012 冒険者登録! スキルの確認!
ギルドの扉を開けて中に入る。
ああ、このいかにもな感じ!
まず目についたのは受付だ。そこには茶髪のお姉さんがいる。俺たちが入ってきたことに笑顔で会釈してくれる。
そして壁には紙や羊皮紙が貼られている。俺は文字が読めないから分からないが、あそこに依頼内容が書かれているのだろう。まあだいたい冒険者ギルドっていうのはそういうものだ。
あとはテーブルや椅子があり、そこには様々な格好をした冒険者が座って談笑したり、カードあそびに興じたりしている。どいつもこいつもなんだか歴戦の猛者に見えてしまうのは俺がシロートだからだろう。
「とりあえず登録ね」
シャネルが受付に近づいてく。
「おはようございます、何か依頼を受理されますか?」
完璧な営業スマイル。もちろんブスってわけじゃないんだけど、この笑顔だけで可愛さ二割増しって感じだ。
「いいえ、そうじゃなくて冒険者として登録したいんです」
「ああ、新規登録の方ですね。でしたらこちらに登録情報を記入ください。また、登録料として三万フランいただきますが、よろしいですか?」
「二人で三万フラン?」
「申し訳ありません、お一人三万フランとなっております」
「フラン?」
たぶんお金の単位なのだろうけど、それっていくらくらいだろう。
と、思っているとシャネルは昨晩の巾着袋から銀貨を六枚取り出す。どうやら銀貨一枚が一万フランのようだ。そういえば昨日の黒い小さなコインのこと、まだ謝ってなかったな。
「どうぞ」と、シャネル。
「はい、たしかに。ではこちらの用紙をどうぞ。書けたらまた声をかけてくださいね」
受付のお姉さんは俺にもニッコリと笑いかける。
ま、かなり可愛いな。
別に自慢することでもなんでもないが、横にシャネルがいなければ惚れてたかもしれないな。
「はい、シンクの分」
「なんでもいいけどよぉ、俺、文字なんて書けないぜ」
「あらそうなの。読むことは?」
「無理」
「じゃあ私がやってあげるわ」
俺たちは手近なテーブルに。テーブルの上にはペンとインク壺が置かれている。さすが異世界、ボールペンで記入するわけじゃないんだな。
シャネルはまず、自分の分をさらさらと書いた。
ふと、俺は視線が気になった。なんだか周りの冒険者がこちらを見ている気がする。俺の服装がおかしいからだろうか?
……いや、違うだろう。たぶんシャネルがきれいだからだ。けれどとうのシャネル本人はまったく気にしていないようだった。
「じゃあ、質問していくから答えてね。名前は?」
「榎本シンク」
「えのもと、しんく……スペルはこれで良いかしら?」
「分かんないからたぶんそれで」
「年齢は?」
「十七」
「あら、貴方そんなに若かったの? 意外ね、落ち着いてるからもっと大人かと思ってたわ」
「落ち着いてるって根暗と同じ意味だったっけ?」
「別にそうは言ってないでしょ。職業の希望とかあるかしら」
「剣士とかかな? そういのってこっちで言って通るもんなの?」
普通はパラメーターと相談するものだと思っていた。
「まあ厳密に決まってるわけじゃなくて、言うなれば自称だから。つまり自分は剣士ですって言えば、他の人とパーティーを組むときとかに分かりやすいでしょ。その人の得意分野があるってのは。でもギルドの方でもランクがあるから、シンクも最初はFランクの剣士よ」
「ちなみにシャネルは?」
「私は魔法使い。いちおう攻撃専門ってことになってるわ」
「ほうほう」
「もし回復が得意なら僧侶とかそういう職業を選ぶと分かりやすいわね」
「よく知ってるな」
「ま、ちょっとね。知り合いが冒険者をやってたのよ」
なんだか言いたくなさそうだ。それでもしかして、と思う。その知り合いというのはシャネルが復讐を誓った相手ではないのだろうか。
いったいこの娘は誰に復讐をしたいのだろうか……そして、なぜ?
