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175 新しい剣がいるよ


 壊れた剣は柄だけが残り、刃の部分は粉々になっていた。


 それでも恨めしく背負っているのは、それが他人からのもらいものだからだ。


「新しいの買わなくちゃね、シンク」


「本当になぁ」


 ま、柄だけでも剣になるんだけどねとちょっと笑う。


 この前発見したのだが、魔力を丁寧に形成すれば柄から魔力の剣だけを出現させることができるのだ。ようは『グローリィ・スラッシュ』の発展というか応用なのだが。


 もっとも、普通に振れば集中力がきれて雲散霧消してしまうので戦いでは使い物にならないけど。


 ビームサーベルだぞぉ! って言って宴会芸にでもするしかない。


 俺たちの乗る馬車はルオの国を北へ北へと向かっている。


 あ、もうルオの国じゃないのか。いちおうティンバイが王朝を滅ぼしたんだからな。でも新しい国の名前は知らないから名目上はルオと呼ぶしかない。


「とりあえず、北にでて、そこから一帯一路を通ってドレンスに帰る。また長旅になるわね」


「海路で帰るって手もあったんだけどね」


 というか俺はそっちで行きたかった。


「やあよ、海なんて。そもそも船ってなんで浮いてるの? 怖いじゃない」


「いやいや、船なんて浮くから浮くもんでしょ? ほら、浮力とかなんとかで」


「まあ理屈は分かってるんだけれども納得はできないのよ。でも船旅なんて風まかせの旅よ。難破もするかもしれないし。陸路で行くのが一番よ」


「ふーん」


 風まかせってことは帆船ってやつか?


