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037 たった一人


 夜の森というのは恐ろしいものだ。


 それは一晩、独りで野宿をした人しか分からない。今にも木の裏からモンスターでも現れてきそうな恐怖。もしも異世界に来る前の俺ならば、剣を握ったまま震えていただろう。


 だが、今は違う。


 俺は戦える強さを持ったのだ。


 にらみつけるように闇を見る。


 そこから、一匹のモンスターが現れる。


 ヒクイドリだ。


 こいつらは昼行性のはずだが、群れからはぐれたのだろう。俺はなんの感情もなくそれを殺した。そして急いで燃える羽を引きちぎり、そこらへんで拾った木をくべる。こうすれば暖が取れる焚き火が出来上がる。


「腹……減ったな」


 俺はヒクイドリの羽を剣で丁寧にむしっていく。俺には『料理』のスキルはない。だから剣をこういうふうに使おうにも不器用で上手くできない。


 それでもある程度は奇麗に羽をとり、火にあてる。こうして焼いて、食べてみる。別に美味くもなんともない。それでも腹は満たされる。


 ちょっとだけ、苦い気もする。


 ぶっちゃけまずいのだが、腹に入れる。 


 月元は今頃なにか美味いものでも食べているのだろうか? 知らねえ。だが、憎らしい。


 眠る余裕もないほどに腹がたっている。それでも眠らなくてはならない。明日は俺にとっての本物の決戦だ。ヒクイドリ相手ではない、俺が本当に殺したい月元との。


 それは八つ当たりかもしれない。三人が死んだのはあの三人が弱かったからだ。現に俺はこうして生きている。


 だが、


「どう思う、アイラルン?」


「そうですねえ――朋輩」


 暖を取る俺の対面に、いつの間にかアイラルが座っている。


「俺はあいつが憎い」


「ええ、そうでしょうね」


「全部あいつがやればよかったんだ、あいつのせいで俺の仲間は死んだんだ!」


「その通りですとも!」


 アイラルンは俺の考えを後押しするように言ってくれる。


「あいつを、殺す」


「それはいい考えです」


「俺のパーティーは三人死んだ。だからあいつのパーティーも三人殺そう」


「素晴らしい! それでこそ朋輩ですわ!」


「これは八つ当たりか?」


「いいえ――」アイラルンは俺の全てを肯定するように笑った。アメリカの文学者フィッツジェラルドいわく、こういう笑顔には人生で4,5回くらいしかお目にかかれないものだ。「それは正当な復讐ですわ」


 正当な復讐、なんて素晴らしい言葉だろうか。


「つまり俺はあいつの全てを奪う権利を与えられたわけだな!」


「あるいはそうでしょうね」


「まかせろ」


 俺はそう言って、横になる。


 寝るつもりだ。


「朋輩、お休みなさい」


「敵はこないと俺の第六感は言っているが、どうだ?」


「朋輩、私には分かりません。しかし朋輩がそう言うならば。しかし不安であれば私が見張っていましょう。それでよろしくって?」


「ありがとう」


 俺の感謝の言葉を、アイラルンは照れた顔をして受けとった。


「任せて下さいまし!」


 もしかしたら俺は仲間運があるのかもしれない。


 俺は安心して眠ることができるというものだ。明日に備えてな。


 ………………。


 そして、朝。


 俺は山を登っている。


 隣には誰の姿もない。アイラルンは朝起きたときには居なくなっていた。


 森を抜けて岩山へ。どうやらこの山は7合目を越えたあたりから森林は段階的に消滅していくようだ。おそらく、頂上はただの岩肌になっているだろう。


 山というのは基本的には円錐形である。つまり頂上に行くほどに細くなっていく。


 俺が乗っているのは太陽の位置からしてこの山の南側。月元たちが登っているのは北側だろう。つまりは頂上に行くまでかち合うことはない。


 だが、その俺の前に立ち向かうモンスターがいた。


「おいおい、俺はいま機嫌が悪いぜ」


 腹がたっていた。


 とにかく誰でもいい、腹ごなしならぬ腕ごなしをしたかった。――もっとも、朝は何も食べていないので空腹だが。


「お前の肉は食えるか?」


 俺は巨大な、それこそ山のような巨体のモンスターに言う。


「うがーっ!」


 巨大なモンスターは1つ目だ。いわゆるところのサイクロプス。ゲームなんかで見たことがある。土人らしい服ともいえる布に、木の幹をそのまま使っているだけという原始的な棍棒をもっている。


 対して俺は身長170センチほど。持っている剣も普通のサイズだ。比べればその差は大人と子供――いな、モンスターと人間だ。


「おら、こいよサイクロプス!」


「うがっが!」


 棍棒が振り下ろされる。


 それを俺は紙一重で避ける。


「いくぞ、くそモンスター!」


 これは俺のストレス解消だ。だからオーバーキルだとしてもごめんな。


「隠者一閃――グローリィ・スラッシュ!」


 俺のビームのような斬撃は、サイクロプスを右肩から先を消滅させた。


 サイクロプスは何が起こったのかわからないのだろう、棍棒を振るうように、なくなった右肩から先をブンブンと降っている。


「死ねっ!」


 俺は跳んだ。 


 サイクロプスの脳天に剣を突き刺す。


 ズブズブと剣が沈み込んでいくる。……サイクロプスの目が白目をむき、そして立ち木が倒れるように、ドンッ、と巨体が倒れ伏した。


「悪いな、今の俺の敵じゃねえよ」


 俺はサイクロプスの死体に腰掛ける。


 少し調子に乗りすぎた。グローリィ・スラッシュまで使ったのは失敗だった。でも、そのおかげで冷静になれた。


 俺はサイクロプスの死体に腰掛け、アルコールを呑むようにポーションをあおる。


 苦い。


 しかし全てが回復していく感覚。


 殺してやるぞ、月元。


 俺はたった一人、山を登るのだった。


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