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192 職務質問をうける、のまき


 へスタリアの首都に入って2日目。俺たちはさっそくロマリアの観光をすることにした。


「とりあえず行きたいところをピックアップしてみたわ」


 シャネルは今日、珍しいことに白い服を着ていた。


 いわゆる白ロリというやつだね。


 レースのフリルなんかはいつもと変わらないけど、今日は全体的に白い。というか白一色だ。シャネルったら、肌の色も髪の色も白いから、なんだか雪女みたい。


 いや、そもそも雪女って白いか? 微妙なところです。


 この前の水兵さんの服は縫うだけ塗ってけっきょく今日は着ないようだ。俺としては派手なロリィタファッションよりも、ああいう少しコスプレチックな服の方がまだマシなんだけど。


 とはいえ人様の趣味に口出しできるほど偉くはないからな、俺ちゃん。


「それで、どこに行きたいのさ?」


「とりあえずブティックでしょ」


「うん」


 服屋か。


「それにブティック」


「うん?」


 服屋か?


「あとはブティックね」


「服屋だけか……」


 まあいつものことだけどな。


 シャネルは服屋ばっかり行ってるからな。


 なんでもいいけど女の買い物ってどうしてあんなに長いだろうね。一緒についていくのも面倒なんだよな。


 とはいえ、シャネル一人で街を周らせるのもあれですからね。


 こうして俺の休日はつぶれていく。ま、毎日休みなんですけどね。


 いや、俺さすがにそろそろ仕事とかしたほうが良いんじゃないか?


 なんというかあれよね、なまじルオの国できちんと仕事してたからな。――きちんと?


 こういうニートみたいな生活は慣れないな。


 シャネルと一緒に外に出る。


 ほう、と俺は気づく。


 シャネルの白いロリィタドレスは擬態の意味があったのだ。この街は宗教家たちばかりがいる。そういう人間は多く、白い服を着ている。


 そうなると、シャネルの白いロリィタもそこまでおかしな格好ではないのだ。


「TPOってやつか」


「なあに、それ」


「時と場所と場合によって服装を使い分けることさ」


 ま、シャネルにはまったく関係のないことか。


 だってどこにいたって、たいていフリフリの服着てるしな。


「シンクってときどき変なこと言うわ。私よく分からないことがあるの」


「それは失礼」


 俺としてはシャネルがなにを言っているのかよく分からないことが多いけどな。


 アパートのある通りから、大通りへ。


 なんでもいいけどこの国の家ってどうして赤レンガでできてるんだろうな? 分からねえ。


 テクテクとシャネルに並んで歩いていく。シャネル、道が分かるのか? と横顔を見るとどうやら適当に歩いているようで。シャネルもけっこうキョロキョロしている。


「石の町。歩くのは楽ね」


 シャネルが歩くたびに、編み上げのブーツがカツカツと音を鳴らす。


「インフラの整備はちゃんとしてそうだな」


「そうね。へスタリアってもっと田舎かと思っていたわ」


 地味に失礼なことを言うシャネル。


 ま、俺からすればこんな異世界が全部田舎みたいなもんだけどな。悔しかったら高層ビルでも建ててください。


 おや?


