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188 宿のない理由


 まさか結婚をするつもりなどはないが、俺たちはロマリアの街に入ることになった。


 ロマリアはきれいな街だった。


 石造りの四角い家ばかりが立ち並び、屋根はたいていが切妻でくすんだオレンジ色をしていた。


 いかにも古い町並みが保存されている街という感じだ。ドレンスの首都であるパリィだとこうはいかない。なにかにつけて流行りに敏感なパリっ子たちは街の景色をどんどん変えていくからだ。


「悪くない街ね」


「そうだな」


「けど人が多いことだけはいただけないわ」


「たしかに」


 俺たちが歩いているのは大通り。この道をまっすぐ行けば驚くことなかれ、なんと外国に行けるのだ! いや、べつに国境を越えるというわけではない。


ロマリアの中には別の国――つまりヴァティカンがある。


「なんで国の中に国があるんだろうな」


 たしかなんか宗教的な意味のある国だよな、バチカン市国って。


中学生の頃だったか、地図帳というものをもらった。そこには世界地図がかかれており、俺たちはこぞって世界で一番小さな国を探した。そして一番小さな国がバチカン市国だったのだ。


 もちろん異世界のヴァティカンが、あちらの世界のバチカンと同じとは限らないだろうが。


「あそこにはディアタナを崇める宗教の総本山があるのよ」


「やっぱりか」


 この異世界に宗教は驚くほどに少ない。


 俺が知っている中でもディアタナという神を崇めるもの、そして俺をこの異世界につれてきた神、アイラルンを崇めるもの。その2つしか聞いたことがない。


 後者にいたっては邪教とされており、あるいはガス抜きのように存在するだけの宗教にも思えた。


「ときに宝石箱の中の宝物とも称されるその土地を、我々はいつも胸に思い大切にしていかなければならないのです――」


 シャネルはなにか詩の一節でも唱えるように、夢見がちな声でつぶやいた。


「なにそれ?」


「大昔に呼んだ本の締めの文章よ。そもそもヴァティカンはかつてディアタナが降臨した地らしいわ。つまりは彼女の故郷ということになってるわね。私たち人類の歴史もそこから始まったのよ」


「ふうん」


 どうでもいいね。


 そもそも俺、この異世界の人間じゃないし。


 一神教の神様が偉いとか言われてもピンとこない部分がある。


「興味なさそうね」


「じつはね」


「私もよ。それより宿を探さないと」


 そう、宿だ。こうして旅をする以上、宿の問題というのはかなり重要な要素である。


 いい宿に泊まることができればそれだけ街の観光もよく感じられるし、逆に変な宿に泊まれば疲れもろくにとれずにつまらない思いをすることになる。


「とりあえず料理の美味い店が良いな」


「ええ、そうね。すいません、そこの人――」


 シャネルがそこらへんの人に道を聞く。


 これはコミュ障の俺にはできないこと。すごいな、といつも思う。


 俺はぼーっと街をゆく人を眺める。


 いやあ、本当に人多いな。お祭でもあるのか?


 さすがにヴァティカンが近いのか修道者みたいな人が多いな。僧侶とか、僧侶とか、僧侶とか。女僧侶……。


 個人的なはなしをさせてもらおう。やっぱり冒険といえばパートナーは僧侶が良いな。可愛くて清楚な僧侶さん。きっちりかっちりした性格で、でも優しくて、ついでに母性的……。


