416 ポラン・クールの町
昨日、予告なく更新休みました
すいません
俺たちは道というほどには整備されていない場所を歩いていく。
「……だいぶ減ったな」
俺の後ろについてくる兵隊の数は目視で確認できるほど。10人程度だ。
「そりゃあ、それぞれの判断で任せて撤退なんて言ったらね。こうなるよ。たぶん部隊に復帰するのは半分以下。なんなら5分の1程度だろうね」
「じっさい、あそこではそうするしかなかったよ。フェルメーラ、あんたの選択は正しい」
「そういうシンクくんこそ。まさかあの状況から頭の方を潰すとはね」
「できると思ったらやった、それだけだよ」
「謙遜だよ、それは。シンクくんしかできなかった」
「……でも、何人も死んだ」
「戦争なんだ、仕方ないよ」
そうだな、と頷く。
俺たちは現在ポラン・クールという港町を目指していた。
特別部隊のみんなには向かう先を教えてはいたのだが、そこまでたどり着けるだろうか……少なくとも俺は1人だったらたどり着けない。
そもそもそこに行けばどうなるのか。それすら分からない。
地図もないのにその町の方へと迎えているのはひとえにデイズくんのおかげだ。野生の勘なのだろうか、デイズくんは方位を磁石もなしに明確に当てることができた。
「まあ、そもそも港町だから。海沿いに出てずっと歩き続ければつくんだけど」
と、フェルメーラは言うが。
「その知恵が我々冒険者にあるとでも?」
言っちゃ悪いが、冒険者というのはならず者で、しかもバカだ。もちろん俺も例外ではない。
昨日だってそこらへんにはえているキノコを食べれる食べれると言って食べて、ひどく腹を壊した。いや、マジで死ななくてよかったよ。
なんてバカなことを思っていると。
海沿いに出た。
そしてその先には――。
「おお、町があるぞ!」
俺は思わず子供みたいにはしゃいでしまう。
家が立ち並んでいる。海沿いに大きな桟橋が見えた。しかし船は1つも停まっていなさそうだが。
「はあ、ようやっとついたか。さすがにそろそろアルコールが飲めるだろうな」
「あそこがポラン・クールかな?」
「たぶんな!」
ううっ……やっとか。なんか感動。
戦車に襲われてから3日。
フェルメーラの話だともっと早くつく距離らしかったんだけど、まあいろいろあってこんなに遅れてしまった。
「なんか食べ物あるかな?」
「最近へんなもんしか食べてねえからな」
「そこらへんにいたモンスターとかね」
「だからまずは酒だよ!」
というわけで、ポラン・クールの町である。
ポラン・クールは港町。とはいえ城壁なんかがあるわけではなく、ぽつぽつと家が並んでいると思ったらそれがいきなり増えて店ができて、いつの間にか町になっているという感じの、まあなんとも曖昧な町だった。
広さはけっこうなものだ。たぶん何千人と人が住んでいる町なのだろう。
べつに町の入り口みたいな門もないのですんあり入ったのだけど……。
「なあ、これどこに行けばいいんだ?」
と、俺は副官であるフェルメーラに聞く。
「とりあえず酒場だとも!」
「えー」
けれど、他の冒険者たちはみんあその意見に賛成のようだ。嬉しそうに騒いでいる。
ここはいちおう俺が隊長としてがつんと言ってやらなければ。
「おい、みんな気が抜けてるぞ! くれぐれも泥酔だけはしないようにな!」
え?
そりゃあね、行きますよ。
こう疲れてたらアルコールでも飲まなくちゃやってられない。
それに、酒場というのは宿屋も一緒にやっていることが多い。しょうじきどこに行けば分からないので、とりあえず寝床を確保するのは良い案に思えた。
町は港の方に行く地面が舗装されて石畳になっていく。
それが町の中心の方なのだろう。
「あの店が良さそうじゃないかシンク隊長!」
「え、どれどれ?」
「ルークス、あれ女の子がいる店だよ!」
「良いじゃないかデイズ、硬いこと言うなよ」
「女の子がいる店か……」
行ったことないな。
べつに行きたいとも思わないけど。ダメですよ、浮気は。
「僕も反対だね、酒の席に女なんてものがいたら、飲むために飲んでるのか口説くために飲んでるのか分からなくなる。そういう飲み方は嫌いだよ」
そんなこと言いつつフェルメーラ、昔ココさんと飲むの喜んでなかったか?