「次の質問だけど、出身地は? ジャポネで良いのよね?」
「良いよ」
「あとはそうね、好きなタイプは?」
「はいっ?」
「だから好きなタイプ。どういう娘が好きなの?」
「え、いや……そりゃあ……」
キミみたいなの、とは言えないよな。
「好みのタイプよ」
「強いて言うなら……炎タイプかな」
ポケ○ン的な。
「炎タイプ? つまり火属性の魔術が使える娘が好きなのね」
「どうしてそうなるんだよ!」
っていうかシャネルは火属性だったな。
「違うの?」
「いや……あながち間違ってもないけど」
「なら好きなタイプは火属性ね。本当はもっと詳しく知りたかったんだけど」
「なあ、今の質問って絶対ギルドの質問じゃないだろ」
「バレた?」
まるで俺をからかうようにシャネルは目を細めた。
どうやらギルドからの質問は「名前」「年齢」「職業」「出身地」だけのようだ。けっこう簡単な手続きで冒険者になれるのだな。
シャネルと共に受付へ。用紙を提出すると受付のお姉さんはわざとらしくニッコリと笑う。
「はい、確認しました。では次にギルドカードの発行をします。説明を聞きますか?」
シャネルは俺に、どうぞご自由にという視線を送る。
「お願いします」
ギルドカードってまあ、だいたい理解できる気がするが。
「では説明をします。こちらがお二人のギルドカードになります。表には個人情報が。裏にはスキルが書いてあります。現在はまだ登録されていない状態ですので何も書かれていませんが、こちらを見ることでその人の情報のあらかたが分かります。人に見せることはあまりオススメしません」
「スキルって……?」
「あら、ジャポネの人って自分のスキルを知らないの? 子供の頃とかに調べてもらわないのね」
「え、いや……まあね」
「大丈夫ですよ、スキルはこちらで登録の際にも確認できます。こちらのカードは簡易的な通行手形の変わりにもなりますので、犯罪などを犯さない場合は関所を通ったり、入国をしたりなどに使えます。ちなみに紛失した場合は登録をし直す必要がありますし、五万フランかかりますので無くさないようお願いします」
「だいたい分かったな。つまり大事なカード、と」
「そうですね。これで説明は終わりです。続いて登録に移ります。こちらへどうぞ」
受付のお姉さんは立ち上がり、俺たちを案内する。
立ってみて分かったのだが、けっこう小柄なお姉さんだ。
「あのクリスタル……小さめね」
「クリスタル?」
案内された先には六角柱の水晶体があった。それはちょうど1・5リットルのペットボトルくらいの大きさで、空色をしていた。
「はい、こちらは簡易クリスタルとなりますから。パラメーターは分からず、スキルだけが確認できます。申し訳ありません」
「なんだ、パラメーター見れないのか」
「ま、スキルさえ分かれば十分でしょ。どうぞお先に、シンク」
「俺からか? で、どうすればいいの?」
「簡単ですよ。ただこのクリスタルに手をかざせば良いだけです。そうすればギルドカードに情報が登録されますから。あ、でも手を触れてはダメですよ。共振反応が起きて炸裂する場合がありますので」
「こわっ! なんかそんな実験聞いたことがあるぞ……デーモン・コアみたいな名前の」
とはいえここはやらねばならぬ。
俺は恐る恐るクリスタルに手を近づける。
「はい、シンク。これ持って」
「うん」
さっきのカードを渡された。
受付のお姉さんがクリスタルに俺の個人情報が記入された紙をとばす。紙はふわふわと舞ったかと思うと、吸い込まれるようにクリスタルの中に消えていった。
そして水色の光が――。
次の瞬間には、俺のギルドカードに文字が浮かび上がっていた。
「はい、成功です」
「良かったわね」
「え、なにその言い方。失敗することもあるの?」
「まあ、滅多にありませんけどね。私もここの受付を長いことやってますけど、一度も見たことはありません」
「ちなみに失敗したらどうなるの?」
「……」
「……」
二人が口をつぐむ。これあれだ、絶対やばいやつだ。
「シャネル、そんな危険なこと俺にやらせるなよ」
「でもどうせやらなくちゃイケナイことよ」
そう言うやいなや、シェネルはクリスタルに手をかざす。そして先程の俺が起こしたのと同じ現象が。危ないと分かっているのに、シャネルは顔色一つ変えずにその儀式を終えた。
「というわけで、お二人とも成功ですね」
「ま、こんなもんよ。というかシンク、危ないって分かったら尻込みするでしょ? だから先にやってもらったのよ」
「言われてみればそうである」
ま、なんにせよ大丈夫だったわけだ。
それにしても、ギルドカードか。俺は裏面を確認してみる。スキルが描かれているらしいが、おやっ?
文字が読める。というか日本語で書かれているのだ。
「どう、シンク。スキルの方は?」
「いや、それがさ。これ見てよ」
「……これ、ジャポネの文字? 読めないわ」
「だろ。日本語で書かれてるんだ。受付のお姉さん、こういうことってあるんですか?」
「いえ、私も初めて見ましたが……でもそうですね、聞いたことはありますよ。噂程度ですが、なんでも勇者様が初めてギルドで登録したときは、ものすごい騒ぎだったとか。そもそもパラメーターが桁違いで、しかも異国の文字でスキルが書かれていたって話です」
「あら、じゃあシンクも勇者と同じなのね」
「おお、すえは俺も勇者だな」
それで、俺のスキルは3つ。少ないな……。
『武芸百般EX』
『5銭の力』
『女神の寵愛~シックスセンス~』
いったいこれ、どんなスキルなんだ!?




