔法をはなてる人間がいますか?」


「えっ?」


 いるけど……。


「そういえばあんたのおっかない彼女、すごい魔法使えたな」と、ローマ。


「シャネルな」


 うん、シャネルはできるね。


「そうですね、シャネルさんは魔法がお得意でしたね」と、ミラノちゃん。


 えっ、もしかして……。


「ねえ、魔法ってじつは使える人少ない? あ、いや。だからその、大規模な魔法を使える人なんだけど……」


 いまさらなにを、という顔を3人にされた。


 どうやら俺はこれまでとんでもない勘違いをしていたらしい。


 そうか、俺の周りの人はみんな魔法をすごい規模で使えたから、俺は気づかなかっただけなのだ。


 言われてみれば、シャネルとか、直近だとココさんとか。すごい魔法を使えたけど、それと同じ規模の魔法を個人で使える人には数えるほどしか会ったことがない。


 俺はこの世の上澄みを平均だと思っていたのだろうか。


「なんにせよ、魔法で戦場を支配するというのは現実的ではありませんよ。とくに自分たちアメリアは半人国家です。半人は魔法を使える人間すら少ないので」


「そうなのか。じゃあグリース軍っていうのは恐ろしい敵なのか」


 あいつらはなんせ魔族だ。出来損ないは魔法なんて使えないが、きちんとした魔族は俺たち人間とは比べ物にならない魔法を使えるはずだ。


「そうですね」


「ふーん」


 やっぱりシャネルを連れてきたら良かったな。


「それより榎本さん、1ついいですか?」


「なに?」


「あそこの席に、よければ紹介してくれないでしょうか?」


 そういってリーゼーさんが指差したのは、エルグランドのいる席だった。めずらしいことにフェルメーラも一緒にいて2人で酒を飲んでいた。


「……あそこの席、すごい空気が悪いな」


 と、ローマ。


「なんだあいつら、あれで酒のんで面白いのか?」


 とにかく無言で、しかも互いに目を合わせない。ついでにいえばどっちもつまらなさそうな顔をしている。


「自分はあの2人がどのような人間かまだ知らないのです」


「そうだね、いちおうそういうをするための会食だもんな」


「はい、仲介役できませんでしょうか?」


「いいよ。ただ先に言っておくぞ。あっちのさもイケメンでございって顔してるやつは面倒くさい性格してるし、あっちの鷲鼻の方はただのアル中だから」


 リーザーさんは冗談だと思ったのか、チロチロと笑った。


 いや、本気なんだけどなあと俺は思ったけどまあなにも言わなかった。


「どうも、2人とも」


 俺は辛気臭い卓に割り込むようにして入る。


「……エノモト・シンクですか」


 開口一番、暗いエルグランド。


「シンクくん、こいつになんか言ってやってくれ。こんな調子だから周りに人も寄り付かない」


「そうだな、そうだな。おい、エルグランド。リーザーさんがあんたと話したいことがあるとよ。はい、ちゃんと親睦深めて。役目でしょ」


「……どうも」


「エルグランド氏。これからの進退はお決まりですか?」


「……海から逃げます。できるでしょうか?」


「無理ではありませんが、危険ですよ。またグリース軍に狙われれば今度はひとたまりもありません」


「とはいえ陸はさらに危険です。貴方がたは知らないでしょうが――」エルグランドは俺の方を見た。「陸には敵の謎の兵器があります」


「謎の兵器?」


 と、俺は聞いてみる。


「そうです。陸を走る船です。あれは恐ろしい兵器だ、こちらの攻撃が通らない。だというのに相手は移動式の大砲を撃ってくる」


「おいエルグランド、それってシンクくんが言う戦車ってやつか?」


「戦車?」


「なんかこう、キャタピラがキュルキュルいって動くやつだろ? なあ、シンクくん戦車って名前だったよな?」


「そうだね。エルグランド、あんたもあれに会ったのか?」


 もしかしたらこのドレンスに配備というか、送られている敵の戦車はけっこうな数があるのだろうか。だとしたら、エルグランドの言う通り陸路からの撤退は無理だろう。


「会敵しました。あれには勝てません、こちらの戦力は総崩れでしたよ」


「僕たちは何両か倒したけどね」と、フェルメーラ。


 エルグランドが目を丸くする。


「そ、そうなのですかエノモト・シンク」


「まあね」


「どうやって!」


「普通の魔族を倒すのと同じだよ。頭だけ潰した」


「将を射んと欲すれば先ず馬を射よってね。とはいえ僕たちも動かなくなった車両はどうにもできないで放置してきたんだけどね」


「それ、奪って動かすことはできなかったのですか?」


「あっ」


「あっ」


 俺とフェルメーラはそろって素っ頓狂な声を出した。


 たしかにエルグランドの言う通りだ。


「まあ、それはしょうがなかったということで……」


 俺は言い訳をして、机の上にあ蒸留酒を飲んだ。けっこうアルコール度数が強かった。


「はっはっは、これは素晴らし。みなさんはグリース軍に一矢報いているわけですね!」


 リーザーさんがとても好意的に解釈してくれる。


 一矢報いるか。


 まあ、敗戦でもそう言えれば上々だな。


 それから、俺たちは酒を飲んで飲んで、飲んで。


 けっきょくエルグランドは逃げることに決めたようだが、しかしそれは逃げるための逃げ。


 つまり攻めの逃げではないのだ。


 彼はまだ回復していない。


 ずっと鬱屈としたままなのだ。


ちょっとしたら、他の小説を書くためにまたしばらく更新をお休みする予定です

いつも読んでくださるかたには申し訳なく思います。

すいません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