 そりゃあそうか、エンジンだとか石炭で動く船なんてこの異世界にはないよな。


「でもシンク、どうしてこんなに北の方に行くのよ? これじゃあ少し遠回りだわ」


「そうなんだけどね、ちょっと寄りたいところがあるんだ」


「寄りたいところねえ……」


 ああ、と頷く。


 そうなのだ。俺たちはいま遠回りをしている。


 俺たちがいまいるのはティンバイの故郷、北大荒ペータホアンだ。


 なにも友人の故郷を見たかったわけではない。


 この地域に気になる人がいるのだ。


 そのためにわざわざ分岐となる場所でもともと乗っていた馬車を降りて、こちら行きの馬車に乗り換えたのだ。


「それにしてもねえ……なんにもないわね」


「そうだなぁ……」


 見渡す限りの不毛の大地。こんな場所に人間が住んでいるというのだろうか。


「で、会いたい人って? そろそろ教えてくれても良いんじゃないの」


「あ、知りたかったのか?」


 いままで聞かれもしなかったから答えてもいない。


「そりゃあね。別にどこでしょうと私はついていくけども、興味がないわけじゃないわよ。差し支えなければ教えてほしいものですわ、小黒竜シャオヘイロンさん」


「からかうなよ」


 首都を出たあと、いちおうは奉天によった。


 そこで師匠に挨拶をしてきたのだが、師匠は元気そうだった。良いことだ。あのぶんならあと十年は生きるだろう。


 師匠といえば――紫禁城で戦ったワンはあのあとどこに行ったのだろうか。俺たちが龍と戦っている間に消えてしまったが。


 ま、俺からすればどうでもいいことか。


「剣だよ、剣」


「けん?」


 ガタン、と馬車が揺れる。


 ここらへんは道だってろくに整備されていないから荷台に乗っているのも一苦労だ。とかになったらどうしましょう。


「そう。というよりも刀だな」


「かた~な?」


「そう、曲刀だ」


「ああ、曲がった剣ね。そういえばルオの国じゃあそういう剣も見かけたわね」


「ドレンスは直刀ばっかりだったな」


 もしくはレイピアのような繊細な剣か。


 そういう武器ひとつとってもお国柄がでるというわけだ。


 俺としては刀が使いたい。だって俺日本人だし。やっぱり刀って格好いいじゃない。


 だからルオの国にいる間に買っておこうと思ったのだ。


 けれど刀といえばもちろん日本独自のもので、まさかルオの国にあるわけがない。そんなふうに考えていた時期が……俺にもありました。


 けれど、あったのだ。この国に刀が。


 そりゃあもう、初めて見たときは驚いたね。だってまさか刀があるだなんて思わなかったんだ。


 まあこのルオじゃあモーゼル拳銃やらなにやら、微妙に時代背景がよく分からないものがあったからな。そういう意味では刀があってもおかしくないか。


「殿方は武器にこるって、本当なのね」


「そりゃあな、武器っていうのは自分の命を守るものだからな。良いものを持っておいて損はないだろ」


「ふうん。私なんてこの杖、ずっと昔から使ってるけど。変えようと思ったことなんてないわ」


「別に俺だって壊れさえしなければあの剣を使い続けたんだけどな」


 というか、あの剣かなり良かったみたい。


 剣がなくなってすぐ、適当な武器屋で剣を買ったんだが。これがもう失敗だった。


 とりあえず振ってみて木を斬ったら刃がかけた。


 違う剣を買って、全力で振ったら折れた。


 また違う剣で『グローリィ・スラッシュ』を手加減してうったら粉々になった。


 まあ、とにかくどれもダメダメで。


 弘法こうぼう筆を選ばずなんていうけれど、やっぱり良いものを持ってるのが一番だよ。


 ガタン、ガタンと馬車は揺れている。


「あの、もうどれくらいでつきますか?」


 俺は御者に聞いてみる。


「もうすこしヨー」


 ああ、またこれである。


 もう少しっていったいどれくらいの時間なんだよ。昨日からもう少しって言ってたじゃないか。やれやれ。


 俺たちが目指しているのは国境付近の寒村らしいが――近くには黒竜河アムールというでっけえ川があるらしい。その川が見えないってことは……まあまだ遠いのか。


 ……はあ、暇だ。


「シャネル、暇」


「あら、奇遇ね。私もよ」


「寝るかな……」


 ガタン、と揺れる。


 くそ、こんな場所じゃ寝ることもろくにできない。


 いちおう俺たちはこの馬車に護衛ということで乗っているのだが、こんな場所じゃあ追い剥ぎだって出やしない。


 いっそのこと馬賊の一団でも出れば暇つぶしになるのだが。


 あ、でも俺いま武器がないのか。くそ。


「干し肉でも食べる? 噛んでたら少しは暇がまぎれるでしょ」


「うーん」


 干し肉かぁ……。


 嫌いじゃないんだけどね。


 でもなんかなあ、木ノ下を殺してからこっち味覚が敏感になっていて。


 どうやら木ノ下がアイラルンから与えられたスキルは『女神の寵愛~味覚~』だったようで。別に味覚が敏感になってもなあ……。


 相手の汗をなめて嘘ついてるかどうかなんて分からないし。


 使いみちがあんまりないよね。


 聞いた話しによれば木ノ下はこのスキルを使って皇帝に取り入ったとか。もともとは貴族の令嬢――養子らしい――だったのだが、たまたま皇帝が屋敷にくる機会があり、なんだかんだで取り入ったらしい。


 まあ昔からいうからね、男をつかむにはまず胃袋からって。


 それに木ノ下は容姿もかなりのものだったし……女の武器ってやつ? それを使って皇后の地位を手に入れたのだろう。


 その結果があれじゃあ、あんまり報われないけど。


 まあそのようにして、使いようによって良いスキルなのだろうが俺にはあんまり無意味なスキル。無駄に舌がこえたぶん、マイナスだよ。


 もちろんこのスキルもオンオフができるのだけど。


「それで、食べるの?」


「まあ、もらっておく」


 グルメな俺には保存食の干し肉なんて似合わないのである。


 あーあ、早くドレンスに戻りたい。あの国は料理だけはとにかく絶品だったからな。


 それにしては、シャネルの料理は壊滅的だけど。


 ま、人間なにかしらの欠点はあるか。


「アイヤー。お二人さん、もう少しよぉ」


 御者があちらから話しかけてくる。


 そこまで言うのだ、本当にもう少しなのだろう。


 見れば巨大な山が遠くにそびえている。


 あれ、川は? と俺は疑問に思う。


「あの山の向こう、川あるよ」


 その疑問を先回りしたように御者が言う。


「ほうほう」


 深山幽谷、という感じの山だ。人里離れた奥深い山、まるで仙人でも住んでいそう。


 それにしても不思議な山だなあ、てっぺんの部分が変にハゲ上がってるぞ。


「あれネー、この前イヌが落ちたよ――」


「イヌ?」


「バウバウ?」


 なんでもいいが、シャネルさん。いまのイヌの泣き声ですか?


「そうよ、天のイヌがおちたよ」


「ああ、流星のことね」と、シャネル。「本当にルオの人間は遅れてるわね。あれは生き物じゃなくて天からの贈り物なのよ」


「いやいや、それも違うから。流星ってただのスペースデブリが地球の引力にひかれて落ちて、大気圏での摩擦で燃えてるだけだから」


 つまりあの山の一部、あそこに流れ星が落ちたってことか。


 それって隕石?


 ふーん。


 まったく変な場所だな。こんな場所に、俺の会いたい刀鍛冶がいるのだろうか……?


 ま、行ってみなけりゃ分からない。


 俺の中の厨二心がワクワクと暴れようとしているのだった。



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