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トガギン  作者: 水上 弾
5/10

5

 頬がだらしなくニヤけるのが止められない。

 このまま走り出してしまいそうだ。

 落としたナイフを、拾う手が震える。

 いつの間にか寒くない。心と身体が高揚(こうよう)して、むしろ涼しくて心地良い。


 (うず)く。


 疼く。


「では本田様、いくつか申し上げておくことがございます」


「あん?」


「まず一つ目。ここ、禁庫に入れた罪には、時効が適用されません」


「いつの間にか無くなってたりしない、ってことか?」


「その通り。

 とはいえクライム・バンクに預け入れの期限はございませんので。本田様にお引き出しの意志さえ無ければ、御身(おんみ)は無罪潔白のままでございます」


「じゃあその時効うんぬんに何の意味があるんだ」


「お引き出しの際にご留意いただければ」


「はっ」


 鼻で笑ってしまう。


「ありえるわけぇだろ、そんなこと!」


 罪を引き出すなんて、そんな奴いるのか? 

 なんでせっかく取った罪を、わざわざ。お(たず)(もの)に戻るなんて御免だ。


「左様でございますか。

 では二つ目。お預け(いただ)いた罪には、利子が発生いたします。禁庫内に納めた罪の大きさ、期間に応じまして、相応の」


「……罪が増えるってことか?」


「えぇ。利子分の罪は直接受け取ることも出来ますが。とりあえずの設定は、こちらの禁庫に追加していく形、でよろしいですか?」


「よろしいに決まってんだろ! 禁庫に入れときゃ利子分も合わせてオレは潔白なんだろ? こっちに持ってきたらぶっ殺すぞ!」


「失礼いたしました。それから、」


「なぁ、八木沼ぁ!」


 せっかくハイになっているのに。

 聞く意味の分からない諸々は、こう、水を差された気分だ。


「んなこといいからもう出ようぜ! オレはオレの罪がオレからさっぱりこの禁庫に移ってくれてりゃ、それでいいからさ!

 このオレが、知らない間に罪人に戻ってるなんてことは、ねぇんだろ?」


「あり得ません」


「じゃあ後はなんだっていいよ!」


「かしこまりました。では上へ戻りましょうか。なにかお(たず)ねになりたい事がございましたら、お手数ですがその都度(つど)お問い合わせください」


「はいはーい」


 八木沼の先導で禁庫を出ると、背後で()せっぽちが扉を閉める。

 ……その軋む、重苦しい音の、なんと心地良いこと。


 来るときと比べ、帰りは扉の解錠(かいじょう)も、心なしかスラスラと進むようだった。

 地上へのエレベータに乗りこんだときに、ふと思い出したことを八木沼に(たず)ねる。


「なぁ、八木沼」


「はい、なんでしょう」


「もしも、だけどよ。もしだよ?

 これからオレがまた、罪を犯したとしたら……それも、また預かってくれんの?」


 にやりと、悪魔は笑った。


「えぇ。もちろんにございます」


「……やったね」


 オレも、同じ顔で笑っていた。


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