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026 習得、必殺、グローリィ・スラッシュ!


「覇者一閃――グローリィ・スラッシュ!」


 俺の叫びは虚しく庭に響く。


「全然ダメね」


「……ですね」


 シャネルとフミナがそれを見ながらダメだしをする。二人とも優雅にお茶なんぞ飲んで、パラソルのついた椅子に座っている。なんだかお嬢さんって感じで可愛い。


 で、俺はというと剣を振っているのだが――。


「おっかしいなあ。できると思ったんだけどな」


「できると思っただけでできるなら……人間苦労しませんよ」


 フミナの言うことももっともである。


 でも一応『武芸百般EX』のスキルがあるから、見よう見まねで月元の必殺技を俺も撃てると思ったんだが。


 実際、こうしてやっているとなんとなーく、できそうな気はするのだ。でもこう……くしゃみが出かかってでも出ない、みたいなもどかしい感じで。なにかあと一歩たりない。そういう感覚なのだ。


「そもそもシンクさん、どうしてそんな技の練習してるんですか?」


 まさか月元に復讐するためとは言えない。


「いや、今度のドラゴン討伐。俺たちも出ようと思ってさ」


「ああ、そうなんですか」


 というか、本当に月元のやつ動こうとしないよな。もう一月くらい放置しているんじゃないだろうか。さすがに最近はお祭り騒ぎも落ち着いて……というか財源の確保が難しくなったらしく、町はいつも通りの日常を取り戻している。


 それを見て、フミナいわくそろそろ月元も飽きてドラゴン討伐に出かけるだろう、とのことだ。


 ちょうど俺の怪我も完治した。いいタイミングだった。


 とはいえ、相手がドラゴン退治で疲れたところを狙うという以外、なにも勝算となるようなものが無いのは事実だ。そこで俺は考えた。こちらも必殺技を手に入れれば良いのだ。


 うんうん、ベッドで寝て考えただけあってかなりの名案だと自分でも思う。人間、働き詰めで頭を動かしてもいい案なんて浮かばないよな。ゆっくりと落ち着いて考える、これ大事。


 だが結果は微妙。


 そもそも『グローリィ・スラッシュ』が出ないのだ。


「いったい何が悪いのか?」


 分からない。


「そもそもさ、シンクのそれ。何属性の魔法なの?」


「え?」


「というか、勇者様のあれって魔法なんですか?」


「だと思わうよ。剣を杖代わりにしてつかう、魔法剣士とかがよく使う魔法剣術ってやつでしょ。私のお兄ちゃんがよく使ってたわ」


「魔法剣術ねえ」


 やっぱり勇者ってのは剣も魔法も使えるんだな。


 うーん、それって俺が真似できることなのか?


 あ、でも剣術だから大丈夫なのか。


「それで、シンクさんって何属性の魔法が使えるんですか?」


「え? 知らんよ。そもそも魔法ってなんだよ」


 なんかこの世界に来てからみんな普通に魔法とかぶっ放してるけど、よく知らないからね俺。


「まあ、シンクはジャポネの出身だからね。フミナちゃん、魔法石ってあるかしら?」


「たぶん余ってたと思ってましたけど、見てきます」


 フミナはてこてこと歩いていく。


「魔法石ってなんだ?」


 俺はパラソルのもとに行く。


 うむ、天気は快晴だ。剣を振り回していて汗をかいてしまった。影にいくと涼しくていいね。ずっと座っていたシャネルはまったく暑さなんて感じさなそうにお茶を飲んでいる。


「シンクも飲む?」


「ありがとう」


 シャネルが飲んでいたお茶をもらう。この世界のお茶っていうのは紅茶のことだ。苦くてあんまり好きじゃないけど、まあ喉が乾いているから美味しく感じる。……なんでも良いけどこれ、間接キスってやつだろうか。ティーカップのシャネルが口をつけていた部分、ちょっと狙っちゃった。


