298 クエストの説明
さて、俺のランクがうんぬんという話も終わり。本題だ。
「えっと、では。みなさんのギルドカードにも通知が行ったと思うのですが、グリースで魔王が復活しました。これはまだ一部の人、政府関係者や選べれた冒険者たちなどしか知らないことです」
集められた冒険者の数は、だいたい20人ほどだった。
ここにいるのがドレンスの冒険者ギルドの総力なのだろうか? それとも取り急ぎ集まった人数なのだろうか。それは俺には分からない。
「みさなんには、その魔王を討伐していただきたいのです。このクエストはギルドからのものとなりまして、もし断られる方がいるならばいまのうちに申し出てください」
誰も、なにも言わない。
受け付けのお姉さんは深呼吸を一つして言葉を続けた。
「では。このクエストの内容を説明します。とうぜん、これは危険なクエストとなりますので、その分は覚悟してください」
「早くしろや!」
イライラしたのだろうか、シグーが叫ぶ。
やれやれ、せっかちな男は女の子にもてないぞ。それに昔から言うだろ? 戦場では焦ったやつから死ぬって。シグーみたいなのは真っ先に死ぬタイプだな。
「では、説明します。冒険者のかたがたには、海を渡ってグリースへ行き、どのような方法をつかっても良いです。魔王を殺してください」
ん?
つまり、どういうこと? そういうこと?
俺は隣のシャネルに小声で聞く。
「暗殺しろってことか?」
「少なくとも私にはそう聞こえたわよ」
やっぱりシャネルもそう思ったのか……。
おいおい、魔王の暗殺ってなんだそれ。冒険者の仕事かよ。
「質問が一つ」
イマニモが手をあげる。
「なんでしょうか、熊殺し様」
受け付けのお姉さんは慇懃に言う。もしかして二つ名で呼ばなくちゃダメなのか?
「どのような手をつかっても、と言われたが。それはつまり犯罪行為に手を染めても、ということかな?」
「その通りです」
受け付けのお姉さんは毅然とした態度で頷いた。
「その場合、犯罪行為の責任は誰がとるのですかな? 魔王を倒したは良いが、殺人やその他もろもろの罪で死刑などとなれば、こちらとしても浮かばれませんぞ」
「こちらのクエストをお受けいただいた冒険者の方々は、超法規的措置として一切の罪が免罪されます。しかしグリース国内で囚われた場合はその限りではありません。つまり、魔王を殺害してグリース国内から安全に退避する。そこまで含めてのクエストだと思っていただければ良いです」
「私も質問がある」
後ろの方にいた老人が手を挙げる。
「はい、獅子王様」
「このクエスト、まさかドレンスからだけ冒険者が出ているわけではあるまいな?」
「もちろんです。各国から腕利きの冒険者たちがそれぞれ同じような条件で魔王討伐に向かっております。その中にはもちろん勇者もいます」
老人はその答えで満足したのか、それ以上なにも聞かなかった。
「なあなあ、シャネル」
「なあに」
「勇者ってなにさ?」
気になったので聞いてみた。
だってそうだろ? 勇者ってそんなに何人もいるの? 少なくとも月元が勇者だと名乗っていたのは知ってるけど。
「さあ、知らない」
「おい、金山」
俺は今度、金山に聞いてみる。
こいつのことは嫌いだが、こういうことを教えてもらうには便利だ。
「勇者って、勇者のスキルを持ってたら勇者だよ」
「え、そうなの?」
なんだよそれ。
そういうくくりだったのか。
俺はちょっと気になって、冒険者ギルドに集まったやつらのスキルを覗くことにした。
さすがはA級冒険者というべきか、それぞれがある程度のスキルを持っていた。しかし勇者のスキルを持っている人間は1人もいなかった。
また、相変わらず金山のスキルは見えない。
不思議だな。
「報酬はどれだけだ!」
これはシグー。
まあ確かに報酬は気になるよね。
「名誉を」
受け付けのお姉さんはそれだけ言った。
「え、お金は?」と、俺は思わず聞いてしまう。
「こちらのクエストの成功報酬はただ一つ。名誉のみとなっております。報酬金はいっさいありませんので、あしからず」
「えー」
それはなんだかね、一気にやる気のなくなる話だ。
しかし他の冒険者たちは問題なさそうだ。
もしかしたらA級冒険者ともなればお金のことなんてぜんぜん考えなくてすむのかな?
うーん、わからないけど。
「さて、他の質問はありますか? 詳しい説明はギルドカードを見てください。一週間後、港から船が出ますので乗り遅れないようにお願いします」
ペコリ、と受け付けのお姉さんは頭を下げた。
なんだか適当な説明だった。
もっとこう、あるんじゃない?
いまの説明で分かったことなんて、グリースって国に行って、好き勝手してきていいから魔王を殺せってそれだけだよ?
ま、冒険者なんて適当なやつらの集まりか。これくらいの説明で良いのかもな。
かくいう俺も適当な男だし。
「ちなみにギルドから軍資金が出ます。明日以降、ギルドカードとともにこちらに取りに来ていただければ金一封をお渡しします。またポーションの支給もありますので」
おいおい、なんかマジで話が終わった感じになったよ。
えー? これわざわざ他の人たち締め出す必要あったの?
「さ、帰りましょうかシンク」
「お、おう」
うーん、これで良かったのか。
「とりあえず榎本。お互い来週の船出までは別行動ってことで良いかな?」
「良いんじゃねえの?」
というかなんだ?
俺、こいつと一緒に魔王討伐に行く感じになってるのか? いや、まあもともと金山に連れられてここに来たんだものな。
でも俺、いちおうはS級冒険者らしいし、こいつと一緒じゃなくても良いんじゃね?
なんて、思っていると肩を叩かれた。
「うん?」
誰だろうか。
振り返るとそこには老人が立っていた。
先程、獅子王と呼ばれた老人だ。
ニヤリ、と笑う。不気味だ。
「手合せ願おう」
いきなり言われた。
「はい?」
わけが分からないと一瞬呆けた瞬間、俺の視界を閃光が支配した。




