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200 警察の捜査、疑われる2人


 シノアリスちゃんが消えたあと、俺たちは買い物袋を抱えたままで野次馬をすることにした。


「ありゃりゃ、すごい爆発ね」


「この前使った爆弾と同じくらいの威力か?」


「たぶんね」


 というかこれ、まさかそっくしそのまま同じものではないだろうか?


 うへえ、と俺は顔をしかめる。


 馬車をひいていた馬がバラバラになっている。


 田舎であれば、ときどき道で車に轢かれた小動物を見ることがある。そんなのはかわいらしいく思えるくらい爆散した馬は無残だ。


 そこたらじゅうに肉片が飛び散っている。


 俺たちが行こうとした雑貨屋も酷いもんだ、壁が馬の血で汚れている。


 それよりも――。


「馬車の中の人、この様子じゃあ即死ね」


「ああ」


 これで生きていればよっぽどの幸運だろうが、どうやら車内の人間は神に見放されたらしい。


 かわいそうに。


 どうやら聖職者の乗っていた馬車らしいが。


「十中八九、アイラルン派の手合ね」


「その派閥みたいな言い方、どうなの? なんたら教徒みたいな名前とかついてないのかよ」


「異教徒」


「そりゃもう安直で」


「名前はつけていないのよ、本人たちがてきとうに名乗る場合もあるけどね。でもディアタナはアイラルンを信仰する人間に名前を名乗らせることは許さなかった。だからみんなただ異教徒と呼ぶのよ」


「ふうん」


 名前に魂やらが宿るってのは、言霊っていって日本でもあった民俗文化だけど。まあそういうもんか。


「にしても異教徒の人たちはこんなことをしてどうするつもりなのかしら?」


「さあ、聖職者を殺して回ってなにか目的があるんだろうけど」


 しばらくそんなことを言っていると警察がわらわらとやってきた。


 捜査をするらしい。離れてくれと野次馬たちを追い払う。


「これか、もしかして」


「なにが」


「シノアリスちゃんが逃げた理由。あの子、アイラルンを信仰する異教徒だろ」


「つまり、このテロのことも知っていた?」


「と、俺は見るがな」


 逃げ足の早い子だ。


 でも嫌いにはなれない。なにせ俺たちを危険から遠ざけようとしてくれたんだから。


「あの子、今度会ったらちゃんと問い詰めないとね」


「会うかねえ」


「会うと思うわよ」


 俺もなんとなくそんな気がした。


「失礼、目撃者のかたですか?」


 警察がこちらに来た。


「いえ、違います」


 とっさに嘘をつく。


 でもそれが裏目に出た。


 俺たちの周りに警察が集まってくる。


「どうして嘘を?」と、聞かれる。


「嘘なんてついてないですよ」


「ちょっと、シンク」


 脇をつつかれる。


「だってこいつら――」


 警察がなにやら箱のようなものをポケットから取り出す。


「――俺、嘘なんてついてないのに」


 その瞬間、その箱が揺れた。


 え、なにそれ?


 もしかして……。


「あれ、マジックアイテムよ。人の嘘が分かる」


「おいおいおい」


 死ぬわ俺。


 先に言ってよね、そういうの。適当な嘘で大ピンチじゃないか!


「ちょっと所の方でお話を――」


「いや、結構です。本当に、そういうのいいんで――」


 まずいぞ、これこの前もあった。


 言えば言うほどドツボにはまるパターンだ。


 警察はまるで俺たちを犯人だと決めつけているかのような様子だ。


 俺たちを囲んで、逃さないぞという構え。


「お、おいシャネル。どうする」


 ついていくか、どうするかという意味だ。


 ツーカーでそれは伝わる。


「決まってるでしょ」


 シャネルが杖を取り出す。


 俺も頷いた。


「逃げるぞ!」


「当然よ!」


 シャネルが目くらましの爆発を起こす。


 その瞬間、俺たちは駆け出した。


「あっ、逃げたぞ!」


「追え、追えっ!」


 背後から聞こえる声を無視して走る。


「もうっ、なんで嘘なんてついたのよ!」


「つい出来心で!」


 まさかあんなマジックアイテムがあるだなんて知らなかったんだよ。


 追ってくる警察。


 シャネルはときおり魔法をぶっ放す。


 街を少々破壊しながらも、なんとか逃げ切った。


 アパートの前まで戻り、2人して息を上がらせる。


「ひどい目にあった。運がないぜまったく」


「あら、私は幸運なのよ。どこかの誰かさんが私の運を吸い込んでるんじゃないかしら?」


「おいおい、俺のせいか?」


 アパートの階段を登り、部屋に。


 あれ、鍵が開いているぞ? たしかちゃんと閉めたよな。


 部屋に入ると――


「あ、お2人とも。おかえりなさいです」


 ……シノアリスちゃんがいた。


 俺は思わずずっこける。


「キミな、先に逃げたろ。おかげでひどい目にあったんだぞ」


「だって警察なんかに見つかったら私、困るんですよ」


 うるうると目を濡らしているが、まあ嘘泣きだろうな。


「貴女さっさと帰らないの? ここは私とシンクの愛の巣なのだけど」


「そうは言っても。あ、そうだ。お2人を今度は私の家に招待しますよ。どうぞどうぞ」


「けっこうよ」


 シャネルはベッドに腰を下ろしているシノアリスちゃんを引きずり下ろす。


 そして、代わりに自分が座った。


「それで、貴女たちの目的ってなんなの?」


「それ、俺も気になってた」


「目的、ですか? そんなの決まっていますよ。この世界の全ての人が幸せになれれば良いのにってそう思っています」


「因業の信者が何を言っているのかしら」


「なあ、なんでも良いけど因業ってどんな意味だよ」


 たしか因と業。


 人間の行為とそれにともなう結果みたいな意味だって、一度アイラルンに聞いた。


 でもどうやらそれ以外にも理由がありそうで――。


「因業はですね、うふふ。お2人のような人のことですよ」


「貴女みたいな娘のことでしょ」


 シャネルはシノアリスちゃんを睨むが、シノアリスちゃんは素知らぬ顔だ。


「アイラルン様は自らが全ての因業を背負い、私たち信者を幸せにしてくれるんです」


「まさか、そんな優しい神様なわけないでしょう」


「でもそうなんですよ」


 いや……俺もシャネルの意見に賛成だけど。


 あきらかにアイラルンは俺たちを幸せになんてしてくれないだろ。


 もっとなんかこう……適当なやつだぞ。あいつは。


「さて、お2人の無事も確認しましたし私はそろそろ帰ります」


「次また来るつもりなら、貴女たちの目的くらいは教えなさいよ。どうして聖職者を狙うのか」


「そんなの考えなくても分かるはずですよ、コンクラーベを無茶苦茶にする。それだけですよ」


 コンクラーベ?


 っていうとあれだよな、次の教皇をきめる選挙。


 あれを無茶苦茶にするのがアイラルンを信仰する邪教徒の目的?


「そんなことしても無駄よ」


「無駄かどうかはやってみなくては分かりませんよ」


 うふふ、と笑いシノアリスちゃんは出ていく。


 その姿は、やはりどこかアイラルンに似ているようだった。


200話です

読んでくれているかた、本当にありがとうございます

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