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トガギン  作者: 水上 弾
7/10

7

 自分でもどうかと思うが、本田将人(まさと)の生活に規則はない。


 一般に照らせばそれは場当たり的で、自堕落(じだらく)と呼ばれることだろう。

 食いたいときに食って、寝たいときに寝て、遊びたいときに遊ぶ。

 そして(ふところ)(さび)しくなったら()る、殺る、からトガギンへ。


 ストレスフルなこの社会で、オレはもう何にも心を痛めることがない。我慢することがない。 

 こんなご機嫌な人生、他にあるだろうか?


 そこにアルコールが入ればもう完璧だ。


「もぉ、マサくん飲みすぎだよぉ」


 甘ったるい女の声を背中に、雑な居酒屋を出る。


 深夜はだいぶ前に過ぎていた。

 降っていた雪は止み、道に積もった白も踏み荒らされて、ぐちゃぐちゃに(にご)っている。


「飲み過ぎてねぇ。まだ倍はいける。おっ、」


「あぶなっ。ほら、転びそうじゃん」


 一瞬足元が覚束(おぼつか)ない。

 でもそれは酒のせいなんかじゃなくて、雪で(すべ)っただけのことだ。アルコールには耐性があるのだし。

 けれども女は……名前なんだっけ……酔っ払いの戯言(ざれごと)と思ったらしく、くすりと笑う。


「じゃあ、続きはアタシの家でしよ? お酒と、それからお水買ってくるからさぁ」


「水なんていらねぇってのによ」


「いいからいいから」


 やって来たのは公園だ。

 夜に眠る遊具たちは雪を(かぶ)って重そうにしていた。

 (つぶ)されまいと懸命(けんめい)に身を(かが)めているかのようなそれらは、どこか(あわ)れで、どこまでも(いびつ)である。

 ……オレも、ついこの前までこうだったのか。


 この身に降り積もる不自由に潰されないよう、必死に身を(すく)めて生きていた。

 どこか哀れで、どこまでも(ゆが)んで。

 ……そう思うと、酒で温めた心胆(しんたん)()めるようだった。


 女は、雪を払ったベンチに座るよう(うなが)してくる。


「そこで待ってて。()るもの買ってくるよ」


「おい、」


 こっちの返事も聞かずに、女はさっさと行ってしまう――いいか。腰を降ろして待っていれば。


「……つめたっ」


 寒さが体温と、酒気(しゅき)を少しずつ飛ばしていく。


 遠くで犬が鳴いた。


 どれくらいそうしていただろう。


 雪を踏む、足音がして。


「やっと戻ってきたか。おせぇよ」


「――見つけた」


「……あ?」


 顔を上げると。

 浴びるのは、燃え立つような、憎悪(ぞうお)眼差(まなざ)し。


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