「ダメだったわ」


 でも俺の隣にいるのは魔法使い。


 というか言ってまえば魔女。


 清楚とは真逆なバイオレンスさの女。


 え、っていうか……。


「ダメだった?」


「うん、ダメだった。どこも宿があいてないそうよ」


「まだ確認しおてもないのに、道聞いただけだろ?」


「それがね……」


 いきなり音楽がなり始めた。


 大通りを行く人たちが道を開ける。ただでさえ人が多かったというのに、中央のほうを開けて路肩によったものだからすし詰め状態だ。


「誰かくるわ」


 シャネルは満員電車で男の体に隠れる女の子のように、俺の後ろに身を隠する。俺も他の人間の体が間違ってもシャネルに振れないようにする。


「なんだなんだ」


 厳かな音楽とともに馬車がひかれていくる。


 その後ろには護衛だろうか、いかにも格式張った制服を着た兵隊たちがならぶ。なんだか大名行列みたいだ。


「あれ、どうも偉い司教様が乗ってるみたいね」


「司教?」


 日本に住んでいた俺にはあまり聞きなれない単語だが。


「あれのせいでこんなに人がいるのよ」


「ほう」


 ゆっくりとした足取りで司教とやらの行く馬車は大通りを行く。


 人々の邪魔になっているかといえばそうではなく、むしろみんな熱狂を持って向かえている。


 どうやらヴァティカンへと行くようだ。


 しばらくすると行列もなくなった。


 人々はまた大通りの中央もつかってそれぞれの道を行く。


「さてさて、どうしましょうか」


「あの司教がどうして俺たちの宿に関係あるんだ?」


 気になっていたので聞いてみる。


「コンクラーベがあるのよ」


「こんくらべ?」


 なんだそれ、ガマン大会か?


「ふふ、たぶん変なこと考えてるでしょ」


「べつに考えてねえよ」


「コンクラーベって次の教皇を決める選挙のことよ」


「ほう」


 教皇っていうのはつまり宗教で一番偉い人だよな? いちおう法王なんて呼ばれかたもされるけど。


「それで各地から徳の高い有名な司教様たちが集まっているんだけど……」


「あ、もしかしてそのせいで観光客も多くなってるってことか?」


「ご明察。そのとおりよ、シンク」


「まさか本当にお祭だとは」


 たぶんその選挙が近くなったら屋台とかもたつんだろうな。いや、もうたっているのか。あーあ、変なときにロマリアに来ちゃったぜ。


 とはいえこれは考え方によればラッキーだ。そういうお祭り騒ぎって何度もあるもんじゃないだろうからね。


「これはまた今回もボロ宿に泊まることになりそうだわ」


「本当にな」


 俺たちは初めての街を当てもなく歩く。


 旅衣装は多く、大きなカバン一杯に詰まっているが、それ以外の荷物はあまり持っていない俺たちである。その場その場で必要なものは買ってきたからだ。


 ちなみにそのカバンを持つのは俺だった。


 カバンの持ちてのあたりに刀をくくりつけている。腰にさしていると危ないからだ。できればこんな刀なんて使わないに越したことはないけれど。


「ああ、シンク。あっちに宿があるわ。部屋があいてるか聞いてみましょう」


「おう、そうしてくれ。そういやお金はあるのか?」


 お金っていうと、この国のお金の単位はリラだ。


 この前、ドレンスのお金と為替をした。テールはダメだと言われた。


 ルオの国はすでに滅びて、新紙幣もたくさん発行されている。だからテールは外国で価値を持たない金となっている。そして新紙幣の方もまだ信用がなくルオの周辺国でしか交換してもらえなかった、それにレートはかなり低かった。


 そんなわけで俺たちはそのお金をわざわざ交換せず、焚き火にくべてやったのだ。いや、冗談だよ。


 シャネルがてこてことホテルの方に行く。


 いつもどおりのゴシック・アンド・ロリィタ。


 この国でならそれなりに似合っているな。


 シャネルはすぐに帰ってくる。


「ダメだったわ、まったくもってつまらないわ」


「しょうがないな」


「でも別の宿を紹介されたからそっちを回ってみましょうよ」


「よしなによしなに」


 いやあ、これちょっとやばいかもしれないぞ。


 野宿は何度もしたけれど、こんな国の中ではしたことがない。それってもうホームレスってもんじゃないか?


 なんとしても宿を探さなければ!


 ま、探すのはシャネルなんですけどね。


 いちおうほら、俺は戦闘担当だから。


 まあ、この国は平和そうだしそういうことはないだろうけどね……。


昨日更新するの忘れていました

すいません

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