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142 麻雀と独立


「兄弟、1点100テールだぜ」


札束を卓に置いたティンバイは、俺をにらみつける。


「バカじゃねえの!?」


 麻雀っていうのは最初、25000点から始まる。


 そして1テールはだいたい1円だ。


 これが意味することはつまり、最初の掛け金が250万円だ。


「でも攬把はもう4万点の負債ですよ」


「うるせえ、これから取り返すんだよ!」


 おいおい、ティンバイ。お前もう400万の借金あるのかよ。こいつあれだぞ、賭け事とかしたらダメなタイプの人間だぞ。


「なあスーアちゃんも止めてやれよ」


「あわわ、でも私、いま勝ってるので……」


 この女の子……けっこうひどいこと言うな。


「負けてからじゃ遅いぞ」


「うるせえ、とにかく早くやるぞ!」


 まったくティンバイはせっかちだな。


 俺たちはジャラジャラと麻雀牌を並べる。もちろん全自動の卓なんてないから、手動で山をつむのだ。


「これどんな遊び?」


 と、シャネル。


 俺は自分の手牌をシャネルに見せる。


「このな、絵柄を揃えるんだよ」


「ポーカーみたいなものかしら?」


「まあ似てるね。それの多いバージョンだよ」


「ふーん」


「つーかよ、俺は金なんて賭けないぞ」


「なんだよ兄弟、ビビったのかよ」


「そりゃあな。こちとら薄給なんでね」


「あらあら、シンクさんったら謙遜しちゃって」


「……リーチです」


 そんなこんなでグルグルと順番が回っていく。


 俺はとにかく点数を減らさないように立ち回る。そんなことをしていれば当然あがれないのだけど、そんなこと言ってる場合じゃない。


「あら、攬把。それ、ロンですよ」


「んだとテメエ!」


「おお怖い」


 ティンバイはよっぽど頭に血が上るっているのか、先程から相手の当たり牌に振り込みまくっている。こういうの、下手の横好きっていうのかな。麻雀やめれば?


 というかフウさん、あきらかにティンバイをかもにしてるよな。


 すげえなこの人、怖いものなしか。


「いま、誰が勝ってるの?」


 シャネルは点数の見方も分からない様子だから聞いてくる。


「フウさん、次にスーアちゃん。で、俺がほとんど無傷で、ティンバイの一人負けだ」


「うるせえ、オーラスで取り返せば良いんだよ!」


 オーラスというのはつまり、最後の番ってことだ。


 でもそんなこと言ってる場合じゃないくらい点数差ひらいてるけどね。


「それにしても木大后ムータイホウ様は面白いゲームを作られましたね」


 フウさんがなにやら気になることを言った。


 木ノ下が作った?


「おうよ、あのババアは御簾みすの先にふんぞり返って俺様たちにてきとうな命令くだしてるだけだが、この麻雀を作ったことだけは認めてやるぜ」


 なーんだ、じゃあこの麻雀があちらの世界と同じようなルールなのは、木ノ下がこの異世界で広めたのか。


 なんだあいつ、けっこう異世界転移者っぽいことしてるじゃないか。


 俺もなんか広めようかな、オセロとか将棋とか。あ、でも俺じゃ無理か。そもそも商品化するルートとか持ってないもんな。


「さてさて、次はオーラスですね」


「お、親は私、です」


 スーアちゃんの親番だ。親というのは簡単に言えばあがったときに点数が高くなる人のこと。これは順番に回ってくるのだ。


「さっさと始めな、俺様の天和が火を噴くぜ」


「バカなこと言ってないでさ」


 そもそも天和は自分が親番じゃないとアガれないです。


「あらあら、うふふ」


「……とりあえず、これです」


 山から牌をひき、1つずついらないものを置いていく。そうして手札を揃えていき、一番先に揃った人があがりだ。


 超簡単に言えば、麻雀ってこういうゲーム。


「そういやあよ――」 


 ティンバイが牌を置く。


「どうしました?」


「鳳先生よ、独立の宣言書はできたのかい?」


「あ、あの。もう少しです。ほとんどできたと言っても良いです」


「そうかい」


 独立?


 あらら、いったいなんの話しでしょうか。


 俺の知らないところで話が進んでいるぞ。ま、いつものことか。


「いちおう占いによれば来週が吉と出ておりますが」


「えっと……それまでには。はい、間に合わせますから」


「別に急かしたわけじゃねえよ」


 話をしながら牌が置かれていく。


 俺はぜんぜん意味が分かっていないので無言だ。こういうとき、コミュ障はつらいね。陽キャならねえねえなんの話? と、強引に会話に入れるんだけど。


「ねえ、独立ってなんの話?」


 いた、陽キャが。


 シャネルが気になっていることを聞いてくれた。


「ああ、そういやまだ他には言ってなかったな。独立するんだよ、東満省。ルオの国から」


「はい?」


「ふうん」


 え、いやいや。シャネルさん。反応薄くないですか?


「ら、攬把! それ本当ですか!」


 さすがのハンチャンも焦っている。どうやらこいつも初耳らしい。


「俺様は嘘が嫌いだ。そのための準備はもう進めてある」


「いつかとは思っていましたが、とうとうですか」


「おうよ、ハンチャン。長城を超えるぞ、その時はお前が一番槍だ」


「はい」


「ティンバイ、俺は?」


「お前は俺様の後だよ」


「できれば最後尾が良いんだけどなー」


 そんなこと無理だと分かっているけどとりあえず言ってみる。


 にしても独立? ルオの国から?


 信じられないな。例えるならあれだ、自分の住んでいる都道府県がいきなり日本国から独立するって感じだ。意味わかんねえよな。


「この東満省には大攬把と呼ばれるのはもう俺様だけだ。つまり俺様が独立を宣言すれば、他の残存はこぞって恭順するさ。そうなれば兵力はルオの正規軍とも並ぶ」


「そしたらとうとう攻め入るわけだな」と、俺。


「そうだ」


 しかし問題があることもまた事実だ。


 あの龍だ。


 リンシャンさんであるかどうかは今を持って分からない。しかし、あの龍をどうにかできないことには頭数をどれだけ集めてもダメだろう。


 実際、この前、俺たちが会った龍はあのまま北へと飛び、東満省の他の大攬把と呼ばれる馬賊たちを根こそぎ蹂躙じゅうりんしていったらしい。


 どうして奉天だけが無事だったのかは分からない。


 リンシャンさんがティンバイを見逃そうと思ったのか、それとも現実的に見て、東満省でも随一の都市である奉天を破壊するのは国益に影響を与えると思ったのか。


 なんにせよ、この土地に残っている馬賊の頭領はいまやティンバイだけなのだ。


 彼はいま、押しもされもせぬ東満省の総攬把ソンランパである。


「なんにせよ、これから忙しくなりそうですね。あら攬把、それロンですよ」


「だと思ったよ」


 と、ティンバイは強がってみせた。




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