183 流星刀――守りたいもののために
シャネルとアイナさんは家の方でガールズトークに花を咲かせている。
こちらはこちらで男同士の会話だ。
「昨日の今日で来てもらっても、俺の気持ちは変わらんぞ」
「まあそれは分かってるんだけどね」
「そもそもお前、剣なんてふれんのか? いっそのことモーゼルでも持ったらどうだ」
「いや、モーゼルなら持ってるよ」
そう言って俺はふところから一丁の小銃をとりだす。
それはダーシャンが選別にとくれたモーゼルだった。ずっと借りていたのをそのままもらったわけだ。
「ならそれで良いじゃねえか」
「剣じゃなくちゃダメなんだよ」
「ま、お前にも事情があるんだな。とはいえ俺にも事情はあるんだ」
工房のすみにはどでかい石のようなものが置かれていた。
それはところどころ削り出されているようだった。
ドモンくんはその石を恨めしげに見つめる。
「それ、なんなの?」
「なんだと思う? なんて女みてえなことは聞かねえよ。隕石だ」
「隕石?」
っていうとあの空から落ちてくるやつだろうか。
あれ、そういえばこの前、隕石が落ちてきたんだったか?
もしかしてその隕石がこれだろうか。わざわざ持ってきたの? こんな重たそうなもんを。
「こいつがなかなか言うことを聞かねえんだ」
「言うこと聞かないって? え、これペットかなんか?」
「んなわけねえだろ。こいつは刀の材料だ」
「材料?」
「おう、隕鉄をつかって刀を作ろうと思ってな、山に落ちたもんをわざわざ拾ってきたんだ」
「物好きだね」
「だけど格好いいだろ?」
そう言って笑ったドモンくんを見て、俺はちょっとだけ過去のことを思い出していた。
一度だけドモンくんは俺に原付きを見せてくれた。
べつにそれ自体はなにかすごいものでも、バチバチに改造してあるものでもなくて、ちょっと小型バイクっぽい形をしただけの原付きだったのだが。
でもドモンくんはそれを俺に見せて『どうだ榎本、格好いいだろ?』とそう聞いてきたのだ。
べつにドモンくんは俺にだけそのバイクを見せてくれたわけではない。
ただ帰り道で通りかかったときに自慢されただけだ。
でも、なんだかその時と同じように俺は温かい気持ちになった。
「たしかに格好いいね」
と、素直に頷いた。
「だろう! だからよ、これで刀を作れば俺の気分も乗るんじゃねえかと思ってよ!」
「でも隕石から刀なんてできるの?」
「たぶんな、昔……あっちの世界にいたとき聞いたことがあるんだ。隕石から作られた刀があるって。その名は――」
「その名は?」
「――流星刀」
俺はあまりの格好良さによだれを垂らしそうになる。
なんだよそれ、格好良すぎる。
隕石からできた刀って時点でくるものがあるのに名前が流星刀だって? もうこれ数え役満じゃないのか?
「垂涎って感じだな」
「ね、ねえドモンくん。その刀って誰に売るとか決まってるの?」
「さあな、俺が趣味で作るようなもんだからな」
「な、ならさ! 俺に譲ってくれよ!」
「お前に?」
「そう、この通りお願い!」
俺は深々と頭を下げる。
ドモンくんは良いぞ、とも、ダメだ、とも言わなかった。
代わりに俺の肩に手をのせた。
「まだちゃんと作れるかも分からねえよ」
ごつい手だった。
まるで岩のような手だ。
その手にはこれまで何十年も刀をうってきた男の生き様が刻まれているようだった。
「それにお前は頑丈な刀がほしいと言っていただろ? だがこの流星刀はどうも頑丈にはできないかもしれない。その分、切れ味は良くなるはずだがな」
「切れ味が?」
それで俺の魔力に耐えられるなら良いのだけど。
そうだ、というふうにドモンくんは壁にかかっていた刀を一振り手に取り、俺に渡してくる。
「これをやるわざわざ銘もいれていないが、まあ悪いデキじゃないさ」
「これをくれるの?」
俺は腰にその無銘の刀をさす。
「冒険者が武器の一つも持っていないじゃ格好がつかないだろ。モーゼルいっこで戦うのなんて命知らずの馬賊くらいだ」
「ありがとう」
実はその馬賊だったのだと言ったら、ドモンくんは驚くだろうか。
「礼は良いよ。それよりもお前、アイナのあれ見たんだろ。どう思う」
「どう思うって……」
「冒険者をやってたならそれなりに鉄火場にも顔をだしたんじゃないのか? ある程度は戦えるんだろ」
「いや、まあ」
「そのお前から見て、アイナはどうだ」
「正直言ってぜんぜんダメだよ。というか素人目に見ても分かるでしょ?」
「そうなんだが……俺が言っても一向に聞かないんだよ。『ドモンは格闘技素人ネ! だから黙っているヨロシ!』ってな具合で」
「うーん」
その言い方だとなんだ? もしかしてアイナさんは自分のことうぃお玄人だと思っているわけか?
