表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/783

293 馬車にさす光


 洞窟から出た時、空はもう真っ暗だった。


 とはいえなんだかんだで一日のうちに探索をおえられたわけだ。


「いやあ、俺たち頑張ったな」


「そうだね」


 金山が答える。


 お前には言ってねえよ、と文句を言いたい気分だ。


 そもそも中で大変だったのは半分くらい金山のせいでは? 俺とシャネルの2人だったらもう少し楽に最後の部屋まで行けたのではないだろうか。


「というかさ、あそこになんの宝物もなかったってどう証明するんだよ。依頼主から疑われそうじゃないか? 俺たちが宝物をネコババしたって」


「そこは大丈夫だよ。嘘をつけなくする魔法、ってのがあるのさ。ギルドでそれにかけられて、いろいろ質問されるの。榎本はいままでそういうのやられたことない?」


「こういう探索系のクエストは初めてだからな」


 嘘をつけなくなる魔法か、良い魔法だな。


 そういえば昔、警察の人がそんな感じのマジックアイテムを持ってたな。


「村に行ったらさ、酒場とかあるかな?」


「知らねえよ」


 あったとしてもこいつと飲むのなんてごめんだけど。


 俺たちは森の中を歩く。その村とやらがどこにあるのか知らないので金山についていく。


 疲れた、いまはアルコールなんかよりもとにかく眠りたかった。


 村は洞窟から30分ほど歩いた場所にあった。村といってもそんなに大層なものではない。家が密集しているだけの集落だ。たぶん酒場とかはないな。


 到着したとき俺はもうへとへとで、いっそのことその場で寝てしまいたいくらいだった。


 俺たちをここに連れてきてくれた馬車が、村の入り口に置いてあった。


「えーっと、泊めてくれるはずの宿は――」


 金山がそう言ったとき、俺は見た。


 東の空がうっすらと明るくなるのを。


「あら?」


 と、シャネルも気づいたようだ。


「どうやら俺は勘違いしていたようだ。いまはもう夜じゃないらしい。――朝焼けだ」


 開けていく空に、数羽の鳥が飛び立った。


 それをかわきりにするように、一軒の家の中から老人が出てきた。


「あれま、あんたら冒険者さんたちかい?」


 老人の朝は早い。


「そうです」と、金山が答える。


「あそこの洞窟に入ったって言うからてっきり死んだのかと思ったら、そうかい途中で帰ってきたのかい。それが良い、命は大切にするもんさ」


 ずいぶんとあけすけにものを言う爺さんだ。いや、婆さんか? ときどきいるよな、男女の区別がつかない老人って。


「いや、ちゃんと最後まで行ったんですよ。本当ですよ?」


 金山の言葉に老人はニコニコと笑った。


「そうかいそうかい。あんたら腹減ってないかい? なんか食べていきなされ」


 優しい老人。


 俺たちは老人の家にお呼ばれした。


 出された食事はおかゆみたいなもので、味つけも素朴なら香料もあまり入っていないようだった。けれどお腹がすいていた俺は美味しくぺろりといただいた。


 そこで食事をとっていると、馬車の御者がやってきた。


「終わったんですか?」


「はい」と、金山。


「すぐに帰りますか?」


 金山がこちらを見る。


「良いんじゃないか。べつにこの村にいてもやることないだろ」


 べつにバカにしているわけじゃない。ただ本当にやることのなさそうな村だったからそう言ったのだ。


「じゃあ、帰ります」


 俺はお粥をかきこむ。


 そして立ち上がる。


「ありがとうございます、美味しかったです」


 老人に感謝の言葉を。


 それにしてもこの老人はここで1人暮らしをしているのだろうか。他に人はいないようだ。


「また来てくだされ」


 来るだろうか? たぶん来ないだろうな。


 でも適当に「また来ます」と伝えておいた。


 俺たちは馬車に乗り込む。


 すると馬車の窓から光が差し込んでいた。


 俺が席に座ると、そこは明かりがちょうど当たる場所だった。シャネルの肌のことを考えれば、俺がここに座ったので正解だろう。直射日光はお肌の大敵である。


 けれど俺にとっては、その日光も優しげな布団だ。


 馬車が動き出す。


 振動のおかげで眠気が加速する。


「ここまでの経験が、宝物か」


 俺は呟く。


「どうしたの?」


 独り言だったがシャネルが反応した。


「いや、いま思い出しても腹が立つなって」


「そうね」


「まあ良いんだけど」


 そういえば金山の手は大丈夫なのだろうか。折れたみたいなことを言っていたけど。


 そう思って見れば金山はもう寝ていた。


 あいつも疲れていたのだろう。


 金山はティアさんの肩に頭を乗せている。


 幸せそうな寝顔だ。その顔にも陽がさしていた。


 ちょっとだけ腹がたった


 けれど、なんだかそれを見ていると、俺も眠っても良いかなという気持ちになってきた。


 目を閉じる。


「寝るの?」


 と、シャネルの声が変に遠くから聞こえた。


「ああ」


「おやすみなさい」


 暖かい光が俺たちにさしている。


 異世界から来た俺たち。


 異世界に来た俺たち。


 その俺たち2人には平等に日光がさしている。


 これまでの経験が宝物、か。


 なるほど確かにそうかもしれない。


 俺はこの異世界に来ていろいろなことを経験してきた。それは引きこもっていれば絶対に経験のできなかったことだ。


 だとしても――ありゃあないよ神様。


 俺は眠りの中に落ちていく。


 誰かが頬をなでた。


 たぶんシャネルだった。



申し訳ないのですが、来月の頭まで更新を停止します

次回更新は10月1日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