 俺たちが歩く先に、なにやら円形状の建物が見える。


 あれは――もといた世界で見たことがあるぞ。


「コロッセオか?」


 つーかでかいな。


 高層ビルとまでは言わないけど、ちょっとした壁みたいにも見える大きさだぞ。


 あそこで血で血を洗う戦いが繰り広げられていたのか。それとも今も現役なのか。


「あらシンク、知ってるの?」


「そりゃあね」有名だし。


「大昔はあそこは闘技場として使われてたらしいけど、いまじゃギルドの受け付けになってるわしいわ」


「ギルドの――?」


「そう、つまり冒険者たちの憩いの場ね」


「ふんふむ」


 そういえば俺たちはいちおう冒険者だった。あんまりクエストも受けていないけど。


 そもそもルオの国には冒険者という文化自体がなかったからな。


 でもまあ、こうしてヨーロッパ(ここヨーロッパって言っても良いのか?)に戻ってきたんだし、久しぶりにギルドでクエストを受けるのも良いかもしれない。


 ついでに観光名所であるコロッセオにも入れるんだし。


「でも今はあそこはダメよ。今日はお買い物して過ごすって決めたんだからな」


「そういうなよシャネル、よく言うだろ? 働かざる者食うべからず」


「さあ、聞いたことないわ」


 白々しいやつ。


 とはいえ、まあ嫌がる人を無理やり連れて行く意味もないよな。


 コロッセオを通り越し、人がバカみたいに集まる泉があって――。


「これ観光地?」


「知らねえ」


「人がいっぱいいるわね」


 でも知らない俺たちからすればただの泉だ。彫刻と噴水はちょっときれいだけど。


 ――そして店が集まる広場へ。


 いうならば商店街だろうか。


「ふふん、へスタリアのお洋服ってどんなのかしら」


「可愛いのがあると良いな」


 なんて三味線弾くけど、しゃらららら、しょうじきどうでもいい。


 とりあえず露店に売っている果物をシャネルにねだる。


「それ美味しいの?」


「まあまあ」


 リンゴみたいな、いや。これリンゴだわ。リンゴ食べた。


 そしたら中から青虫さんがこんにちは。


 うーん、異世界だからな。農薬とか使って栽培していなんだろうな。


「あ、あそこのお店に入ってみましょうよ」


 拒否権はないので頷いておく。


 それにしても、こういう人の多い街だと刀っていうのは良いな。場所をとらないから剣と違ってそこまで人の邪魔にならない。


 なーんて思っていると、警察の人にからまられる。もとい職質を受けた。


「ちょっと良いですか?」


「え、え? 俺?」


 いや、マジか。


 こんな周りに人がいるのにどうして俺だけに声かけるかな? そんなに怪しいのか、俺。


 シャネルはさっさと露店ではブティックの中へ入ってしまっている。


「少々、2、3質問よろしいですか?」


「はあ?」


 どこの世界でも警察というのは慇懃無礼なものだな。


 それに二人一組で行動してる。


「本日はどちらから?」


「え、いや。あの……」


 なんて答えればいいんだ? まさかこことは違う世界から来ましただなんて言うわけにはいかないだろ?


「外国のかた? コンクラーベ見に来たの?」


「え、あ、はい……」


 警察は2人して顔を見合わせて、なにやらこそこそと話し合う。


「ちょっとこっち来てもらっても良いですかね?」


「え、いや。ダメです」


 なんだこれ、俺はいま疑われているのか? 犯罪者かなんかだとでも思われているのか。勘弁してくれよ。


 しかし拒否したのが裏目に出たのか、2人の警官は俺を囲むようにして威圧感をかけてくる。


 まずいなあ、逃げるか?


 でも逃げてシャネルとはぐれるのも得策じゃないし。ここはしょうがない。


「すいません、いま親いないんで!」


 はあ、みたいな顔をされた。


「その腰の物、剣ですか? ちょっと拝見させてもらっても?」


「これは武士の魂なんで、人には渡せません!」


 ま、うちは先祖代々農民だったけどね。


 さすがに言い訳が苦しかったのか、警察官たちは不信感をつのらせたようだ。


「武器を所持する許可は?」


「えっ!」


 なにそれ。知らない。この国、銃刀法とかあんの?


「もしかして所持の許可証を持ってないんですか?」


「ちょっと、ちょっと待ってください!」


 俺はシャネルの入っていった店に行こうとする。けれど警察に手を掴まれる。


「ちょっと! 逃げないでください! 逮捕しますよ!」


「違うから、シャネル! シャネル助けてくれ!」


 恥をかなぐり捨てて大声でシャネルを呼ぶ。


 すると、ブティックの中からちょっと不機嫌そうな顔をしたシャネルが出てきた。


「なあに、シンク。私こっちの服とこっちの服、どっちが良いかで悩んでるんだけど」


「そんなのどっちも買えばいいから!」


「分かってないのねえ、こういうのは悩んでる時間も楽しいのよ。で、シンクはどっちが良いと思う?」


「右だよ、右!」


 てきとうです。


「それって私から見て、それともシンクから見て?」


「お前から見てだ!」


 ふふん、とシャネルは微笑んだ。どうやらシャネルも最初からそちらが良いと思っていたようだ。ならはじめから聞くな!


「それで、どうしたの?」


「なんかいきなりからまれた!」


 シャネルは服を買ってからにするわ、と店の中に引っ込んでいく。


 おいおい、なんてマイペースなやつ。


「あれがキミのお母さん?」と、警察が変なことを聞いてくる。


「んなわけねえよ!」


 だろうね、とうなずかれた。


 しばらくしてシャネルがやってきて、仕切り直し。


「それで、うちのシンクがなにかしましたか?」


「いえ、ただ少々お話を――」


「聞かせてもらえないかと――」


 警察官はうまい具合に交互に喋る。


 個性というものをなくした、のっぺりした顔の男たちだ。なんだか見ているとムカムカしてくる。


「別に私たち、怪しいものじゃないですよ。この街へは観光に来ているだけです」


「いえ、べつに疑っているわけではありませんよ。それで、そちらの方は帯刀しているようですが、武器を所持する許可証は?」


「ありますよ」


 あるのか?


 いつの間に。


 しかしシャネルが出したのはギルドカードだった。


 うわ、久しぶりに見たよそれ。


 俺はいらないからシャネルに預けていたのだ。


「冒険者のかたでしたか。それならそうと最初に言ってくださば良かったのに」


 ふん、とシャネルは不機嫌そうに鼻を鳴らす。


 警察官はギルドカードを確認して、それが偽装かどうかを確認したのだろう。「ご協力感謝します」と言って、去っていく。


「あれで良かったのか?」


「とりあえず身分さえ確認できれば良かったんでしょ」


「けっこう簡単だな」


 どうやらギルドカードが武器の所持を許可する書類の代わりらしい。


 いや、でもギルドカードってけっこう簡単に発行できたと思うけど? いいのかそれで。


「警察も多いわね、神父とかだけじゃなくて」


「なんにせよお祭り騒ぎってことだな」


 いやはや、職務質問とかあんまりされたことなかったからけっこうビビっちゃったぜ。


 人間、どれだけ強くなっても国家権力は怖いからな。


「さて、次のお店に行きましょうね」


 シャネルはぜんぜん気にしていないよう。


 でも個人的にちょっとショックでした。俺そんなに怪しい?


 ま、いいんだけどさ。


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