「どうにかして辞めさせたいんだが。このままじゃ、あいつそのうちとんでもないことをしそうでな」
「うーん、たしかに」
「それでお前にお願いがあるんだ」
「うん」この段階でだいたい察した。「俺の口から止めさせろって言うんだろ」
「話が早いな。適当に武術の達人だとかなんだとか言ってよ、頼むよ」
「まあ良いけど」
いちおう刀ももらったわけだし、その恩返しだ。
それにしても武術の達人のふりねえ……ふりじゃなくてもいちおうそうなのだけど。
「そうか、引き受けてくれるか。ありがとう」
「うん、まあ俺の口からとりあえず言ってみるよ」
ダメだったらごめんね、と俺は笑う。
「さて、俺はそろそろ続きにとりかかるかな」
「うん。あ、あのさ」
「なんだ?」
「ちょっと気になってたんだけど……ドモンくんとアイナさんってどういう関係?」
「それを言うならお前とあの女はどういう関係なんだ?」
「そりゃあ共犯者さ」
冗談半分、本音半分で言う。
「共犯者?」
「いや、まあ……その、片思い、というやつかな」
「片思いか」
ドモンくんはニッコリと笑った。
べつに片思いをしているのは俺のほうじゃないよ! シャネルの方だよ!
なんて言ってもまあ、言い訳にもならないよな。
俺だってシャネルのこと好きだし。それってまあ、両思いってことか。
うーん……。
そろそろ認めるべきだろう。俺はシャネルのことが好きだし、シャネルは俺のことが好きだし。え、じゃあどうするの結婚でもすんの?
うーん。
「榎本、昔から巨乳が好きだったもんな」
「うぐっ!」
「昔よ、一緒にエロ本見ただろ? そんときお前、巨乳の子ばっかり見てたもんな」
「いや、あれはドモンくんが見せてきたんだろ!」
「でも見てたろ、お前も?」
「そういうドモンくんだってなんかこう、すらっとしたお姉ちゃんばっかり見てたじゃないか!」
うん?
というかドモンくんの好みってアイナさんみたいな人じゃないのか……?
いやいや年の差どれくらい? 下手したらロリコンみたいなもんじゃないか?
いや、別にロリコンじゃないか。おじさんと女子高生の恋ってそれはそれでロマンチックだよね。
「別に俺はあいつの親代わりみたいなもんさ」
親代わりねえ……。
本当かしらん? と俺はじっとりドモンくんを見つめる。
ドモンくんは頑なに目を合わせようとしない。
怪しいなぁ~。
「本当は好きなんじゃないの?」
「うるせえよ」
イテッ、肩パンされた。
イジメだ、イジメ。
でも俺は笑っている。
僕たちは友達っていうわけじゃなかったかもしれない。
けれど、仲は悪くなかったと思う。
「俺は親としてあいつを守りたいんだ。頼んぞ、俺はアイナに傷ついてほしくない」
「わかったよ、まかせてとは言えないけどさ」
あんまり仕事の邪魔になってはいけないからと俺は工房を出る。
腰に刀を指しているせいでちょっとだけ歩きづらい。
家の方に戻ると、なぜか扉が開いていた。
中そそっと覗き込むとシャネルがなにやら拍手をしている。
「うまいうまい」
「そうアルカ!」
「ええ、これなら小黒竜も顔負けよ」
「そうアルカ!」
どうやらアイナさんの演舞を見ていたようだ。
演舞というか、お遊戯会というか。
でもシャネルはなんだかんだ褒めているらしい。
「ええ、シンクも裸足だわ」
「ありがとうアル! でもどうしてあの男の名前がでてくるあるか?」
おっ、これはチャンスだ。
ここでシャネルが俺の正体を言えば、いい感じの流れでこんなバカなことをやめさせらるのだが。
「そりゃあシンクは格好良いからよ」
……ぜんぜん理由になってねえ。
「バカかよ、お前」
おもわず声にだしてしまう。
「あらシンク、お話は終わったの」
「まあな」
「なんの話してたアルカ!」
「あらアイナちゃん、殿方のお話の内容は聞かないものよ」
「そうなのカ?」
「そうよ、殿方がお話を始めたら一歩下がっておく。これがレディーのたしなみというものよ」
聞いたことねえよ、そんなたしなみ。
それともドレンスの社交界とかじゃそういうもんなのか?
「わかったアル!」
「あら、シンク。刀をうってもらったの?」
「新しく作ったやつじゃなくて、もともとあったやつ」
「え、お前まさかドモンに刀もらったカ!」
「そうだけど?」
「お前、そうとうあいつに気に入られてるアルナ。友達って本当だったアルネ」
アルアル言っててしょうじきよく分からないけど……。
それにしてもドモンくん、この言い方だとあんまり人に刀をあげないのか。
さすが偏屈な男だ。
「というかシャネル、ちょっと……」
「なあに?」
俺はシャネルをこちらに呼び寄せる。
シャネルが近づくと甘い匂いがして、俺はちょっとむせそうになった。
「あのさ、シャネル。あの子が格闘技やるのやめさせてくれってドモンに頼まれたんだよ」
「そうなの?」シャネルはどこか不機嫌そうな顔をする。「私としては好きにやらせてあげれば良いと思うのだけど」
「そうは言っても女の子だぞ。変に暴走して怪我でもしたら大変だってドモンくんは思ってるみたいで」
「……まあ、それもそうね」
そういう意味では俺としてはシャネルにも怪我しそうなことはしないでほしいんだけどね。
そもそも俺が力をつけたのはシャネルのためだし――。
別に復讐するだけならこれ以上の力なんていらないんだ。『武芸百般EX』があって、『5銭の力』があって、それだけで攻防ともに最強なのだから。
それでも更に力が必要なのはシャネルのため。
自分だけではなくシャネルも守るためなのだ。
むう……自分で考えていて恥ずかしくなってきた。
やめやめ、こんな男らしいこと童貞の考えることじゃありません!
でも守りたいのは本当さ。恥ずかしくてシャネルには言えないけどね。




