185 戦闘、ひどい村
馬賊の一人が問答無用で拳銃を撃ってきた。
俺はとんでくる弾丸を刀で切り裂く。
「ふっ」と、格好つけてみる。「またつまらぬものを斬ってしまった」
顔は平静を装っているけど、心臓はバクバクだ。
斬れるもんだね、弾丸って!
「なんだこいつ、あんな細い剣で!」
「どうなってんだ!」
「てめえら、一斉にかかれっ!」
6丁のモーゼルが火を噴く。
しかし俺はそれをすべて切り落とす。
馬賊たちはそんな俺を見て恐れをなしたのだろう。誰もが馬から降りようとはしない。
「面倒だな」
いっそのことシャネルに頼んでぜんぶ焼いてもらうか?
ふと俺は刀に目をやる。
「ああっ!」
刀ちゃんがかけてる!
そ、そんな!
いや、そりゃそうか。だって銃弾斬ったんだもんな。
やべえなあ……ドモンくん怒るかな……。
「お、おいお前!」
馬賊のリーダーがなにか言っている。
「ああっ?」
俺は刀がかけたことにたいするショックでいつもより低い声をだす。
「こ、この俺を誰か知ってるのか!」
「しらん」
村人たちがむしろ俺を恐れるように見ている。
なんだよ、俺なにか悪いことしたか?
「き、聞いて驚け! この俺はあの小黒竜の子分なんだぞ!」
「はいっ?」
思わず変な声がでた。
「小黒竜だぞ、小黒竜!」
「おい、シャネル!」
俺は思わずシャネルを呼んでしまう。
シャネルはゆっくりとした足取りで俺のもとへくる。
「なあに?」
「この人、なに言ってるの?」
「そりゃあシンク、貴方の部下だって言ってるのよこの人」
「はぁ?」
なに言ってんのかよく分からない。
なんでもいいけどシャネルさん、ぜんぜん動じないよね。
俺もうわけ分からなくて頭の中がポップコーン(意味不明)なのに。
ま、シャネルにとっちゃ他人事か。
「旅の人、どうか剣を納めてください。小黒竜の部下に剣を向けたとあっては今後なにがあるか――」
はあ、と俺はまたため息をつく
ダメなんだけどね、ため息ついちゃ幸せが逃げるから。
でもさ、ため息もつきたくなるってもんだぜ。
まったく、有名になんてなるもんじゃねえな。地方じゃ悪名になってることもあるんだから。
それでかってに名前を使われて、こんなことになってる。
きっと村の人は俺の部下だからこの馬賊たちに貢物をしているわけではない。あの小黒竜の部下だから仕方ないと自分たちに言い訳して、この現状に甘んじているだけなのだ。
勝手に人の名前を使うクズどもも嫌いだが、現状を打破しようとしない村人だって嫌いだ。まるでイジメられていた昔の俺を見ているようで……。
俺は刀を構える。
「アイヤー、こいつら小黒竜の部下アルヨ!」
アイナさんが俺を止めようと言ってくる。
どうやらその名前に恐れをなしたようだ。
だからどうした?
