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133 スーアとあざなで呼んでください


 野菜、どうみても野菜だ。さきほどもらっていたようだ。


「あ、あのさ。その野菜なに?」


「え、あ、これ、ですか?」


「うん」


「これは……はい。もらいものです」


 見りゃあ分かる。


 というか見てたから分かる。


 くそ、なんでも良いから会話をつなげてくれよ。これだからコミュ障は。あ、俺もか。


 なんていうかコミュ障が2人集まるとこうなるという代表例だ。会話が毛糸の塊みたいにはずまないのだ。


「美味しそうだね。なにかのお礼?」


 ナイス、俺。こうして疑問をぶつけることによって相手に答えることを強要するのだ。


 たしか昔、なんか『猿でも会話ができる本!』みたいなので読んだ。いや、よく考えたら猿が人語を話たら怖いと思うけど。


「あ、いえ。これはその、ただもらったんです」


「ただもらった?」


「は、はい」


 なんで? よく分からない。でもフォンちゃんは恥ずかしそうにしているからあまり聞かないほうが良いのかな?


「良かったね」と、俺はとりあえず言っておいた。


「はい」


 終わった。


 うかつだった。


 これで会話は終了だ。


 俺とフォンちゃんの間を静かな沈黙が支配する。


「……」(俺)


「……」(フォンちゃん)


「……」(俺)


「……」(フォンちゃん)


 ダメだ、拉致があかない。


 フォンちゃんも気まずそうにあっちこっちをキョロキョロしはじめた。


 こうなったら最終手段だ!


 ――アイラルン!


 俺は心の中で最高に素敵な女神様の名前を呼ぶ。


 ドラ○もんを呼ぶ感覚で助けを求める。


「ナンダイ、シンククン」


 なんかいきなりアイラルンが裏声を駆使して現れた。


 あれだ、初代の声にちょっとだけ似てるぞ。


 どうやら時間は止まっているよう、フォンちゃんは怯えたような顔をしたまま停止している。


「あ、いや。会話が続かなくて。なんかひみつ道具だしてくれよ」


「そんなものありませんわ、朋輩」


 あ、戻った。


「ないの?」


「でもアドバイスならできますわ」


「おお、それでいいよ」


「会話が通じないなら、とりあえずデートに誘いましょう」


「は、なんで?」


 意味わかんないし。


「だって朋輩、ここで立ち話をしてこの方を仲間に引き入れることなんてできますか?」


「いや、そりゃあ無理だろうな」


 だってまともに会話が通じてないし。


「ですので、ここは一度場所を変えるんですわ。2人で出かけて、いい雰囲気になってから改めて仲間に誘うんです」


「えー、それでも難易度高そうだぞ。というかいきなり誘っても断られるだろ」


 そうなったら俺、ショックで寝込んじゃう。


「でしたらわたくしにいい考えがあります。こう誘えば良いのですわ。『俺の彼女にプレゼントを買ってやりたいんだけど、この街のことよく知らなくて。よければ一緒に選んでくれないかな? 女の子の意見も聞きたいし』」


「ほうほう」


 そんな長いセリフ覚えられるかな。


「彼女がいると伝えることによって、相手に安心感も与えることになるでしょう。その子はみたまんまウブそうですし、彼女がいる=他の女性には乱暴をしないと思うでしょう」


「いやいや、さすがに彼女がいなくても乱暴なことなんてしないよ」


 ここでいう乱暴とは、つまりあれだ。レイプってやつだ。


「本当に?」


 じっと見つめられる。


「あ、いや」


 目をそらしてしまう。


「朋輩、わたくし知っているのですよ」


「な、なにをさ」


「朋輩があちらの世界で、ロリータな二次元の女の子を好きだったのを」


「うるせえ!」


 人の趣味を笑うな!


 まあでも確かに、正直フォンちゃんのことは可愛いと思ってました。


 ロリコンロリコンと何度も言っていたのは俺自身、彼女のことを気に入りそうだったので無理して反発していた部分はある。


 でも大丈夫だろ、たぶん。俺にはシャネルがいるんだから。


「朋輩、なんでも良いですけどシャネルさんを泣かせるようなことはしてはいけませんよ」


「意外とあいつの肩を持つんだな」


「だってあの子、わたくしの信者ですもの」


 そういやそうだった。


 たしかこの世界にはアイラルンの他にディアタナという女神がいて、シャネルはアイラルンに鞍替えしたのだ。


「ま、そこは大丈夫だ。たぶん」


 たぶん。


「心配ですわ」


「なんにせよ分かった、もう帰っていいぞ」


「まあひどい。でも分かりましたわ、帰ります。わたくしって都合の良い女」


 アイラルンが消え、時が動き出した。


「ねえ、フォン先生」


 俺はさっそくアイラルンに教えてもらった口説き文句でフォンちゃんを誘う。なんだかナンパみたいだな、と自分で思った。


「は、はい」


「あのさ、俺ってば彼女がいるのよ」


「は、はい?」


 なんの話、という顔をされた。


 えーっと、この次はなんて言うんだったか。


「あのな、それでプレゼントを買いたいんだ、お土産ってやつ」


「……はあ」


 それで、それで。えーっと。


「でもこの街にも慣れてなくて、女の子の好みとかも分からないからさ、一緒に選んでくれない? 朝ごはんも奢るから」


 後半はアドリブだ。


 フォンちゃんはなんだか不思議そうに俺を見て、こくりと頷いた。


「わ、分かりました」


「本当? ありがとう」


 やりました、榎本シンク。人生で初のナンパを成功させました!


「あの、でも1つだけ良いですか?」


「なに?」


「その……フォン先生って言うのはやめてください。あんまり先生と呼ばれるのは好きじゃなくて」


「じゃあなんて呼べばいいかな?」


雛愛スーアと、あざなで呼んでください」


 上目遣いで見られる。


 その瞬間、ちょっとドキッときた。なんだろうこれ、心不全かな? いや、恋かもしれない。どっちにしろやばい。


「わ、わかったよ。スーアちゃん」


 フォンちゃんあらため、スーアちゃんはちょっと嬉しそうに微笑んだ。


 ……かわいい。


 なんだか彼女のツインテールは俺のために結ばれているように思えた。


 なに言ってんだ、俺。


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