いや、ココさんは男なんだけど。
「というかさ、みんな……俺、お金ないんだけど」
俺はちょっと恥ずかしく思いながら告白する。
いや、べつにもともと無一文だったわけじゃない。ちゃんと行軍の前はお金をもっていたんだ。けれど何度か『5銭の力+』を発動させたせいでお金ちゃんがなくなったのだ。
「俺もないぞ」と、他のやつが言う。
「俺も!」
「俺も!」
口々に言う冒険者たち。
けっきょく、俺たちはほとんど全員がお金を持っていなかった。
「どうなってんだよ!」
と、思わず叫んでしまう。
「まあ、行軍が終わって戦いに勝てば給料が出る予定だったからな。みんな文無しでもおかしくないか。よろしい、じゃあ僕が銀行でおろしてこよう」
「ぎ・ん・こ・う?」
え、この異世界にそんなものがあったの!?
「どうしたんだい、シンクくん」
「あ、いや。銀行があるってのに驚いて。え、なに。ATMとかあるの? キャッシュカードとかさ」
「……なんのことだい。まあなんでもいいや。あ、すいませんそこのご婦人。この町に銀行はありますか?」
フェルメーラはそこらへんを歩いていた女性にまったく臆すること無く質問する。
女性は顔をしかめてから「あっちよ」と銀行のあると思わしき方向を指差す。
「ありがとうございます」
どういたしまして、の言葉もなく女性は足早に去っていく。
「なんか感じ悪くなかった?」
「さあ、どうだろうね。とりあえず銀行の場所は分かったから良いよ」
ふむ、フェルメーラはやっぱり精神的に打たれ強いタイプなのだな。俺なんかは人から嫌われるとすごい落ち込んじゃうんだけど。
なんでもなさそうに歩いていくフェルメーラに俺たちはついていく。
「でもさ、どうやって銀行からお金をおろすの?」
「預金証明を見せれば良いんだけさ」
「証明?」
うーん、よく分からない。
ちょっと考えてみよう。
「つまり、これだけ預けたって証明が預金証明」
「そりゃあ分かるけど」
「それを他の店舗で見せれば、その分のお金を預けたって保証されてるから引き落としができるんだよ。僕が預けているのは王立銀行だからね、ドレンス国内ならどこででもお金がおろせるよ」
「あー、なんとなく分かったかも」
つまりそういうこと。あんまり難しい話ではない。
これを電子的にできるようになれば無人のATMとかになるんだろうね。なんでもいいけどATMってなんの略だ? 分からない。
少し歩くと、銀行と思わしき建物があった。
「あんまりぞろぞろ入ってもあれだから、みんなは外で待っててね」
「はいよ」
俺たちは銀行の前でたむろする。
なんだか町行く人たちがこっちを見ている気がするぞ……自意識過剰か?
俺たちはぺちゃくちゃとお喋りをしてフェルメーラを待つ。もう何日も一緒にいるのだ、行っちゃなんだが全員仲良しだ。
それもあって、話も盛り上がる。
「いやお前、それは無理だって」
「え、でも隊長は昔ドラゴンを倒したんっすよね?」
「あー、いやー、まあね」
なんて雑談に花を咲かせていると――。
「すいません、ちょっと」
いきなり警察に声をかけられる。
もう一度言おう、警察だ。
これに関してはこっちの異世界でもほとんど同じ。とはいえ服装は古めかしく、見ようによっては軍隊の制服にも見える。
一方俺たちは、いちおうは軍人けん冒険者なので服装は思い思いのものだ。
「なんですか?」
と、俺はいちおう代表として言う。
「ちょっと署まで来ていただけますか?」
周りを見る。
俺に声をかけている警察の他に3人。いや、少し離れた場所にもう4人いる。総勢8人。いちおう数はこっちの方が多いけど……。
まあここは大人しく従うべきだろう。
「あれ、どうしたんだい!?」
銀行から出てきたフェルメーラが驚いて目を丸くする。
「なんか補導されてる」
なんで命からがら町についてまでこんな……。