「こんなやつら知らねえよ」
と、俺ははっきりと言う。
「て、てめえ!」
馬賊たちは小黒竜の名前を聞いてもビビらない俺に対して、どうすればいいのか分からないようだ。
「こないならこっちから行くぞ」
俺は動き出す。
かけた刀でも人の体くらいは簡単に斬れる――。
「俺たちに手を出せば小黒竜が来るぞ!」
それを最後の声にして、馬賊の一人は俺に切り捨てられる。
これであと5人。
だがその瞬間、3人の馬賊の体が自然発火するように燃えた。シャネルの魔法だ。
いきなり体を燃やされた馬賊たちは三者三様の行動にでる。馬から転げ落ちて地面をのたうち回る者、そのまま明後日の方向に走り出し落馬するもの、助けてくれと叫び火のついていない馬賊に近づくも、寄るなと撃ち殺される者。
行動は3人とも違ったが、結果は全員同じ。死んでしまった。
さて、あと2人。
俺は先程仲間を撃ち殺した馬賊にモーゼルを向ける。
向ける、などというおっとりとした表現はこの場合間違っているかもしれない。
一瞬にしてモーゼルを抜き去り、その刹那には弾丸が打ち出されている。一瞬の早打ち、おそらく撃たれた馬賊ですらなにが起こってのか分からなかっただろう。
「ひ、ひいいっ!」
残るはリーダーだけだ。
「あとはお前だけだ」
俺は死刑宣告のように冷たく言い放つ。
リーダーは馬で逃げようとするので、俺はモーゼルで馬の足を2本撃ち抜く。
本当は馬を傷つけたくなかったのだが。
リーダーは落馬し、地面に体をしたたかにうちつける。
「お、俺には小黒竜が――」
まだ言うか、と呆れる。
「小黒竜は俺だ」
俺がそういうと、馬賊のリーダーは目を丸くする。
「うそだ! 小黒竜は黒髪と大剣を持った男で――お前、まさか」
俺は黒髪をかき上げる。
「悪いな、剣はこわれたんだ」モーゼルをリーダーに向ける。「あいにくと、俺はお前のことなんて微塵も知らねえ。だが、お前が俺の部下だというのならそれを証明する方法が一つだけある」
俺はリーダーの口の中にモーゼルの銃身を入れる。
「テストは簡単だ、お前が真の馬賊ならモーゼルの弾は当たらない。そのはずだよな?」
馬賊のリーダーはがくがくと震えている。
声も出ないようだ。
俺は無慈悲にトリガーを引いた。
乾いた音。
弾丸は馬賊のリーダーの口内から喉の方へと生き、首筋から抜けていった。
「テストは不合格だ、お前は俺の部下じゃねえ」
馬賊のリーダーは声にならぬ声をだしその場でジタバタと動く。
「醜いわね」
シャネルはそういうと、火属性の魔法を唱えた。
一瞬にして燃え盛る炎で馬賊のリーダーは消し炭になった。
「ふう……とりあえずこれで一件落着か」
「そうとも言えないかも知れないわよ」
シャネルが俺の手に自分の手をかまらせてくる。胸がむにゅりとあたる。
それともぶにゅり?
とにかくムニュムニュしているぞ!
と、そんな甘い感触を味わっている場合じゃなさそうだ。
俺たちを睨むように見つめる目、目、目。
村人たちが俺たちを睨んでいる。
「なんだよ、俺はお前らを助けてやったんだぞ」
「あっちはそう思っていないみたいよ」
クスクスと笑いながらシャネルが言ってくる。
たしかにそのとおりだろう。むしろ、まるで俺たちが敵のようだ。
「やりすぎじゃ……」と、おそらく村長のような男が言う。
「やりすぎだぁ?」
俺が睨むと、村長は目をそらす。
なんだよ、胸糞悪い。まるで俺たちが悪者みたいじゃねえかよ。
「こんなこと誰も頼んでおらん……」
「ああそうかい、じゃあお前らはあんな馬賊たちに搾取されるのが好きだったのかよ!」
腹が立ち叫んでしまう。
ありがとうの一言でもあれば俺だって嬉しい気持ちになるのに、なんだよこの対応は。
腹がたった。
「行きましょうか、もうこの村にはいられないわ」
たしかにシャネルの言う通りだ。
俺たちは背後に村人の視線を感じながらあてがわれていた廃墟のような家に戻る。
御者の男を叩き起こし、「こんな村さっさと出るぞ!」と言う。
「アイヤー、分かりましたよ」
しかしその前に、最後にドモンくんに会わなくてはいけなかった。
アイナさんも連れて行かなければならいし。
そのアイナさんは先程からちょっと気落ちしたような顔をしている。せっかく鍛錬した自分の武道が通用しなかったのが悔しいのだろう。
「二時間ほどで戻る、それまでに馬の準備をしておいてくれ」
「分かりましたよ」
もう一度外に出ると、もう村人たちはそれぞれの家に戻ったようだった。まるで俺たちから隠れるように。
「お前、本当に強かったんだナ。驚いたアルヨ……本当に小黒竜なのカ?」
「嘘だと思うなら信じなくてもいいさ」
「いや……信じるアル。だってあれだけ強いんだから」
べつに信じてもらえなくても良かった。
でも信じてくれたのが嬉しかった。
こんな酷い村でも、こういう人がいる。それだけは俺にとって救いに思えた。