「魔法石っていうのはね、まあその名の通りよ。魔力のつまった石ね。これを加工して魔道具なんてのも作れるわよ」


「シャネルが持ってたジャネレーターみたいなもんか?」


「そうよ。ああいう魔道具は専門の技術がいるから、かなり高価なものなの。でも何も加工されていない純粋な魔法石はただの石ころ」


「そのただの石で何をするんだ?」


「魔法石にはその石におうじて、陰陽五行の属性があるのよ」


 分からない。


「陰陽五行って?」


「魔法の属性よ」こんなことも説明しなくちゃいけないの、とシャネルは俺をからかうように微笑んだ。「木火土金水の五行属性、それに陰と陽の2つを加えた合計7属性が陰陽五行。私は火と水の適正があるわ」


「話がだんだん見えてきたぞ。つまりその石を使えば俺の適正属性が分かるわけだな」


「察しがいいわね。素敵よ」


「アイラルンにも言われたことあるよ、それ」


 冗談だと思ったのか、シャネルはカラカラと笑った。


「魔法石はただの石ころだけど、買おうと思えばそれなりに高価なものよ。だから小さな村じゃあ教会や村長の家にしかないものだけど、さすがは貴族様。家にあったみたいね」


 フミナが戻ってきた。その手には色とりどりの小さな石ころが7個のっている。


「どうぞ」


 フミナはそれをテーブルに置いた。


「ここに魔力を通せば、シンクの適正属性と同じ石だけが光るから」


「と、簡単に言われましても。そもそもどうやったら魔力を通すことができるんだよ」


「それは簡単よ。こう、えーいって力を入れれば良いのよ」


「感覚で説明しないでくれるか」


「でもそういうものよ。ねえ、フミナちゃん」


「私の場合はもっとこう、力を抜く感じでやってるんですが。ふわっと。こう、ふわ~っと」


 というわけで、力を入れつつふわっとすれば石に魔力が通うことが分かった。


 とりあえずやってみる。


 ………………無理。


「全然できないんだけど」


「才能ないんじゃない?」


「まあ、誰でも最初はそんなものですよ」


 次はどちらかというとふわっとに重点をおいてみる。


でも、ふわっと力を入れるってなんだ?


「……ふわっとですよ」


「い、いまやってる」


「うりゃあ! ってやったほうが良いわよ」


「あんまりいろいろ言わないでくれ」


 ふわっと、ふわっと……。


 石に手をかざし、力を入れているんだか入れていないんだかよく分からない状態を維持する。


 そしたら一つの石が光りだした。


 なんだか脳みそから電波が送られているような感覚がある。


「おおっ、できたぞ!」


 これが魔法か。なんか感動。


「で、これって何属性だ?」


「陰、ね」


「黒い石ですから、そうですね」


「陰属性か……」


 ま、さもありなん。


 そもそも俺、あんまり友達とかいない陰キャだったし。これでいきなり『あなたは陽属性です!』なんて言われたら信じられなかっただろう。


 うーん、そう考えれば俺が陰属性なのは当然だな。


「私と同じ属性ですね」と、フミナが嬉しそうに言う。


 うん、やっぱり陰気な人間が陰属性のようだ。


「じゃあ俺もスケルトン使えるのか?」


「たぶん、練習すれば」


「ふーん」


 別に骨を使って何かしたいわけじゃないけど。それにしても魔力ねえ。何ができることやら、これで。月元が使っていた技はどう見ても陽属性だしな。なんかキラキラしてたし、つうかあいつ陽キャだし。


 だとしたら俺にはあの技は使えないんだろうか?


「なあ、シャネル。『グローリィ・スラッシュ』ってあのビームみたいなの、やっぱり俺には無理なのかな?」


「そんなこと私に聞かないでよ。でも私が一つ言えるのは、シンクができないと思えばできることだってできくなるって事だけ。逆にできるって思って練習すればできなかった事でもできるようになるかもね」


「うーん、じゃあもう少しやってみようかな」


 俺は剣を振る。


 ――グローリィ・スラッシュ!


