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129 一緒に行こうとの誘い、しかし断れる

あまりにもキャラクターが増えてきたので、三章のはじめにキャラクター紹介を追加しました

もしよかったらそちらも見てください


「どうぞ……あの、これ。お茶です」


「おう」


「……ひっ!」


 いやいや、ティンバイがただ返事しただけだぞ。


 それで怖がるってさすがに失礼なくらいじゃないか?


 ティンバイも呆れているようで、茶を飲みながら片目で俺に、大丈夫かよこいつと視線を送ってくる。


 知らん。たぶん大丈夫じゃないだろう。


 すくなくともこの子を連れ帰って、奉天で俺たちの軍師として使役するのは無理そうだ。


 俺たちが通されたのは、ただの部屋。というかこの家は部屋が一部屋しかないようで、もちろんのこと二階もない。


 なんだか殺風景だ。立って半畳寝て一畳って言葉があるけれど、そういう感じだろう。


 全てを諦めた世捨て人の部屋のようだった。


 その部屋の中で一番目を引くのは、鳥かごだろうか? 小鳥が入っているが、鳴くこともせずにおとなしい。


「あ、あの……お2人は本当にあの張作良チャンヅォリャンと、小黒竜シャオヘイロンなんですか?」


「俺様の方に張作良がいるならちげえかもしれねえがな」


「なんでも良いけどその小黒竜って呼び方、みんな知ってんのね」


 つうか呼ばれてる本人である俺意外知ってんのか?


 奉天でも講談師はいたけど、さすがに馬賊の講談を聞いたことはなかったからな。なんか恥ずかしくないか? 身内の活躍を聞くのって。


「あの……私に用というのは」


「さっきまであったけど今はねえよ」


 いや、まあそうなんだけどね。でも言い方ってもんがあるだろ。


「……そうですか」


 ほら、鳳先生フォンシェンシャオ、泣きそうになってるじゃん。


 つうか鳳先生って感じじゃないよな、どう見ても。どっちかというとフォンちゃん? いや、いきなりそんなふうに呼ぶのはなれなれしいか。


「あ、あのさ。良い家だね。独り暮らししてるの?」


 とりあえず家を褒めてみる。


 なにかしら会話がないと息が詰まりそうだ。


「あ……はい」


 しかし続かない。


 いかんぞ、この子もコミュ障か? やべえな、まさか俺がこの場をリードすることになるのか。


「え、偉いね。そんなに若いのに」


「い、いえ。もう15なので……成人はすませています」


 え、15?


 見えね~。


 いやよく見積もっても中学生1年生だろ。15っていったら中3か高1? いやはや、これが合法ロリですか。え、15も違法か。でもこの異世界じゃあ成人らしいし……良いよね!(なにが?)


「けっ、俺様はもっとガキの頃から1人で旅をしてたぜ」


「そ、そうですよね……私なんてこんな家で……すいません」


 なぜか謝るフォンちゃん。


「おいティンバイ、あんまりきつく当たるなよ」


「うるせえな、俺様に指図するんじゃねえよ」


「そういうの、お前の悪いところだぞ」


 俺のように優しく、紳士的にならなければ女の子にはモテないのだ。モテないのだ。


 2回言っても嘘は嘘。


「ま、いい家なのは認めるがな」


 あら、ツンデレか?


 いきなりどうした。と思ったら、ティンバイは壁に張られた地図を見ていた。それはここらへん、ルオの国の地図だろうか。俺もあんまり見たことないけど、たしか元いた世界の中国もこんな感じの形だったよな?


「あ、それは……」


 フォンちゃんは恥ずかしそうにしている。


 なぜか地図を見られるのが恥ずかしいらしい。なにやら書き込みがしてあるからだろうか。たまにいるよね、本とかに書き込みするタイプの人。ちなみに俺はしない。


「あんたの書いた本、読ませてもらったぜ」


「……え?」


 へえ、本とか書いてたんだ。


「って言っても俺は文字が読めねえからな、読んで聞かせてもらった。良いこと書いてあったぞ」


「それってどんな本なの?」


「……あ、あの。わ、若気のいたり、です」


「まだ若いでしょ、キミ」


「で、でも……」


「過激な本だったな、王朝を打倒して新たな政府をつくる。もっともそれは現実的ではないからこそ、王朝の復興案を書いた。あんなもの書いて目をつけられなかったのか」


「……あ、あの。はい。つけられました。ですからここに、落ち延びました」


「はっ、長城からこっち側は落ち延びた先かい? バカにしやがって」


「……あ、いえ。……そういう意味では……すいません」


 消え入るような声でファンちゃんは謝る。


 マジでいじめるなよ、こんな可愛らしい子を。俺はフォローしたいのだが、話の内容が少し難しそうなので何も言えない。


「その机の上、新しい書物かい?」


「え……あ、いえ。これは発布するつもりはなくて……」


 文机の上の紙のことだろう。


 たしかにたくさんの紙が置いてある。その横には丸められてくしゃくしゃになったものも。なんだか昔の小説家のようだ。


 きちんと整理された部屋の中で、文机の近くだけは掃除がされていない。


「すごいね、文字が書けるんだ」


 この国じゃあ文字の読み書きができる人は少ないのだ。俺もそのうちの1人なのだが。だからそれができるだけで他の人からは知識人として尊敬される。


 もっともフォンちゃんはなにやら難しい試験に受かっているらしいから、それも当然か。


「あ……いえ。……はい」


 フォンちゃんは照れくさそうにしている。


 ……かわいい。


 いや、ロリコンじゃないよ。俺。


 でもあれだ、いつもシャネルの巨乳ばっかり見てたからね。たまにはこういうのも良いね。巨乳が嫌いってわけじゃないけどさ、甘いものばっかり食べてたらしょっぱいもの食べたくなるでしょ、あれと同じ。


