035 崩壊
それからも攻撃は断続的に続いた。
退けた、と思ってしばらくしたらまたヒクイドリが来るのだ。おちおち休むこともできなかった。
俺たちは全力で頑張った。他のパーティーがあてにならないから、ほとんど俺たち四人でヒクイドリと戦ったようなものだ。その頑張りもあって、昼までに新しい死者は出なかった。
だが、昼を少し過ぎた頃――騒動がおこった。
「おい、お前らちょっと待てよ!」
スピアーの声がする。
俺はその時、自分のテントで休んでいた。さすがの俺も連戦に疲れていた。だけどスピアーの声があまりに慌てていたもので、ヤバそうな雰囲気を感じ取り外にでた。
「もうひと踏ん張りだろ! 全員で力を合わせて頑張っていこうぜ!」
なにやら揉めているようだ……。
次のヒクイドリの襲撃もあるだろうに、元気なやつらだな。と思ったが、どうやら違うようだ。
「もううんざりだ! こっちは楽なクエストだって聞いて工作部隊を志願したんだぞ!」
「そうよ、それがこんなに敵と戦い詰めで。本当に死んじゃうわ!」
「だからって途中で投げ出してどうするんだよ! もう半日もすりゃあ勇者様たちが来るんだ!」
「それまでここにしがみついてろっていうのかよ! 勇者様が本当に強いなら、こんな場所守ってなくてもいいだろ! ヒクイドリなんか目じゃねえさ。だから俺たちが必死こいてこんなテントを守る必要なんてねえだろ!」
たしかにその通りかもしれないな。
けれど寝床があるというのは一晩を明かす上でかなり楽だ。
それに、俺たちがヒクイドリの数をへらすという事にも意味があるのだ。とにかくドラゴンと戦うまで討伐部隊の体力を減らさせない。そのための工作部隊なのだから。
「俺たちはもう降りるぜ。やりたきゃお前たちだけでやってろよ!」
「そうよそうよ!」
口々に言うと、他の冒険者たちは下山を始めた。
スピアーはそれを後ろから止めようとして「おいっ!」と手を伸ばしたが、まったく振り返らないやつらの姿をみて諦めたようだった。
「くそ……」
「みんな、逃げちゃったな」
俺は気落ちしているスピアーに話しかける。
「もう少しじゃねえか……。あと数時間くらい耐えれるさ」
「まあでも、やる気もないのに居てもらっても足手まといだろ」
「そりゃあそうだけどよ、兄さん。人数は多いに越したことはねえ」
「たしかに」
降りていったやつらの後ろ姿を数えて驚いた。どうやら俺たちのパーティーである4人以外、全員がクエストを放棄したらしい。
これは確かにスピアーが慌てるのも理解できた。
「なにかありましたか?」
騒ぎを聞きつけたのか、僧侶ものそのそとこちらに近づいてきた。
「ああ、他のやつらが逃げちまったんだよ」
「なんと! では、私たちだけであとはヒクイドリを?」
「そういう事になるな」
テントの半分は壊され、食料も少なからずヒクイドリに強奪されている。この状況で、さらにこの拠点を守る人数が減る。
俺たち工作部隊――いや、4人なのだ。もうこれは部隊だなんて言えないだろう。工作パーティーはこのクエストをなかば失敗しているようなものだった。
「これは大変なことになりましたな」
「本当によ。そういや爺さんは?」
「なにぶん御老体ですから。テントで眠っておられます。しかしもう魔力もかなり少ないそうで……」
「そうか。あんたの方は?」
「私もかなり危なくなっております」
「ま、あんたの場合は肉弾戦もいけるんだろ。いざとなったら前衛3人で爺さんを守るしかねえな」
俺たちはそろって深刻な顔をした。
ヒクイドリは必ず来る。俺の勘がそうだと告げているのだ。それも大量に。あっちだってかなり数が減っているだろうから、夜になるまでに決めに来るはずだ。
俺たちとヒクイドリ……どちらが勝つのか。こんなところで死にたくはない。復讐を果たすまでは……。
そらからしばらくして、ヒクイドリの大群は太陽が西に傾きはじめた時間にやってきた。
それは山の斜面を埋めつくすほどの量だった。
「こりゃあ、すげえな……」
スピアーが緊張した面持ちで言う。
「昼行性のヒクイドリは夜になれば活動をやめる。ここが正念場じゃぞ!」
「それにしても……勇者様は遅いですね」
それは俺も気になっていた。
もうそろそろ勇者もここに登ってきて良い時間のはずだ。
もっとも、ここで一晩をあかすというのはもう難しいかもしれないが。度重なる戦いで平地だったこの場所にはヒクイドリの死骸が大量にある。テントはもう数個しかない。数十人で登ってくる討伐部隊全員が満足に休むことはできないだろう。
それならば俺たちも逃げればいいのに、なんでかここに残っちまっている。こんな場所に拘泥する必要なんてないというのに。
でもそういうのってたぶん、男のプライドとかがそうさせるんだろうな。
「よし、じゃあやりますか!」
スピアーが槍を構える。
ふう、と俺も息を整えた。
「剣のサビにしてやるぜ」と、どこかで聞いたようなセリフを言ってみる。
「では皆さん、これが私の使える最後の魔術です――」
僧侶がそういい、呪文を。
体に力がみなぎってきた。
「さすがじゃな」
「そして私も――」僧侶は拳を固めた。「前線に出ましょう!」
最後だ、これが最後なのだ。
俺たちは駆け出した。
ヒクイドリもまた山を駆け下りながら火を吐いてくる。
「うおおぅっ!」
俺は叫びながら一閃。やってやるさ!
ここから一章の最後にむけて、少しだけ展開が暗くなります
苦手なかたにはすいません