 叫んでいるとだんだん楽しくなってくる。簡単なストレス解消だ。


「ねえ、そろそろお昼にしない?」


「そうですね」


 二人がそんなことを言って去っていく。それでも俺は剣を振り続けた。悪くない気分だ。けれど使えるものだろうか……本当に俺に、あんな技が。


 ちなみに俺が降っている剣はフミナに借りたものだ。前に使っていた剣は瓦礫の下敷きになったときにどこかへいってしまった。


 なくなった剣のことを思っていてもどうしようもないのでフミナに相談したら、これを貸してくれたというわけだ。剣にはフミナの家の紋章が入っており、なんだか高級そうだ。


 俺が剣を振っているとパトリシアが遊んでほしそうに走ってきた。


「おい、邪魔だぞ。クソ犬」


「バウッ! バウッ!」


「そういやお前もスケルトンだな」


 よし、とちょっといたずらしてみる。こっちにこい、とパトリシアに手招き。バカ犬は嬉しそうに尻尾を振りながら近づいてくる。


「よーし、お前に魔力をやろう」


 パトリシアに手をかざす。


 先程の魔石と同じ要領で魔力を送り込む。


「バウッ?」


 パトリシアは首を傾げた。


 失敗か? そもそも魔力を送ってもなにもならないのか?


 だが、違った。


 パトリシアは「バウウッ!」と、楽しそうに俺にじゃれついてくる。その突進のスピードがいつもと桁違いになっている。まるで弾丸だ。


「ぐふっ!」


 パトリシアが俺の腹にめり込んだ。


 俺はそのまま吹き飛ばされ、天地がひっくりかえり。たぶん5回転はした。


「い、いてて」


 パトリシアは楽しそうにジャンプしたら俺の周りを走ったり。その勢いは半端ない。まるで竜巻でも起こすかのようだ。


「ちょ、ちょっと待て。やりすぎた。止まれ、止まれって!」


 また突進される。


 くそ、こっちは病み上がりだぞ。


 今度はなんとか避けて体勢を立て直す。


 だがパトリシアはまたこっちに向かってくる。


 かくなる上は――。


「くそ、バカ犬が!」


 俺は剣を居合のように腰だめに構える。あの日、月元が俺にやってみせたあの技、『グローリィ・スラッシュ』の構えだ。


「バウウッー」


 俺に向かってくるパトリシアに向かって横薙ぎに剣を振り切る。


 だがその刹那、どこかからアイラルンの声が聞こえた。



 ――朋輩、呪文が悪いんですよ。



 呪文? と、俺は思う。


 そんなこと言ってる場合じゃねえ、このままだとパトリシアに殺される。それくらいのやばさなのだ、今のバカ犬は。


 だが、パトリシアは空中で停止している。


 そして俺もだ。いつもとは違い動けない。そのかわり意識だけはある。



 ――良いですか、『覇者一閃(はじゃいっせん)』ではなく『隠者一閃(いんじゃいっせん)』です。



 それはアイラルンからのアドバイス。


 体が動き始める。


 俺はアドバイスに従い呪文を叫ぶ。


「隠者一閃――『グローリィ・スラッシュ』!」


 その瞬間、俺の振った剣先から黒いビームが出た!


 だがそれは思っていたよりも小さい。太さでいうところバスケットボールくらいだ。月元の放った極太ビームとは比べ物にもならない。


 しかも空気に触れた瞬間にかき消えていく。遠くまでは届かなかった。


 それでもパトリシアには直撃した。


 パトリシアは「キャウッ!」と悲しげな声を出して吹き飛ぶ。


 ……なんとかなった。


「ちょっと、今の音なに?」


 シャネルが音を聞きつけたのだろう。慌てて屋敷から出てきた。


「おう、できたんだよシャネル!」


「ああ、そう」


 シャネルはどこか興味なさげ。


 ちぇ、褒めてもらえると思ったのに。


 あ、そういえばパトリシアはどうなった? さすがにやりすぎたかもしれない。


 そう思いそこらに倒れているパトリシアに駆け寄ると、倒れたままで嬉しそうに尻尾を振っていた。どうやら大丈夫らしい。


「そろそろお昼の準備ができるわよ」


「おう」


「その前にお風呂に入ってきたら? 汗のにおい、するわ」


「臭いか?」と、俺は聞いた。


 シャネルは少し悩んでから、「別に嫌いなにおいじゃないわ」と頷いた。



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