「いいなあ……」


 ぎょっとした顔でティンバイがこちらを見る。


「兄弟?」


「あ、いや。こっちの話」


 でも可愛いのは本当だ。


 なんていうか、顔が整っているんだ。奇麗な髪は色素が薄いのか、この国じゃあ珍しい薄い色をしているし、目なんて翡翠みたいに緑がかっている。口元は小さくて、ちょこんとしていて、そのくせきれいな桃色で。


 うーん、やばいな。ロリコンに目覚めてしまいそうだ。


「あ、あの。お茶のおかわりいりますか?」


「う、うん」


 そのうえ気が利く。


 優しいなあ……。


 お茶は入り口ちかくのかまどで入れている。そこはキッチンにもなっているのだろう、土間ってやつだね。


「おい、兄弟。お前、ああいうのが好みなのか? あの美人の女はもしかして好みじゃないのかよ」


「シャネルか?」


「ああ、八門先生が言ってたぜ。お前ら、一つ屋根の下にいてもヤッてねえんだろ?」


「うぐっ!」


 なんてこと言うんだ。それは俺にクリティカルヒットするんだぞ。


「や、や、やってないからなんだだって言うんだよ」


「動揺しすぎだろ」


「つうかなんで知ってんだよ、占いか。そんなこと占うなよ!」


 くそ、フウさんのやつめ。なんてやつだ。人様の夜の事情をぶちまけやがって!


「あ、いや。なんかお前ら、どっかの村で一緒になったんだろ? その時の夜に、ぜんぜんやらねえからがっかりしたらしいぜ」


「あのときか!」


 最初に会った村だ、なんだやらないからがっかりって。もしかして夜に聞き耳たててやがったのか。


 くそー、ぜんぜん気づかなかった。


「兄弟、やれるときにヤッておけよ?」


「うるせえ!」


 そのやれるときを邪魔したやつが何を言うか。


 まったく、俺って運がなさすぎだ。


「あ、あの……お茶をどうぞ」


 フォンちゃんは顔を真っ赤にしてお茶を出してくる。たぶんいまの話、だいたい分かって恥ずかしがっているのだろう。


 こういう歳の子って性知識を得たばっかりで、そういうのに敏感だからね。教育に悪いですよ。


「それで、本題だ」


 冗談は終わりだ、とばかりにティンバイはフォンちゃんを睨む。


「は、はい」


「あんた、こんなところで何してんだ?」


 まるで煽るようにティンバイは言った。


 ファンちゃんはうつむいて、そして何も答えない。


「なあ――」追い打ちをかける。「あんたはこんなところで隠居しているような人間か? 稀代の天才なんだろ、鳳先生よ」


「……帰ってください」


 フォンちゃんは思いの外はっきりと言った。


「言われなくても帰るぜ、こんな場所からはな。負け犬根性がしみついちまう」


 ティンバイはお茶を飲み干すと立ち上がる。


「お、おい!」


 あんまりにもひどい言い方だったので、俺はさすがに口を挟んだ。


「なんだよ、兄弟」


「さすがにひどすぎるだろ。この子が何をしたっていうんだ」


「なにもしなかった」


 ――なにもしなかった?


 それが悪いことだというのだろうか。


 しかしフォンちゃんもそのことを気にしているようだった。


「てめえはもうなにもするつもりはねえのか?」


 ティンバイはフォンちゃんに言う。


 怒るかな、と思ったらフォンちゃんは泣いていた。たぶんそういう性格の子じゃないのだ、だからこそティンバイはひどい男だと思った。


「……私は、もう終わった人間です」


「そうかよ。あばよ、もう会うこともねえ」


 ティンバイは出ていく。


 俺は泣いているフォンちゃんになにか言葉をかけたかった。だけどなにも言えない。


 この場所では俺は部外者のようなものだったのだ。


 だから、


「また来るよ」


 と、だけ無責任に言った。


 フォンちゃんはなにも答えなかった。


 ティンバイを追って外に出る。


「ったくよ……」


 ティンバイは苛立たしげにキセルを取り出した。青い龍の彫られたキセルだ。


「なんであんなにきつく言ったんだ?」


 お前は英雄だろう、と俺は責めたつもりだ。


 他人を守る、優しく強い男が英雄ではないのか?


「あの女には力がある。この乱世を治めるだけのな。しかしそれをやらねえでこんな場所に引きこもってやがる。俺様はそんなやつは大嫌いだ」


「引きこもる理由があるんだろ」


「いいや、違うね。あいつは違う。ありゃぁただビビってるだけだ。この場所から出ることをな。本の内容を見るに、もっと骨のあるやつかと思ってたが期待はずれだぜ」


傲慢ごうまんだな、かってに期待してそれに答えられなかったら怒るのか?」


 ティンバイは俺から視線を外した。


「そうさ、俺は傲慢なのさ。だがな、あの女だって本当は戦いたいはずだ。勇気がないだけなんだろうさ。こんな場所にいるのは欺瞞ぎまんだよ」


「あんまり難しいこと言うなよ」


「すまねえな、兄弟。こんばんの宿を探そうぜ。てきとうにそこらの馬賊をあたれば宴会だ、今日はたらふく飲みたい気分だよ」


「珍しいな、お供するぜ」


「おうよ」


 俺たちは馬に乗り込む。


 帰る前に振り返る。フォンちゃんの屋敷は静かにたたずんでいる。中には誰もいないようだ。


 フォンちゃんはもう何もかもを諦めてしまったのだろうか?


 彼女は終わった人間なのだろうか。


 それともティンバイがいう通り、ただ勇気がないだけだろうか。俺には分からなかった。


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